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偉大なる種族の誕生と、それにまつわるささやかな謀略
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俺は、ありあわせの部品を組合せて作った一応は動く自動車で、そこへ向かっていた。
途中で通りがかったのは、かつて「博多」または「福岡市」と呼ばれていた廃墟。
とは言え、ここが「博多」だと云うのは、かろうじて動いているGPSから判断したもので、俺が、まだ若かった頃の記憶からは懸け離れた姿になっている。多分、GPS衛星も、あと数年で機能しなくなるだろうが。
華やかだったであろう町は変わり果て、そこかしこを巨大なゴキブリが徘徊し、そのゴキブリ達の守護者である、「頭」から何本もの長い触手が出た円錐形の巨大な「兵器」が町を見守っている。
町からは人間用の建物は消え、ゴキブリ達の体格や生活に合わせたであろう異形の建物が立ち並んでいた。
ゴキブリ達は、時折、俺達の方を見るが、最早、絶滅危惧種と化した我々「人類」を脅威とは見做していないようだ。
おそらく、その判断は正しい。
最早、俺達には、あのゴキブリ達にダメージを与えられる武器すら、ほとんど残っていない。有ったとしても……「いざと云う場合の自衛」以外に使う者は居ない。残り人類全てが、全力をもって、死を賭して、殺せるだけのゴキブリを殺したとしても……ゴキブリの「人口」の1%を減らせれば御の字だろう。
人類は敗北し、彼等の「気紛れ」によって種を維持できているに過ぎないのだ。
あの世界を変えた伝染病の流行から、世界が立ち直ろうとしていた、その時、更なる災厄が人類を襲った。
気候温暖化その他の地球環境の変化によって、ある場所では旱魃が起き、別の場所では、それまでなら、数年に一度の規模だった暴風雨や大雨が、年に何回も起きるようになった。
食料生産は減る。世界経済は停滞する。
それは更なる災厄を呼んだ……世界のどこかで、数十万規模の町が丸々1つ滅ぶなど、良く有る話になった。
日本でもそうだった。例えば、どこかで地震が起きた場合、ほんの数年前なら何とかなった規模の被害でも、政府には対応する能力やリソースは既になく、他の国も手を差し延べる余裕は無い。そして、その地域は見捨てられ、滅んでいく。
そして、世界各国が相互不信に包まれ、1つの国の中でも、地域と地域、人と人との対立が当り前になった時、奴らが現われた。
巨大な上に、少なくとも人間の子供程度の知能や判断力は有るらしいゴキブリどもが世界中で同時多発的に誕生し……それを守る「兵器」が太古の地層から姿を現わしたのだ。
世界各国は国力が著しく衰えた上に相互分断された状態で、この「敵」に立向う羽目になり……あっさり、各個撃破された……らしい。
らしい、と云うのは、ゴキブリや巨大兵器との「戦争」が終る前に、インターネットやそれ以外の通信手段は機能しなくなった為だ。
「あんたも……噂になっとる『イイズンガミサン』古墳に行こうとしとるんか? なら、すまんが……乗せてもらえんか?」
そう声をかけてきたのは、俺より一〇か二〇ほど年上らしい爺さんだった。
「どうした?」
「車の燃料が無くなってな……」
「おい、まさか、それガソリン車か?」
俺は、爺さんの乗っていた車を見てそう言った。一応は、文明崩壊以前に作られたモノのようだ。
「あぁ……」
文明が失なわれた時、人間は思い知った。今まで、当り前だと思っていたモノの多くが「文明」が有ったからこそ「当り前」だったのだと。
例えば、ガソリン。
揮発しやすい物質であるガソリンは、文明が崩壊したと同時に、保存が困難になった。現実は「マッドマックス」や「北斗の拳」では無かったのだ。
今動いてる車は、ディーゼル車ぐらいだ。太陽電池を使って電動車を動かしてるヤツが居る、と云う噂は有るが、実物を見た者に会った事は無い。
「悪いが、そんな噂は、俺は信じてない。熊本の方には、まだ人間の町が残ってるらしいんで、そっちに向かってる」
