上 下
43 / 59
第四章:非法制裁 ― Death Sentence ―

静岡県富士宮市 二〇一X年八月二〇日近く

しおりを挟む
 一九〇㎝を超えるあいつと、一六〇㎝台前半のおいら、そして小学1年生ぐらいの女の子。見事なまでの凸凹トリオだ。
 富士宮市の……おそらく中心部……市役所の近辺には、いくつものテントが並んでいる。
 日本政府そのものが、まだ無事か不明な中、地方自治体や一般市民が自発的に災害対策本部・司令部のようなものを作っていた。しかし、もちろん、手慣れているようにも見えず、人手も足りていない。そもそも、何をすべきか、こんな場合、どうするのが教科書通りで、何をしてはいけないかさえ判っていないようだった。
 もちろん、俺達も他人ひとの事をとやかく言えた義理では無い。全てが手探り状態のまま、1つでも多く救える命を救い、1人でも多く助けられる人を助ける……。それが、今、俺達がやっている事だ。
「よう……」
 そう声をかけたのは、この辺りで活動している「同業」だった。
「そっちは……大丈夫か……」
「子供は無事だが……カミさんが死んじまった……。俺の親とも、カミさんの親とも連絡が取れない」
「余計な事だが……その子……お前の子供か?」
 そいつの横には……俺達が連れてる女の子と同じ位の齢の女の子が居た。
「いや……俺が救助した子だ……。一応、この子の名前と、親の名前が判ってる……。どうも、東京に『おばさん』だか『おねえちゃん』だが居るらしいが……」
「東京も、ほぼ壊滅だ」
 九州から、こちらに救助活動に来た仲間の1人、コードネーム「水天ヴァルナ」は、横浜に居る兄一家の安否を確かめるべく、俺達と共に居る子供を見付けた後は、別行動をする事になった。
「先に言っておくが……すまん……この騒ぎが一段落したら……組織ネットワークから抜ける」
 こちらの「同業」が、そう言い出した。
「どうした?」
「顔と名前が一般人にバレた。もう、この稼業を続ける訳にはいかない」
「そうか……まぁ、いい。ここで、少し、休めるか?」
「ああ……」

「どうしたんだ、その頭……?」
「坊主になった……」
 俺の連れがそう答える。
「この齢で、坊主の修行を始めようとしたが……ウチの宗派の総本山も、こんな状況では無事では済みそうにないな……」
「坊主って、どうして?」
「一〇年近く……ずっと考えていた。この稼業に必要はモノは何かをな……」
「それで坊主か? 意味が判らん」
「悪人を殺すなら……殺し屋でも出来る。人を助けるなら……他の手段も有る……。俺達は……宗教家みたいなモノじゃないかと思うようになってな」
「はぁ?」
「いざと云う時に……他人の命や幸せの為に、自分の大事なものを捨てる決断をする。俺に、それが出来ないなら……俺がこの稼業を続ける意味は無いような気がしてきてな」
「それで坊主か……」
「あと……相談だが……しばらく、あの子を預かってもらえないか?」
 俺達が連れて来た女の子は、もう1人の子と遊んでいた。
「判った。それ位なら……」
「いずれ……児童擁護施設を作るつもりだ……。その内に、そこに引き取る」
「ところでよぉ……」
 俺は、ふと口を挟んだ。
「この稼業から足を洗うんだったら……本名ぐらい教えてもらえねぇか?」
 俺達の組織ネットワークでは、他のチームのヤツの個人情報を知るのは御法度だった。

 それから、ヤツ……石川智志さとしと、ヤツの家族、そして俺達がヤツに預けた女の子は……「関東難民」の避難場所として作られた、1つ目の「Neo Tokyo」に移り住んだ。
 しかし、それからすぐ、俺達と石川智志さとしは、事実上、袂を分かつ事になった。
 ヤツは、1つ目の「Neo Tokyo」の通称「秋葉原」地区で、よりにもよって顔と名前を晒して「ヒーロー」活動を始めた。逆に、同じ「ヒーロー」稼業であっても、顔や名前を隠し活動している俺達とヤツが下手に接触する事は……俺達の身を危うくする事に繋がる。
 そして、その女の子は……ヤツ……石川智志さとし……が親代わりに育てる事になったが……。しかし、ヤツは5年後、「自警団」同士の抗争で、あっさり死んでしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

基本中の基本

黒はんぺん
SF
ここは未来のテーマパーク。ギリシャ神話 を模した世界で、冒険やチャンバラを楽し めます。観光客でもある勇者は暴風雨のな か、アンドロメダ姫を救出に向かいます。 もちろんこの暴風雨も機械じかけのトリッ クなんだけど、だからといって楽じゃない ですよ。………………というお話を語るよう要請さ れ、あたしは召喚されました。あたしは違 うお話の作中人物なんですが、なんであた しが指名されたんですかね。

世界を護る者達/第一部:御当地ヒーローはじめました

蓮實長治
SF
常人が異能の者達と戦う為に生み出された強化装甲服「対神鬼動外殻『護国軍鬼』」を受け継ぐ父親の一族の中で育った姉・高木瀾(たかぎ らん)。 前の世代の女から次の世代の女へと「神」を受け継いできた母親の一族の中で育った妹・眞木治水(まき おさみ)。 「正義の味方」として育てられた姉と、望まずして「神」の力を受け継いでしまった妹。 二〇〇一年九月十一日を契機に現実と違う歴史を辿った、様々な力を持つ無数の「異能力者」が存在する平行世界の近未来の地球。 その「地球」の福岡県久留米市で、両親の離婚により赤ん坊の頃から別々に育ったこの双子の姉妹が、高校進学を機に共に暮す事になった時、2人は、この「地球」に残存する「神々」の運命を左右する戦いに巻き込まれる事に……。 同じ作者の「青き戦士と赤き稲妻」の約10年前と云う設定です。 「なろう」「カクヨム」「pixiv」にも同じものを投稿しています。 注: 作中で、夫婦別姓を否定的に描いていると解釈可能な箇所が有りますが、あくまで作者本人としては「夫婦別姓/同姓は、その夫婦の選択に任せる」が理想と考えています。あくまで、「作者本人が正しいと思っている事が歪んだ形/それが『正しい』理由を欠いた形で実現してしまったら…」と云う描写と御理解下さい。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

フルタイム・オンライン ~24時間ログインしっぱなしの現実逃避行、または『いつもつながっている』~

於田縫紀
SF
 大学を卒業した3月末に両親が事故で死亡。保険金目当ての伯母一家のせいで生活が無茶苦茶に。弁護士を入れてシャットアウトした後、私は生命維持装置付の最高級VR機器を購入し、腐った現実から逃げ出した。

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

YOLO~この人生、精一杯生きることにします~

紫泉 翠
SF
円満井 望は、今大人気のフルダイブ式のMMORPG『ヨルムンガンド・オンライン』, それを作り出した、『株式会社ユメカガク』に勤務しており、初期からデバッカーとしてシステム設計にかかわってきた。しかし、特に優れたところがないと考えているので、いつも不安に押しつぶされそう。 そんなある日、【ソーン・ルナー】を言う名でギルド職員と魔術師をしているゲーム内にて、未知のモンスターが三大都市に出現するという事件が起こる。そこで、彼女は実の弟ー杜和と彼の彼女ー結葵と力を合わせてこの事件に立ち向かう!無事解決できるのか⁉ そして、その事件の裏には、もっと恐ろしい陰謀が隠されていた⁉ 注)このストーリーは、『ユメカガク研究所』というチームによって生み出されたシェアワールドを舞台としています。こちらのシェアワールドを使用している作品には、全て『チーム・ユメカガク研究所』のタグがついていますので、予めご了承ください。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...