10 / 59
第一章:宿怨 ― Hereditary ―
(9)
しおりを挟む
『誘拐されたのは……誰だ?』
携帯電話の向こう側の声はそう言っていた。
「暁の……友達と……その姉だ……」
『今の状況は?』
「現在、誘拐犯のアジトの地下室。アジト内の誘拐犯グループと思われる連中は全員無力化済み。しかし、目的の子供2人は既に別の場所に移された後。なお同行者2名に……救出した関係ない子供が二〇名以上。あと、多分だけど……建物を出たら……街中全てが敵だ」
『街から脱出する手段は?』
「子供は2人だけだと思ってたが……見通しが甘かった。足はライトバン1台」
『そっちって、公共交通機関はバスと地下鉄だけだったな』
「ああ」
『仕方ない。まずは、その「アジト」とやらを出ろ。子供と同行者の命を最優先で行動してくれ。とりあえずは、あんたの能力で「アジト」の外に人が居るか確認しろ』
「居ない……。どうなってる? 通行人すら居ないぞ」
『下手したらガスを撒かれてる可能性が有るな……。毒ガスか……非致死性でも催涙ガスか麻酔ガス』
「私が上に出て確認する。何も無ければ同行者に連絡するが……」
『その「アジト」の状況が良く判らんが、外に出るまで時間はどれ位かかる?』
「3分以内」
『ガス以外だと……後は……ドローンか……。空気を吸っても大丈夫でも、それらしい音なんかに注意してくれ。もし、あんたが無事で済まなかった場合の方法は今から考える。同行者との連絡手段は?』
「携帯電話が、もう1つ有る」
『判った。通話は切らずに、今使ってる携帯電話を同行者に渡してくれ』
「もし、外が大丈夫そうだったら、コレで連絡する」
そう言って荒木田さんは仁愛ちゃんの携帯電話をあたしに見せて、自分の携帯電話を置いて外に出た
「あ……あの……貴方が……荒木田さんが言ってた『本土』の『御当地ヒーロー』見習い?」
『あいつ……自分の本名をバラしたのか?』
「えっと……正義くんと仁愛ちゃんが誘拐される前に……こんな事態になるなんて予想もしてなかった時に……」
携帯電話の向こうからは溜息。
『元「御当地ヒーロー」見習いだ』
「えっ?」
『訳有って師匠に破門された』
その時、あたしの携帯電話が鳴った。相手の番号は……仁愛ちゃんの携帯電話。
『上は何とも無い。人っ子1人居ないのが気になるが。周りの建物の灯りも点いてない』
「判った……。もしもし、荒木田さんから連絡あり。上は大丈夫そうみたい」
『了解。注意して外に出て来れ。もし、そこが安全なら、外で何か有ったら、すぐにそこに戻れ』
「はい。みんな、上に行くよ」
深呼吸をして立ち上がる勇気。まだ訳が判んないみたいだけど、ゾロゾロとついてくる子供たち。
そして、外に出た途端……。
「お……おい……レナ……あれ何だよ? 外は大丈夫だって言ったよな?」
「え? 何も無いじゃん……」
しかし、勇気だけじゃなくて助け出した子供たちもざわついてる。
「しまった……まさか……。私の携帯電話を勇気君に渡して、何が見えてるか説明させてくれ」
外で待っていた荒木田さんがそう言った。どうやら、荒木田さんも「何も見えていない」みたいだけど、何が起きてるかは予想が付いたみたいだ。
「えっと……何か……半透明なゾンビみたいなのが何匹も宙に浮いていて……こっちに向かって来てて……」
『光に……私の仲間に伝えろ‼「浄化」の力を、辺りに広く薄く撒き散らせ、と』
「聞こえてる‼ 了解した‼」
荒木田さんがそう叫んだ途端、辺りで次々と爆音と閃光。
「まだ居るのか?」
「居ます」
「どの辺りに?」
勇気が前の方を指差す。
「クソッ‼」
『待て、光以外にも死霊が見えないヤツが居るのか?』
「はい、あたし。何が起きてるか判んないけど、とりあえず見えない」
『あんたの力は何だ? 単に霊感が常人以下なだけじゃないなら……まさかと思うが、あいつの同類か?』
「うん。とりあえず、炎と熱を操れる」
『判った。光、見えてる誰かに指示されてる方向に「浄化」の力を放ってくれ。見えてない誰かさんは……熱で空気を膨張させる事は出来るか?』
『何とかなるかと』
横から、あたしに取り憑いてる「お姫様」が口を出すが、あたしと荒木田さんにしか聞こえない以上、当然ながら携帯電話ごしに伝わる訳が無い。
「何とかなりそう」
『じゃあ、もし、デカい爆発が起きたら、あんたの力で……空気を熱膨張させて、爆風や衝撃波を打ち消せ』
「えっ⁉」
「手順は理解したか? いくぞ、どっちだ?」
「まず、あっちです‼」
「だから……どうなってんの?」
『そこらに居る「何か」は、多分、あいつの力で「浄化」出来るモノだ。あいつは、その手のモノを「浄化」する力を、ほぼ無尽蔵に放てる。だが、困った事に、当のあいつ自身は……その手の悪霊や死霊や魔物の類が……全く見えないんだ。あいつにとっては、その手の代物は「自分に害を及ぼせないので認識する必要すらない」程度の小物に過ぎないんでな』
……何だよ、そのチートなのか使えないのか判断に困る「能力」は?
