6 / 59
第一章:宿怨 ― Hereditary ―
(5)
しおりを挟む
「マズいです。ここ……『秋葉原』の中心部から……かなり離れてます」
「えっ?」
仁愛ちゃんのGPSを追って、あたし達が乗った車は、この「島」のほぼ中央を経由して「秋葉原」と「九段」を結ぶ通称「靖国通り」を走っていた。「本物の東京」に有った「本物の新宿」から「本物の市ヶ谷」「本物の九段」「本物の神保町」「本物の秋葉原」を経て「本物の浅草」までをつないでいた道路にちなんだ名前だ。
「もう『島』の真ん中あたりです。……あ、もう『九段』に入った……」
「何で、そもそも、『九段』のヤツが『秋葉原』で人攫いをやってるんだ?」
「この『島』の4つの地区の内、マトモな警察が有るのが『有楽町』だけ。『自警団』が、一番、金も人の有る代りに、一番タチが悪いのが『九段』。そして『秋葉原』の『自警団』は、他の2つの『自警団』から舐められまくってる」
「なるほど……」
「俺の親父が生きてさえいれば……」
「今更言っても仕方ないよ」
「しかし……何だ……ここは?……ここが『九段』か?」
周囲に有るのは、ケバケバしい和風の……正確には「日本人が思う『和風』」ではなく「日本を良く知らない外国人がイメージする『和風』」の建物。
「そう……ここは、町自体がバカデカい神社 兼 外国人向け観光施設。それも『秋葉原』みたいな『自分の国では庶民』でも来れる所じゃなくて、大金持ち向けの。クソ金持ちが身元を隠して、かなりマズい『遊び』が出来る場所」
「この車じゃ目立つか?」
「今居る道路は、他の地区の車も通る所だから大丈夫だけど……脇道に入ったら……大半の車が高級車か業務用の車」
「攫われた2人の移動速度は?」
「動いてません。推定移動速度ほぼ0。検出誤差未満」
「距離は?」
「歩いて一五分ぐらい」
「車から降りて歩くか……一番近い駐車場は?……なるべく無人のヤツ」
そして、荒木田さんは、無人駐車場に車を止める。
しかし、やっぱり、判る人が見れば、あたし達の車は目立つ。
同じ駐車場に止まってる乗用車は、ほとんどが、中国・韓国・インド・台湾製の電動車の高級タイプ。ここ数年で急速に性能や品質がUPして、特に金持ち向けにバカ売れしてるヤツ。
車種までは判らなくても、エンジンレスのイン・ホイール・モーター式なので、一応は高専生のあたしや勇気からすれば、タイヤを見れば一目瞭然な上に、車体の形そのものもガソリン車とは微妙に違う。
もちろん、あたし達の車は、富士の噴火より前の型式の日本製のガソリン車だ。
車を降りて歩き出すと、道のあちこちに、小さい「祠」が有った。噂では「九段」のあちこちに有る「祠」には、こっちの「自警団」が使う「式神」だか何だかが居るみたいなんだけど……。
『「お姫様」、何か居る?』
『居たとしても、私や貴方には何の危険性も無い「モノ」かと』
『つまり、勇気にとっては危険な「何か」が居たとしても見えない訳ね』
『その通りです』
そして、歩道の所々には「街路樹」が有った。外国人の金持ち観光客向けに「和風」をアピールする為の通称「バイオ山桜」。
ソメイヨシノに似ているけど花が咲いてる時に葉も生える山桜をベースに、DNA操作やら特殊な育て方やらで、一年中花を咲かせる事が可能になった桜。
もちろん、この夏の暑い盛りでも見事に花が咲いている。しかも、この「島」は九州沖とは言え北の方で、「本土」に近い日本海側なので、初雪は毎年一二月ごろだ。その結果、この「九段」で起きるのは、「町1つが巨大な神社」の筈の場所で、外国人観光客向けに桜と雪の両方が舞い散る中行なわれるクリスマス・イベントと云う、物凄い事態だ。
しかも、無茶な遺伝子改造や育て方のせいで、この「桜」は、街路樹として使える大きさに育って数年後には「寿命」らしい。ここまで、馬鹿馬鹿しい技術の無駄使いは、そうそう聞いた事が無い。
「しまった……歩きでも目立つか……」
荒木田さんが、そう言った。
そうだ……辺りに居るのは、ほぼ、外国人観光客。通称「靖国神社」の「従業員」も、若い女性の多くは巫女姿、接客係らしい男性は神主の正装で、肉体労働が主らしい「従業員」も男女を問わず作務衣なんかの和装だけど動き易い格好。出入り業者らしい人達も、勤め先の作業着や制服らしいものを着ている。
早い話が、それほど高価そうじゃない普段着の洋服で……日本人……少なくとも「ネイティブの日本語をしゃべってるアジア系」は……あたし達ぐらいだ。
「えっ?」
仁愛ちゃんのGPSを追って、あたし達が乗った車は、この「島」のほぼ中央を経由して「秋葉原」と「九段」を結ぶ通称「靖国通り」を走っていた。「本物の東京」に有った「本物の新宿」から「本物の市ヶ谷」「本物の九段」「本物の神保町」「本物の秋葉原」を経て「本物の浅草」までをつないでいた道路にちなんだ名前だ。
「もう『島』の真ん中あたりです。……あ、もう『九段』に入った……」
「何で、そもそも、『九段』のヤツが『秋葉原』で人攫いをやってるんだ?」
「この『島』の4つの地区の内、マトモな警察が有るのが『有楽町』だけ。『自警団』が、一番、金も人の有る代りに、一番タチが悪いのが『九段』。そして『秋葉原』の『自警団』は、他の2つの『自警団』から舐められまくってる」
「なるほど……」
「俺の親父が生きてさえいれば……」
「今更言っても仕方ないよ」
「しかし……何だ……ここは?……ここが『九段』か?」
周囲に有るのは、ケバケバしい和風の……正確には「日本人が思う『和風』」ではなく「日本を良く知らない外国人がイメージする『和風』」の建物。
「そう……ここは、町自体がバカデカい神社 兼 外国人向け観光施設。それも『秋葉原』みたいな『自分の国では庶民』でも来れる所じゃなくて、大金持ち向けの。クソ金持ちが身元を隠して、かなりマズい『遊び』が出来る場所」
