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第一章:宿怨 ― Hereditary ―

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「マズいです。ここ……『秋葉原』の中心部から……かなり離れてます」
「えっ?」
 仁愛ちゃんのGPSを追って、あたし達が乗った車は、この「島」のほぼ中央を経由して「秋葉原」と「九段」を結ぶ通称「靖国通り」を走っていた。「本物の東京」に有った「本物の新宿」から「本物の市ヶ谷」「本物の九段」「本物の神保町」「本物の秋葉原」を経て「本物の浅草」までをつないでいた道路にちなんだ名前だ。
「もう『島』の真ん中あたりです。……あ、もう『九段』に入った……」
「何で、そもそも、『九段』のヤツが『秋葉原』で人攫いをやってるんだ?」
「この『島』の4つの地区の内、マトモな警察が有るのが『有楽町』だけ。『自警団』が、一番、金も人の有る代りに、一番タチが悪いのが『九段』。そして『秋葉原』の『自警団』は、他の2つの『自警団』から舐められまくってる」
「なるほど……」
「俺の親父が生きてさえいれば……」
「今更言っても仕方ないよ」
「しかし……何だ……ここは?……ここが『九段』か?」
 周囲に有るのは、ケバケバしい和風の……正確には「日本人が思う『和風』」ではなく「日本を良く知らない外国人がイメージする『和風』」の建物。
「そう……ここは、町自体がバカデカい神社 兼 外国人向け観光施設。それも『秋葉原』みたいな『自分の国では庶民』でも来れる所じゃなくて、大金持ち向けの。クソ金持ちが身元を隠して、かなりマズい『遊び』が出来る場所」
「この車じゃ目立つか?」
「今居る道路は、他の地区の車も通る所だから大丈夫だけど……脇道に入ったら……大半の車が高級車か業務用の車」
「攫われた2人の移動速度は?」
「動いてません。推定移動速度ほぼ0。検出誤差未満」
「距離は?」
「歩いて一五分ぐらい」
「車から降りて歩くか……一番近い駐車場は?……なるべく無人のヤツ」
 そして、荒木田さんは、無人駐車場に車を止める。
 しかし、やっぱり、判る人が見れば、あたし達の車は目立つ。
 同じ駐車場に止まってる乗用車は、ほとんどが、中国・韓国・インド・台湾製の電動車EVの高級タイプ。ここ数年で急速に性能や品質がUPして、特に金持ち向けにバカ売れしてるヤツ。
 車種までは判らなくても、エンジンレスのイン・ホイール・モーター式なので、一応は高専生のあたしや勇気からすれば、タイヤを見れば一目瞭然な上に、車体の形そのものもガソリン車とは微妙に違う。
 もちろん、あたし達の車は、富士の噴火より前の型式の日本製のガソリン車だ。
 車を降りて歩き出すと、道のあちこちに、小さい「祠」が有った。噂では「九段」のあちこちに有る「祠」には、こっちの「自警団」が使う「式神」だか何だかが居るみたいなんだけど……。
『「お姫様」、何か居る?』
『居たとしても、わたくしや貴方には何の危険性も無い「モノ」かと』
『つまり、勇気にとっては危険な「何か」が居たとしても見えない訳ね』
『その通りです』
 そして、歩道の所々には「街路樹」が有った。外国人の金持ち観光客向けに「和風」をアピールする為の通称「バイオ山桜」。
 ソメイヨシノに似ているけど花が咲いてる時に葉も生える山桜をベースに、DNA操作やら特殊な育て方やらで、一年中花を咲かせる事が可能になった桜。
 もちろん、この夏の暑い盛りでも見事に花が咲いている。しかも、この「島」は九州沖とは言え北の方で、「本土」に近い日本海側なので、初雪は毎年一二月ごろだ。その結果、この「九段」で起きるのは、「町1つが巨大な神社」の筈の場所で、外国人観光客向けに桜と雪の両方が舞い散る中行なわれるクリスマス・イベントと云う、物凄い事態だ。
 しかも、無茶な遺伝子改造や育て方のせいで、この「桜」は、街路樹として使える大きさに育って数年後には「寿命」らしい。ここまで、馬鹿馬鹿しい技術の無駄使いは、そうそう聞いた事が無い。
「しまった……歩きでも目立つか……」
 荒木田さんが、そう言った。
 そうだ……辺りに居るのは、ほぼ、外国人観光客。通称「靖国神社」の「従業員」も、若い女性の多くは巫女姿、接客係らしい男性は神主の正装で、肉体労働が主らしい「従業員」も男女を問わず作務衣なんかの和装だけど動き易い格好。出入り業者らしい人達も、勤め先の作業着や制服らしいものを着ている。
 早い話が、それほど高価たかそうじゃない普段着の洋服で……日本人……少なくとも「ネイティブの日本語をしゃべってるアジア系」は……あたし達ぐらいだ。
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