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第二章:極悪対決

アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (6)

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「おい、狼男の旦那、今は一時共闘中と思っていいのか?」
 あたしは、狼男に声をかける。
当り前あたりめえだ。ここがマズい事になったら……俺達も商売あがったりだ」
「じゃあ、力を借りるぞ」
「おい、何しやが……」
「すまん、気を楽にして、力を抜いてくれ」
「嫌な予感しかしねえが……他に手は無いねえようだな」
 さっき河童達に使ったのと同じ……「形代かたしろの術」。
 現実の魔法とか呪術による攻撃は……ファンタジーRPGなんかと違って、基本的に物理効果ほぼ無しの呪詛だ。
 気だの霊力だので、相手を攻撃する。
 もし、力や技量にデカい差が有る相手を攻撃すれば……いわゆる「呪詛返し」で、こっちがダメージを受ける。
 ストロー級のボクサーがグローブなしで体重が倍以上の筋肉ダルマを殴れば自分で自分の拳を痛めかねない。
 格闘技の技量が段違いの相手を殴り付ければ……相手からすれば「攻撃を捌いた」だけなのに、自分にとっては……そして傍から見れば「自分の攻撃の勢いを逆用され、投げ飛ばされた」ような状態になる事も有る。
 それと似たような事で、魔法・呪術・心霊系の攻撃を誰か……それも同じ魔法・呪術・心霊系の能力・技術を持ってる奴にやるのは、常に危険が伴う。
 残念ながら、魔法オタクの成れの果ての「魔法使い」の多くは……この辺りの認識が蜂蜜よりクソ甘いんで、一人前になれても長生きは出来ねえ。
 そして、今、あたしが使おうとしてるのは……「狼男が魔法的な攻撃をやった」ように攻撃対象である「鬼」に誤認させる術。
「オン・バサラ・クシャ・アランジャ・ウン・ソワカ」
「えっ?」
 多分……「鬼」には……狼男の体から出た炎が、自分に向って来るように「観」えているだろう。
「がががが……」
 「鬼」の口からは、呪文なのか絶叫なのか判らない声。
 「鬼」が自分の身を守ろうとして放った邪気と、あたしの「気」がぶつかり合い……。
「ぐえっ⁉」
 狼男が絶叫。
「大丈夫か?」
「ああ、何とかな……。でも、何をやりやがった?」
「え……えっと……何て説明すりゃいいか……」
 早い話が……あたしの攻撃を防がれた反動を、この狼男が、あたしの代りに食らった訳なんだが……。理解出来るように説明したら、こっちの命が危なそうだ。
「おい、何で、そいつと仲良くつるんでんだ?」
 その時……非難するような口調の声……。
 声の主は……もう1人の
 ヤクザの幹部の方の銀色の狼男の、すげ~仲が悪い息子で……「正義の味方」の同じチームの奴だ。
「まあ、いい。巧い手を思い付いたな……」
 ヘルメットの「目」が小型カメラになってて「頬」から防毒・防塵マスクの一部が出てる以外は黒っぽいプロテクター付ライダースーツみたいな衣装のが2人。
 更に、黒いコートに中国の京劇の孫悟空みたいな感じのペイントがされたヘルメットの奴が1人。
 ようやく応援が到着したようだ。
「話は大体聞いてるが……気を付ける事は?」
「あの『鬼』は体が脆いけど……物理攻撃で傷付けると、傷口が剣呑ヤバい『異界』への『門』になる」
「『魔法』で邪気を浄化するしかないか……その割には……」
「ああ……邪気の量がハンパねえけど……3人なら何とかなるか?」
「厳しいが……それしか手が無いな。『小坊主』さん、いいっすか?」
「はい」
「お……おい……またやる気か?」
 狼男が抗議の声をあげるが……。
「オン・バサラ・クシャ・アランジャ・ウン・ソワカ」
「オン・マリシエイ・ソワカ」
「妙・法・蓮・華・経・序・品・第・一」
「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・カン」
 ここに居る3人の「魔法使い」系が同時に呪文を……えっ?
 何だ、4つ目のは?
 狼男の体を通して……三種類の「気」が「鬼」に向けて放たれ……。
 けど……。
 あたしの「気」は同じ「炎」に「観」える「気」により防がれ……。
 残り2つの「気」も似たようなタイプの「気」で防がれる。
「用は済んだ……帰るぞ……」
「が……?」
 鬼に声をかけた女には……覚えが有った。
「な……何だ……奴は……?」
 応援でやって来た仲間の「ミラージュ」が……驚愕の声をあげる。
 その女が放つ「気」を……あたしの脳が無意識の内に「映像」に翻訳している。
 多分「ミラージュ」にも……同じモノが見えているのだろう……。
 不動明王と愛染明王の2つの頭を持つ異形の忿怒尊……。
「うそだろ……何で……九州ここに居やがる……?」
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