ところが、次の瞬間……。
『そして、あいつの力で、その手のモノが「浄化」される時……副次的に……爆発が起きる。やれ、さっき言った事を』
「うわああああああ‼」
あたしは「爆発」と、あたしたちの間の「空気」を熱で膨張させる。爆音は……更に大きくなったが……あたしたちは何とか無事だった。
携帯電話の向こう側の声はそう言っていた。
「暁の……友達と……その姉だ……」
『今の状況は?』
「現在、誘拐犯のアジトの地下室。アジト内の誘拐犯グループと思われる連中は全員無力化済み。しかし、目的の子供2人は既に別の場所に移された後。なお同行者2名に……救出した関係ない子供が二〇名以上。あと、多分だけど……建物を出たら……街中全てが敵だ」
『街から脱出する手段は?』
「子供は2人だけだと思ってたが……見通しが甘かった。足はライトバン1台」
『そっちって、公共交通機関はバスと地下鉄だけだったな』
「ああ」
『仕方ない。まずは、その「アジト」とやらを出ろ。子供と同行者の命を最優先で行動してくれ。とりあえずは、あんたの能力で「アジト」の外に人が居るか確認しろ』
「居ない……。どうなってる? 通行人すら居ないぞ」
『下手したらガスを撒かれてる可能性が有るな……。毒ガスか……非致死性でも催涙ガスか麻酔ガス』
「私が上に出て確認する。何も無ければ同行者に連絡するが……」
『その「アジト」の状況が良く判らんが、外に出るまで時間はどれ位かかる?』
「3分以内」
『ガス以外だと……後は……ドローンか……。空気を吸っても大丈夫でも、それらしい音なんかに注意してくれ。もし、あんたが無事で済まなかった場合の方法は今から考える。同行者との連絡手段は?』
「携帯電話が、もう1つ有る」
『判った。通話は切らずに、今使ってる携帯電話を同行者に渡してくれ』
「もし、外が大丈夫そうだったら、コレで連絡する」
そう言って荒木田さんは仁愛ちゃんの携帯電話をあたしに見せて、自分の携帯電話を置いて外に出た
「あ……あの……貴方が……荒木田さんが言ってた『本土』の『御当地ヒーロー』見習い?」
『あいつ……自分の本名をバラしたのか?』
「えっと……正義くんと仁愛ちゃんが誘拐される前に……こんな事態になるなんて予想もしてなかった時に……」
携帯電話の向こうからは溜息。
『元「御当地ヒーロー」見習いだ』
「えっ?」
『訳有って師匠に破門された』
その時、あたしの携帯電話が鳴った。相手の番号は……仁愛ちゃんの携帯電話。
『上は何とも無い。人っ子1人居ないのが気になるが。周りの建物の灯りも点いてない』
「判った……。もしもし、荒木田さんから連絡あり。上は大丈夫そうみたい」
『了解。注意して外に出て来れ。もし、そこが安全なら、外で何か有ったら、すぐにそこに戻れ』
「はい。みんな、上に行くよ」
深呼吸をして立ち上がる勇気。まだ訳が判んないみたいだけど、ゾロゾロとついてくる子供たち。
そして、外に出た途端……。
「お……おい……レナ……あれ何だよ? 外は大丈夫だって言ったよな?」
「え? 何も無いじゃん……」
しかし、勇気だけじゃなくて助け出した子供たちもざわついてる。
「しまった……まさか……。私の携帯電話を勇気君に渡して、何が見えてるか説明させてくれ」
外で待っていた荒木田さんがそう言った。どうやら、荒木田さんも「何も見えていない」みたいだけど、何が起きてるかは予想が付いたみたいだ。
「えっと……何か……半透明なゾンビみたいなのが何匹も宙に浮いていて……こっちに向かって来てて……」
『光に……私の仲間に伝えろ‼「浄化」の力を、辺りに広く薄く撒き散らせ、と』
「聞こえてる‼ 了解した‼」
荒木田さんがそう叫んだ途端、辺りで次々と爆音と閃光。
「まだ居るのか?」
「居ます」
「どの辺りに?」
勇気が前の方を指差す。
「クソッ‼」
『待て、光以外にも死霊が見えないヤツが居るのか?』
「はい、あたし。何が起きてるか判んないけど、とりあえず見えない」
『あんたの力は何だ? 単に霊感が常人以下なだけじゃないなら……まさかと思うが、あいつの同類か?』
「うん。とりあえず、炎と熱を操れる」
『判った。光、見えてる誰かに指示されてる方向に「浄化」の力を放ってくれ。見えてない誰かさんは……熱で空気を膨張させる事は出来るか?』
『何とかなるかと』
横から、あたしに取り憑いてる「お姫様」が口を出すが、あたしと荒木田さんにしか聞こえない以上、当然ながら携帯電話ごしに伝わる訳が無い。