「この車じゃ目立つか?」
「今居る道路は、他の地区の車も通る所だから大丈夫だけど……脇道に入ったら……大半の車が高級車か業務用の車」
「攫われた2人の移動速度は?」
「動いてません。推定移動速度ほぼ0。検出誤差未満」
「距離は?」
「歩いて一五分ぐらい」
「車から降りて歩くか……一番近い駐車場は?……なるべく無人のヤツ」
そして、荒木田さんは、無人駐車場に車を止める。
しかし、やっぱり、判る人が見れば、あたし達の車は目立つ。
同じ駐車場に止まってる乗用車は、ほとんどが、中国・韓国・インド・台湾製の電動車の高級タイプ。ここ数年で急速に性能や品質がUPして、特に金持ち向けにバカ売れしてるヤツ。
車種までは判らなくても、エンジンレスのイン・ホイール・モーター式なので、一応は高専生のあたしや勇気からすれば、タイヤを見れば一目瞭然な上に、車体の形そのものもガソリン車とは微妙に違う。
もちろん、あたし達の車は、富士の噴火より前の型式の日本製のガソリン車だ。
車を降りて歩き出すと、道のあちこちに、小さい「祠」が有った。噂では「九段」のあちこちに有る「祠」には、こっちの「自警団」が使う「式神」だか何だかが居るみたいなんだけど……。
『「お姫様」、何か居る?』
『居たとしても、私や貴方には何の危険性も無い「モノ」かと』
『つまり、勇気にとっては危険な「何か」が居たとしても見えない訳ね』
『その通りです』
そして、歩道の所々には「街路樹」が有った。外国人の金持ち観光客向けに「和風」をアピールする為の通称「バイオ山桜」。
ソメイヨシノに似ているけど花が咲いてる時に葉も生える山桜をベースに、DNA操作やら特殊な育て方やらで、一年中花を咲かせる事が可能になった桜。
もちろん、この夏の暑い盛りでも見事に花が咲いている。しかも、この「島」は九州沖とは言え北の方で、「本土」に近い日本海側なので、初雪は毎年一二月ごろだ。その結果、この「九段」で起きるのは、「町1つが巨大な神社」の筈の場所で、外国人観光客向けに桜と雪の両方が舞い散る中行なわれるクリスマス・イベントと云う、物凄い事態だ。
しかも、無茶な遺伝子改造や育て方のせいで、この「桜」は、街路樹として使える大きさに育って数年後には「寿命」らしい。ここまで、馬鹿馬鹿しい技術の無駄使いは、そうそう聞いた事が無い。
「しまった……歩きでも目立つか……」
荒木田さんが、そう言った。
そうだ……辺りに居るのは、ほぼ、外国人観光客。通称「靖国神社」の「従業員」も、若い女性の多くは巫女姿、接客係らしい男性は神主の正装で、肉体労働が主らしい「従業員」も男女を問わず作務衣なんかの和装だけど動き易い格好。出入り業者らしい人達も、勤め先の作業着や制服らしいものを着ている。
早い話が、それほど高価そうじゃない普段着の洋服で……日本人……少なくとも「ネイティブの日本語をしゃべってるアジア系」は……あたし達ぐらいだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした
仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」
夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。
結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。
それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。
結婚式は、お互いの親戚のみ。
なぜならお互い再婚だから。
そして、結婚式が終わり、新居へ……?
一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
機械娘の機ぐるみを着せないで!
ジャン・幸田
青春
二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!
そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
たまには異能力ファンタジーでもいかがです?
大野原幸雄
ファンタジー
大切な何かを失って、特殊な能力に目覚めたロストマン。 能力を奪う能力を持った男が、様々なロストマンの問題を解決していく異能力ファンタジー。
星屑のリング/リングの導き
星歩人
SF
惑星再生の為の植物を探す旅に出た少女が未開の惑星で、砂漠の鼠と呼ばれるならず者と出会い、騙され、協力し、苦難を乗り超えて友情を結んでいくSF冒険ファンタジーです。
負けヒロインはくじけない
石田空
ファンタジー
気付けば「私」は、伝奇系ギャルゲー『破滅の恋獄』のルート選択後の負けヒロイン雪消みもざに転生していることに気付いた。
メインヒロインのために主人公とメインヒロイン以外が全員不幸になるメリバエンドに突入し、異形の血による先祖返りたちの暴走によりデッドオアアライブの町と化した地方都市。
そこで異形の血を引いているために、いつ暴走してしまうかわからない恐怖と共に、先祖返りたちと戦うこととなった負けヒロインたち。
陰陽寮より町殲滅のために寄越された陰陽師たち。
異形の血の暴走を止める方法は、陰陽師との契約して人間に戻る道を完全に断つか、陰陽師から体液を分け与えられるかしかない。
みもざは桜子と主従契約を交わし、互いに同じ人を好きだった痛みと、残されてしまった痛みを分かち合っていく。
pixivにて先行公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる