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第一章:宿怨 ― Hereditary ―

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 作業を終えると、男はポリタンクと機械を仕舞い、そして作業着を一度脱ぐと裏返しにして着なおした。裏側も作業着っぽいデザインだけど、色は黒。そして、その背中にも、やはり『秋葉原』の自警団『サラマンダーズ』のマークが有った。
「子供達はこのトラックに乗せろ。とりあえず、『神保町』までなんで、そんなに時間はかからない」
「いや……でも……このトラックにかれてるのは……?」
 何が何だか判んないまま、まず浮かんだ疑問を口にするあたし。
「そもそも、最初から何か変だ。今の『サラマンダーズ』に『靖国神社』と喧嘩する度胸は無い」
 続いて勇気も当然の感想を口に出す。
「まぁ、子供の安全が優先なら……こうするしか無いか……。あ……そうだ……すまないが……車のナンバープレートを偽物に交換する方法は有るか?」
 荒木田さんが男に聞いた。
「えっ?」
「多分、もう、この車のナンバーは『靖国神社』とやらに知られてる。けど、事情が有って、この車を捨てる訳にはいかない」
「あんた……素人なのか手慣れてるのか判んないな」
 子供達はトラックのコンテナの中に入り、あたしと勇気は、ここに来るのに使ってた車に乗った。
 トラックは一端「靖国通り」に入った後、更に「島」の4つの地区を結ぶ環状道路・通称「昭和通り」に入った。
「この車の色も早めに塗り替えといた方がいいな」
 「昭和通り」に入った辺りで、荒木田さんがそう言った。
「は……はぁ……」
「でも……あいつ……一体……?」
「『靖国神社』とやらと『サラマンダーズ』とやらに大喧嘩して欲しい誰かだろ」
「ちょっと……それ、あたし達にとっては超迷惑ですよ‼ あたし達の町で『自警団』同士の抗争が始まるかも知れないんですよ‼」
「それと……後方うしろから付いて来てる車は何だ?」
「えっ?」
 背後うしろには黒塗りのSUVがゾロゾロと居た。続いて、そのSUVの1つに箱乗りになって、しかも片手で拳銃を構えてるオッサンが……。
「さっきの方法で何とか出来るか?」
「やってみます」
 あたし達の車とSUVの群の間の空気を熱膨張させる。
 爆発音。
 続いて、車がスリップする音が複数。
 更に衝突音がいくつも。
 大半が電動車なので、ガソリンその他による爆発は起きないが……当分、「昭和通り」は通行止めだろう。中には反対車線に入ってるSUVもいくつか有る。
 そして、トラックは「昭和通り」を降り「神保町」の中に入った。
「やっぱり……こう言う事かよ」
 トラックを追って付いた先は……。二百年ぐらい前のヨーロッパなら違和感は無いだろうけど、雑居ビルっぽいのがほとんどの周囲の建物から明らかに1つだけ浮いている、白い大きな建物。
 そして、建物のあちこちに有るのは薔薇の花と+を組合せたマーク。
「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ……『神保町』の『自警団』だ」
 そう……ここのリーダーは……勇気の父さんを殺した人……。
 あたし達を、ここに案内した男が、トラックから降りるのと、ほぼ同時に、建物の中から一〇人以上の人達が出て来た。多分、全員が二〇代から三〇代。男女比は五・五:四・五~六:四ぐらい。
「魔導師会って割に……普通の格好だな……」
 そう、着ている服は人によって違うが、どれも、昼間に町中で見掛けてもフツ~な感じのラフな服装なだ。
「さてと……君達が……問題の爆弾魔か……。厄介な事をしてくれたな」
 そう言ったのは一同のリーダーらしい眼鏡をかけた三〇代ぐらいの女の人……あっ、まさか……かすかに見覚えが……。
「テメエェェェ……ッ‼」
 その人を見た途端、勇気は走り出した……が、途中で膝を付く。
「私に怨みが有るのか? すまないが、心当りが多過ぎるんでな。正当な恨みも、不当な怨みも」
「お……俺は……石川智志さとしの息子だッ‼ そう言えば判るかッ⁉」
 その人は……一瞬、キョトンとし……続いて空を見上げて何かを考えるような表情……最後に勇気の方を見る。
「やれやれ……こんな日が来るかも知れんとは思っていたが……」
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