「そうか……」
「だが、方向は一緒だ。鳥栖と基山の間あたりだったか? その古墳は?」
「ああ……」
「じゃあ、乗ってきな」
二日市の辺りで日が暮れたので、野営をした。
爺さんは疲れていたらしく、すぐに眠りについた。
しかし、俺の方も……自分でも気付かない内に、かなりの疲れが溜っていたようだった。
目が覚めた時には、太陽はかなり高い位置に有り……そして、全てが消えていた。
爺さんも車も、車に積んでいた貴重な食料・燃料・日用品も何もかも。
どうやら、いつの間にか、かつて「筑紫野バイパス」と呼ばれた道に入っていたようだった。しかし、GPSは爺さんに奪われた車に積んでいたので、正確には不明だ。
とりあえず、ひたすら歩いた。
夜になっても歩き続けた。水も食料もないままに……。
時折、人間の車やゴキブリの一団と出会したが、俺には何の感心も抱かぬまま通り過ぎて行った。
当然、1日かそこらでブッ倒れた。
「大丈夫か? あんた?」
気が付くと目の前には何人もの人間が居た。
俺に声をかけたのは、その一団のリーダー格らしい、俺と同じか少し年上らしい男だった。
「どこだ? ここは?」
「鳥栖と基山の間あたりだ」
俺は、この一団に助けられたらしい。
結構広めの部屋。黒板と教壇。
俺が今居るのは、かつては、学校か何かで、この部屋は、その教室の1つらしい。
「わざわざ、下関からここまで来たのか? でも、九州でも、多分、状況は似たようなモノだぞ」
「じゃあ、熊本に人間の町がまだ有るって噂は……」
「3年ぐらい前までは、そんな噂が有ったが……今じゃ全く聞かない」
「で、ここは?」
「イイズンガミサンの噂を聞き付けて……集ってきた人間の溜まり場だ。俺は……語り部みたいなモノだ」
「語り部?」
「ああ、イイズンガミサンの噂を聞いて、ここに来た連中に『儀式』の手順を教えて……代りに食料や日用品なんかをもらってる。昔は……鳥栖の教育委員会で考古学関係の仕事をやってた」
「そもそも、イイズンガミサンって……何なんだ?」
「この近くに有る古墳だ……。〇〇年代ぐらいに、この辺りで宅地造成が有ってな……その時に発掘され……そして、とんでもないモノが見付かった」
「噂を聞いた時から思ってたけど……変な名前の古墳だな」
「この辺りは、古墳がやたら多くてな……。小高い丘が有ったら、ほぼ古墳だ。そして、古墳の中には、地元の人間にも、名前の由来がよく判んないモノが、結構、有る」
「これが……発掘された時に見付かった鏡か……」
千五百年前と見られる古墳から見付かったモノ……それは……2枚の鏡だった。
しかし、異常なのは……その2枚が……当時は無かった筈の素材で出来ていた事だった。
1枚はステンレス鋼、もう1枚はジュラルミンで、見付かった時も、錆や腐食が全く無かったらしい。
当然、誰かのイタズラだと思った者がほとんどだった。しかし……ヤツらが現われてから話は変ってきた。
その2枚の鏡には、アレの姿が描かれていたのだ……。
ゴキブリどもの守護者である「頭」から何本もの長い触手が出た「兵器」が。
「で、ステンレス製の方に書かれてる漢文は『この怪物が現われた時、古墳の玄室で、もう一枚の鏡に記された呪文を唱えろ。そうすれば、この怪物が現われる前の時代に逃げる事が出来るだろう』と云う意味で……ジュラルミン製の方に書かれてるのは、意味の無い漢字の羅列だ……。しかし、この漢字の羅列をイイズンガミサン古墳の玄室で、日本に最初に伝わった漢字の読み方である『呉音』で読んでみたヤツが居た」
「そして……」
「消えた」
「消えた後、どうなるんだ?」
「誰にも判らん。単なる自殺かも知れんよ……。でも……」
「そうか……死ぬとしても……こんな世界で生きてくより死んだ方がマシ。ひょっとしたら……今よりマシな時代に逃げられるかも知れん訳か……」
今の俺には……この呪文を使って消えていったヤツらの気持ちが判らんでも無かった……。
巧くいかなくても……死ぬだけじゃないか。希望が無いまま生き続けて……何になる?
俺は、古墳の玄室に集った十人ぐらいの連中と共に、鏡に書かれていた呪文を唱えた。
玄室の壁に描かれている奇怪な文様……それもよくよく見れば……ゴキブリと、あの「兵器」に駆逐されていく人間に見えない事も無い。
そして……。
おい、何だ、これは?
周囲に居るのは……あのゴキブリどもを護っていた「兵器」そっくりの生物達だった。それが、何百も……。
『落ち着け……新入り。理由は判らんが……世界中に、人間の精神を、この生物の体に転移させる「罠」が仕掛けてあったらしい』
声ではなかった。少なくとも「音声」では……。
心に直接響いてきた何者かの「声」。
『誰だ?』
『何者だ?』
『どう云う事だ?』
頭の中に無数の声が響く……。
だが、自分も、今、周囲に居る連中と同じ姿をしている事に気付いた時、ある疑問が湧いた。
「頭の中に声が響く」って、俺の頭はどこだ?
『どこなんだ? ここは?』
『わからん……1日の長さも地球とは違う……らしい。夜空の星座も……地球に似ているようだが……違いがいくつも有る。だが、月は1つで、地表から観測出来る惑星は5つ。そして……海中には生物が居るが原始的なモノばかりで、陸上には、植物も動物も、ほとんど居ない』
『どうなってるんだ?』
『いや……ひょっとしたらだが……』
『何だ?』
『ここは、過去の地球で……あのゴキブリどもを護っていた「兵器」を作り……そして、「ここ」に人間の精神を転移させる仕掛けを作ったのは……未来の我々では無いのか?』
『いや、その仮説が正しいとしてだ……』
『何か疑問でも有るのか?』
『あんたの言う「未来」っていつの事だ? この体に転移する前の俺達は「未来」なのか? それとも「過去」なのか?』
途中で通りがかったのは、かつて「博多」または「福岡市」と呼ばれていた廃墟。
とは言え、ここが「博多」だと云うのは、かろうじて動いているGPSから判断したもので、俺が、まだ若かった頃の記憶からは懸け離れた姿になっている。多分、GPS衛星も、あと数年で機能しなくなるだろうが。
華やかだったであろう町は変わり果て、そこかしこを巨大なゴキブリが徘徊し、そのゴキブリ達の守護者である、「頭」から何本もの長い触手が出た円錐形の巨大な「兵器」が町を見守っている。
町からは人間用の建物は消え、ゴキブリ達の体格や生活に合わせたであろう異形の建物が立ち並んでいた。
ゴキブリ達は、時折、俺達の方を見るが、最早、絶滅危惧種と化した我々「人類」を脅威とは見做していないようだ。
おそらく、その判断は正しい。
最早、俺達には、あのゴキブリ達にダメージを与えられる武器すら、ほとんど残っていない。有ったとしても……「いざと云う場合の自衛」以外に使う者は居ない。残り人類全てが、全力をもって、死を賭して、殺せるだけのゴキブリを殺したとしても……ゴキブリの「人口」の1%を減らせれば御の字だろう。
人類は敗北し、彼等の「気紛れ」によって種を維持できているに過ぎないのだ。
あの世界を変えた伝染病の流行から、世界が立ち直ろうとしていた、その時、更なる災厄が人類を襲った。
気候温暖化その他の地球環境の変化によって、ある場所では旱魃が起き、別の場所では、それまでなら、数年に一度の規模だった暴風雨や大雨が、年に何回も起きるようになった。
食料生産は減る。世界経済は停滞する。
それは更なる災厄を呼んだ……世界のどこかで、数十万規模の町が丸々1つ滅ぶなど、良く有る話になった。
日本でもそうだった。例えば、どこかで地震が起きた場合、ほんの数年前なら何とかなった規模の被害でも、政府には対応する能力やリソースは既になく、他の国も手を差し延べる余裕は無い。そして、その地域は見捨てられ、滅んでいく。
そして、世界各国が相互不信に包まれ、1つの国の中でも、地域と地域、人と人との対立が当り前になった時、奴らが現われた。
巨大な上に、少なくとも人間の子供程度の知能や判断力は有るらしいゴキブリどもが世界中で同時多発的に誕生し……それを守る「兵器」が太古の地層から姿を現わしたのだ。
世界各国は国力が著しく衰えた上に相互分断された状態で、この「敵」に立向う羽目になり……あっさり、各個撃破された……らしい。
らしい、と云うのは、ゴキブリや巨大兵器との「戦争」が終る前に、インターネットやそれ以外の通信手段は機能しなくなった為だ。
「あんたも……噂になっとる『イイズンガミサン』古墳に行こうとしとるんか? なら、すまんが……乗せてもらえんか?」
そう声をかけてきたのは、俺より一〇か二〇ほど年上らしい爺さんだった。
「どうした?」
「車の燃料が無くなってな……」
「おい、まさか、それガソリン車か?」
俺は、爺さんの乗っていた車を見てそう言った。一応は、文明崩壊以前に作られたモノのようだ。
「あぁ……」
文明が失なわれた時、人間は思い知った。今まで、当り前だと思っていたモノの多くが「文明」が有ったからこそ「当り前」だったのだと。
例えば、ガソリン。
揮発しやすい物質であるガソリンは、文明が崩壊したと同時に、保存が困難になった。現実は「マッドマックス」や「北斗の拳」では無かったのだ。
今動いてる車は、ディーゼル車ぐらいだ。太陽電池を使って電動車を動かしてるヤツが居る、と云う噂は有るが、実物を見た者に会った事は無い。
「悪いが、そんな噂は、俺は信じてない。熊本の方には、まだ人間の町が残ってるらしいんで、そっちに向かってる」
「そうか……」
「だが、方向は一緒だ。鳥栖と基山の間あたりだったか? その古墳は?」
「ああ……」
「じゃあ、乗ってきな」
二日市の辺りで日が暮れたので、野営をした。
爺さんは疲れていたらしく、すぐに眠りについた。
しかし、俺の方も……自分でも気付かない内に、かなりの疲れが溜っていたようだった。
目が覚めた時には、太陽はかなり高い位置に有り……そして、全てが消えていた。
爺さんも車も、車に積んでいた貴重な食料・燃料・日用品も何もかも。
どうやら、いつの間にか、かつて「筑紫野バイパス」と呼ばれた道に入っていたようだった。しかし、GPSは爺さんに奪われた車に積んでいたので、正確には不明だ。
とりあえず、ひたすら歩いた。
夜になっても歩き続けた。水も食料もないままに……。
時折、人間の車やゴキブリの一団と出会したが、俺には何の感心も抱かぬまま通り過ぎて行った。
当然、1日かそこらでブッ倒れた。
「大丈夫か? あんた?」
気が付くと目の前には何人もの人間が居た。
俺に声をかけたのは、その一団のリーダー格らしい、俺と同じか少し年上らしい男だった。
「どこだ? ここは?」
「鳥栖と基山の間あたりだ」
俺は、この一団に助けられたらしい。
結構広めの部屋。黒板と教壇。
俺が今居るのは、かつては、学校か何かで、この部屋は、その教室の1つらしい。
「わざわざ、下関からここまで来たのか? でも、九州でも、多分、状況は似たようなモノだぞ」
「じゃあ、熊本に人間の町がまだ有るって噂は……」
「3年ぐらい前までは、そんな噂が有ったが……今じゃ全く聞かない」
「で、ここは?」
「イイズンガミサンの噂を聞き付けて……集ってきた人間の溜まり場だ。俺は……語り部みたいなモノだ」
「語り部?」
「ああ、イイズンガミサンの噂を聞いて、ここに来た連中に『儀式』の手順を教えて……代りに食料や日用品なんかをもらってる。昔は……鳥栖の教育委員会で考古学関係の仕事をやってた」
「そもそも、イイズンガミサンって……何なんだ?」