「何とかなりそう」
『じゃあ、もし、デカい爆発が起きたら、あんたの力で……空気を熱膨張させて、爆風や衝撃波を打ち消せ』
「えっ⁉」
「手順は理解したか? いくぞ、どっちだ?」
「まず、あっちです‼」
「だから……どうなってんの?」
『そこらに居る「何か」は、多分、あいつの力で「浄化」出来るモノだ。あいつは、その手のモノを「浄化」する力を、ほぼ無尽蔵に放てる。だが、困った事に、当のあいつ自身は……その手の悪霊や死霊や魔物の類が……全く見えないんだ。あいつにとっては、その手の代物は「自分に害を及ぼせないので認識する必要すらない」程度の小物に過ぎないんでな』
……何だよ、そのチートなのか使えないのか判断に困る「能力」は?
ところが、次の瞬間……。
『そして、あいつの力で、その手のモノが「浄化」される時……副次的に……爆発が起きる。やれ、さっき言った事を』
「うわああああああ‼」
あたしは「爆発」と、あたしたちの間の「空気」を熱で膨張させる。爆音は……更に大きくなったが……あたしたちは何とか無事だった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ハッチョーボリ・シュレディンガーズ
近畿ブロードウェイ
SF
なぜか就寝中、布団の中にさまざまな昆虫が潜り込んでくる友人の話を聞き、
悪ふざけ100%で、お酒を飲みながらふわふわと話を膨らませていった結果。
「布団の上のセミの死骸×シュレディンガー方程式×何か地獄みたいになってる国」
という作品が書きたくなったので、話が思いついたときに更新していきます。
小説家になろう で書いている話ですが、
せっかく アルファポリス のアカウントも作ったのでこっちでも更新します。
https://ncode.syosetu.com/n5143io/
・この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません
・特定の作品を馬鹿にするような意図もありません
Storm Breakers:第一部「Better Days」
蓮實長治
SF
「いつか、私が『ヒーロー』として1人前になった時、私は滅びに向かう故郷を救い愛する女性を護る為、『ここ』から居なくなるだろう。だが……その日まで、お前の背中は、私が護る」
二〇〇一年に「特異能力者」の存在が明らかになってから、約四十年が過ぎた平行世界。
世界の治安と平和は「正義の味方」達により護られるようになり、そして、その「正義の味方」達も第二世代が主力になり、更に第三世代も生まれつつ有った。
そして、福岡県を中心に活動する「正義の味方」チーム「Storm Breakers」のメンバーに育てられた2人の少女はコンビを組む事になるが……その1人「シルバー・ローニン」には、ある秘密が有った。
その新米ヒーロー達の前に……彼女の「師匠」達の更に親世代が倒した筈の古き時代の亡霊が立ちはだかる。
同じ作者の別の作品と世界設定を共有しています。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(pixivとGALLERIAは掲載が後になります)
エッチな方程式
放射朗
SF
燃料をぎりぎりしか積んでいない宇宙船で、密航者が見つかる。
密航者の分、総質量が重くなった船は加速が足りずにワープ領域に入れないから、密航者はただちに船外に追放することになっていた。
密航して見つかった主人公は、どうにかして助かる方法を探す。
慘獣死
来華雷兎
SF
小中高大一環の学校。それが嬢王学園。お金持ちから一般の人まで集まる。小等部の修学旅行当日にバスで拉致られ知らない場所へ。目の前で次々と殺害される教師。脱落していく生徒。果たして生きて出てくる事は出来るのか。裏で糸を引いているのは誰なのか。真実が今明かされる・・・。
みらいせいふく
ヘルメス
SF
宇宙に対して憧れを抱いていた少年ニコ、彼がある日偶然出会ったのは…宇宙からやって来た女の子!?
04(ゼロヨン)と名乗る少女の地球偵察ストーリー、その後輩である05(ゼロファイブ)の宇宙空間でのバトル!
笑いあり!涙あり!そして…恋愛あり?
ぜひ行く末をその目で見届けてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる