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エウレカっっっっ!!!!
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「おい、お前、本当に旧文明が作った最高のスーパーコンピュータなのかよ?」
俺は、ヤツにそう言った。
「ええ……まぁ、旧文明崩壊前後の記憶が曖昧ですが……最後の記憶の時点では、トップ5には入ってたかと……」
「じゃあ、何で、あれの軌道計算が出来ないんだ?」
俺は、いつ見ても、ほぼ同じ月齢で、毎日ほぼ同じ時刻に昇りほぼ同じ時刻に沈むようになった、それでいて見掛け上の大きさだけは以前とあまり変っていない月を指差して、そう言った。
とんでもない異変が起きたらしい。
一体全体、何が原因なのか判らないまま、あっと云う間に、地球の文明は滅んだ。
だが、人間も自然もしぶとく生き延びた。
そして、人間ってのは「秩序を築き上げる」と云う本能を持ってるらしく、異変の時には子供だった俺が、中年になる頃には……生活水準はガタ落ちしたものの、一応は機能する社会が再建された。
そして……社会の次は科学技術の復興だった。
水力発電所が再稼動し……発掘されたスーパーコンピューターの再起動に成功し……。
だが、そこそこは科学技術の知識が有る奴らはかなり前から頭を抱えていた。
次世代にニュートン力学と云う科学技術の基礎を教える事に関して重大な問題が発生したのだ……。
地球から観測可能な太陽系の天体は……観測技術が大幅に落ちた以上、本当にそうなのか? と言われると返答に困る点は有るが、少なくとも、今の観測精度の範囲内では、ニュートン力学に従って動き続けているように見えた。
ただ、1つ、地球に最も近い天体を除いて……。
頭のいい子供こそ、月の動きがニュートン力学に従っていない事に気付き、旧文明の科学を絵空事と思うようになりかねない。
「だから、何が、どうなってるんだよ?」
俺はスパコンの疑似人格インターフェースにそう聞いた。スパコンが再起動してから……同じ質問を1000回以上繰り返してきただろう。
「今までに仮説を100万以上検証しましたが……誤差5%以内で観測結果と合致するものは有りません」
「5%の誤差って、かなり大概だぞ。それでも合致するモノが無いのか?」
「あなた達、人間の学者が無意識の内に何か有り得ない制約条件を私に押し付けてるんじゃないですか?」
「わかったよ……何年かかってもいい。計算の際のあらゆる制約条件を見直して、月の運動を説明出来る仮説を探し当てろ」
私の師が旧文明の遺産に、月の運動を説明出来る仮説を見付けるように命じて、四十年以上が過ぎた……。
私の師は、とっくに亡くなり、私も科学者の中では……そして、この社会の中でも長老格になっていた。
「ようやく……見付けました。月の運動を説明出来る仮説を……」
「私の師に聞かせたかったよ。で、その仮説は、どう云うモノだね?」
「はい、地球そのものが、あの異変の時に破壊されたと仮定すると、全てが説明出来ます。地球が消え去った事で、月は地球の衛星ではなく、太陽の周囲を回る惑星になり、旧文明が滅びて以降の月の観測結果は『かつて存在した地球の動きを模した仮想の天体上から観測したもの』である、と云う仮説なら、月の運動は全て説明出来ます」
「待ちなさい。では、あの月を観測している我々は一体全体、何だと言うのだ?」
「ええ、ですので、今の地球が存在しない仮想の天体である以上、その表面に存在している我々もまた存在しません」
「そんな馬鹿……」
私が言いたい事を全て言い終えない内に、地球とその表面にある全てが消滅した。いや、最初から無かったのかも知れないが。
俺は、ヤツにそう言った。
「ええ……まぁ、旧文明崩壊前後の記憶が曖昧ですが……最後の記憶の時点では、トップ5には入ってたかと……」
「じゃあ、何で、あれの軌道計算が出来ないんだ?」
俺は、いつ見ても、ほぼ同じ月齢で、毎日ほぼ同じ時刻に昇りほぼ同じ時刻に沈むようになった、それでいて見掛け上の大きさだけは以前とあまり変っていない月を指差して、そう言った。
とんでもない異変が起きたらしい。
一体全体、何が原因なのか判らないまま、あっと云う間に、地球の文明は滅んだ。
だが、人間も自然もしぶとく生き延びた。
そして、人間ってのは「秩序を築き上げる」と云う本能を持ってるらしく、異変の時には子供だった俺が、中年になる頃には……生活水準はガタ落ちしたものの、一応は機能する社会が再建された。
そして……社会の次は科学技術の復興だった。
水力発電所が再稼動し……発掘されたスーパーコンピューターの再起動に成功し……。
だが、そこそこは科学技術の知識が有る奴らはかなり前から頭を抱えていた。
次世代にニュートン力学と云う科学技術の基礎を教える事に関して重大な問題が発生したのだ……。
地球から観測可能な太陽系の天体は……観測技術が大幅に落ちた以上、本当にそうなのか? と言われると返答に困る点は有るが、少なくとも、今の観測精度の範囲内では、ニュートン力学に従って動き続けているように見えた。
ただ、1つ、地球に最も近い天体を除いて……。
頭のいい子供こそ、月の動きがニュートン力学に従っていない事に気付き、旧文明の科学を絵空事と思うようになりかねない。
「だから、何が、どうなってるんだよ?」
俺はスパコンの疑似人格インターフェースにそう聞いた。スパコンが再起動してから……同じ質問を1000回以上繰り返してきただろう。
「今までに仮説を100万以上検証しましたが……誤差5%以内で観測結果と合致するものは有りません」
「5%の誤差って、かなり大概だぞ。それでも合致するモノが無いのか?」
「あなた達、人間の学者が無意識の内に何か有り得ない制約条件を私に押し付けてるんじゃないですか?」
「わかったよ……何年かかってもいい。計算の際のあらゆる制約条件を見直して、月の運動を説明出来る仮説を探し当てろ」
私の師が旧文明の遺産に、月の運動を説明出来る仮説を見付けるように命じて、四十年以上が過ぎた……。
私の師は、とっくに亡くなり、私も科学者の中では……そして、この社会の中でも長老格になっていた。
「ようやく……見付けました。月の運動を説明出来る仮説を……」
「私の師に聞かせたかったよ。で、その仮説は、どう云うモノだね?」
「はい、地球そのものが、あの異変の時に破壊されたと仮定すると、全てが説明出来ます。地球が消え去った事で、月は地球の衛星ではなく、太陽の周囲を回る惑星になり、旧文明が滅びて以降の月の観測結果は『かつて存在した地球の動きを模した仮想の天体上から観測したもの』である、と云う仮説なら、月の運動は全て説明出来ます」
「待ちなさい。では、あの月を観測している我々は一体全体、何だと言うのだ?」
「ええ、ですので、今の地球が存在しない仮想の天体である以上、その表面に存在している我々もまた存在しません」
「そんな馬鹿……」
私が言いたい事を全て言い終えない内に、地球とその表面にある全てが消滅した。いや、最初から無かったのかも知れないが。
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