「この近くに有る古墳だ……。〇〇年代ぐらいに、この辺りで宅地造成が有ってな……その時に発掘され……そして、とんでもないモノが見付かった」
「噂を聞いた時から思ってたけど……変な名前の古墳だな」
「この辺りは、古墳がやたら多くてな……。小高い丘が有ったら、ほぼ古墳だ。そして、古墳の中には、地元の人間にも、名前の由来がよく判んないモノが、結構、有る」
「これが……発掘された時に見付かった鏡か……」
千五百年前と見られる古墳から見付かったモノ……それは……2枚の鏡だった。
しかし、異常なのは……その2枚が……当時は無かった筈の素材で出来ていた事だった。
1枚はステンレス鋼、もう1枚はジュラルミンで、見付かった時も、錆や腐食が全く無かったらしい。
当然、誰かのイタズラだと思った者がほとんどだった。しかし……ヤツらが現われてから話は変ってきた。
その2枚の鏡には、アレの姿が描かれていたのだ……。
ゴキブリどもの守護者である「頭」から何本もの長い触手が出た「兵器」が。
「で、ステンレス製の方に書かれてる漢文は『この怪物が現われた時、古墳の玄室で、もう一枚の鏡に記された呪文を唱えろ。そうすれば、この怪物が現われる前の時代に逃げる事が出来るだろう』と云う意味で……ジュラルミン製の方に書かれてるのは、意味の無い漢字の羅列だ……。しかし、この漢字の羅列をイイズンガミサン古墳の玄室で、日本に最初に伝わった漢字の読み方である『呉音』で読んでみたヤツが居た」
「そして……」
「消えた」
「消えた後、どうなるんだ?」
「誰にも判らん。単なる自殺かも知れんよ……。でも……」
「そうか……死ぬとしても……こんな世界で生きてくより死んだ方がマシ。ひょっとしたら……今よりマシな時代に逃げられるかも知れん訳か……」
今の俺には……この呪文を使って消えていったヤツらの気持ちが判らんでも無かった……。
巧くいかなくても……死ぬだけじゃないか。希望が無いまま生き続けて……何になる?
俺は、古墳の玄室に集った十人ぐらいの連中と共に、鏡に書かれていた呪文を唱えた。
玄室の壁に描かれている奇怪な文様……それもよくよく見れば……ゴキブリと、あの「兵器」に駆逐されていく人間に見えない事も無い。
そして……。
おい、何だ、これは?
周囲に居るのは……あのゴキブリどもを護っていた「兵器」そっくりの生物達だった。それが、何百も……。
『落ち着け……新入り。理由は判らんが……世界中に、人間の精神を、この生物の体に転移させる「罠」が仕掛けてあったらしい』
声ではなかった。少なくとも「音声」では……。
心に直接響いてきた何者かの「声」。
『誰だ?』
『何者だ?』
『どう云う事だ?』
頭の中に無数の声が響く……。
だが、自分も、今、周囲に居る連中と同じ姿をしている事に気付いた時、ある疑問が湧いた。
「頭の中に声が響く」って、俺の頭はどこだ?
『どこなんだ? ここは?』
『わからん……1日の長さも地球とは違う……らしい。夜空の星座も……地球に似ているようだが……違いがいくつも有る。だが、月は1つで、地表から観測出来る惑星は5つ。そして……海中には生物が居るが原始的なモノばかりで、陸上には、植物も動物も、ほとんど居ない』
『どうなってるんだ?』
『いや……ひょっとしたらだが……』
『何だ?』
『ここは、過去の地球で……あのゴキブリどもを護っていた「兵器」を作り……そして、「ここ」に人間の精神を転移させる仕掛けを作ったのは……未来の我々では無いのか?』
『いや、その仮説が正しいとしてだ……』
『何か疑問でも有るのか?』
『あんたの言う「未来」っていつの事だ? この体に転移する前の俺達は「未来」なのか? それとも「過去」なのか?』
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