上 下
4 / 125
第一章:Driving Me Wild

(3)

しおりを挟む
 ショッピング・モール内のぬいぐるみ屋さんで、陳列してあるぬいぐるみを眺める。
 何だかんだ言って「魔法少女」だった頃より収入は減ってるので、下手に買う訳には……。
 駄目だ。
 駄目だ。
 絶対駄目だ。
 駄目だ……判ってるけど……この恐竜たちかわいい……。
「ええっと……今日、この子買って……来月に……こっちの子を……ごめんね、スーちゃん、スーちゃんのガールフレンドがウチに来るのは来月に……」
『人間さん、あんた、愛し合っとるもん同士ば引き離して、何が楽しかとね?』(注:幻聴です)
「だ……だからスーちゃん、来月にはガジくんもウチに来るようにするから……」
『ガジくんは、スーお姉ちゃんが寂しがってると思うだけで、胸が痛くなるのだ。早く、スーお姉ちゃんのそばに行ってあげたいのだ』(注:これも幻聴です)
「ガジくんまで、そんな事言わないで……絶対に……来月には一緒にしてあげるから……」
『本当やろうね? 嘘やったら、ウチもガジくんも、一生、あんたと寝てやらんけんね』(注:くどいようですが、これも幻聴です)
 我ながら怪しい人にしか思えない事をつぶやきながら恐竜のぬいぐるみをレジに持って行こうとしたら……。
『お客様にお報せします。当施設内で危険な特異能力者の可能性が有る人物が異常な行動を行なっています。お客様は警備員の指示に従い……』
 はあ?
 何だよ、この放送?
 そして、次の瞬間……。
「ファイアーボール‼」
 その叫びと共に……。
 声のした方を見ると……閃光と爆音。
 いや、マンガやラノベじゃないんだから……。
 現実の「魔法」だと物理現象を起こせるモノは……とんでもなく効率が悪い。
 たとえば、人1人余裕で呪い殺せるほどの「力」を消費して、ロウソクに火を灯すのがやっとだ。
 なので、「魔法使い」の多くは攻撃魔法を学ぶ場合は「対生物・対霊体特化型」になり……なので、物理現象を起こせる魔法を身に付けたり研究してる魔法使いは数が少なくて……あとは、悪循環が何百年も続いてたみたいで、どの地域のどんな流派でも、ある程度以上の規模の物理現象を起こせる魔法を使える「魔法使い」は、ほぼ居ない筈……。
 でも……確かに見えた……聞こえた。
 目が眩むほどの光と……耳が聞こえなくなるほどの轟音。
 ……いや……ちょっと待って……。
 何か、魔力とか気とかが……あ…あれ? さっき、確かに……
 ともかく……呼吸を整えて……「気」を周囲に放つ。
 この「気」は攻撃や防御の為のモノじゃない。
 レーダーの電波みたいなモノで、周囲の「気」や「霊力」を探るのが目的だ。
 でも……。
 居ない。
 周囲に居る人間が「魔法使い」などの自分の気・霊力・魔力なんかを操る訓練をした人間なのかは……「気」を探れば、ある程度は判る。
 と言っても、「気」の強さよりも、「気」のパターンみたいなモノだけど。
 そして……周囲には……「魔法使い」特有の「気」のパターンの持ち主は……。
 え……えっと……あたしの放った「気」が届く範囲に居る人間は……全員……おそらく一般人。
 でも……。
 何か変な気配が1つ。
 もう1度、探知用の「気」を放つ。
 変な気配は……さっきの「ファイアーボール‼」って声がした方向。
 目も見えず、耳も聞こえないまま、そっちへ走り……。
 変な気配は……誰か……多分、「魔法使い」なんかじゃない普通の人間の気配と重なっていた。
 その人間に向けて……。
「うりゃあああッ‼」
 叫んだつもりだけど……耳もまだ回復してない。
 あたしはパンチと共に「気」を叩き込む。
 ガシャンッ‼
 回復したあたしの耳に鳴り響いた最初の音は……ガラスが割れる音……。
 そして……視力を取り戻したあたしの目に最初に写ったモノは……通路の吹き抜けから下の階に落ちつつある1人のおじさん……。
 その時、あたしに投げ付けられたモノが有った。
 上着……。白っぽい色のカジュアルな感じの……男女どっち用でもおかしくない感じデザインの……大人ものにしては小さ目の上着。
「えっ?」
 続いて……小柄な女の人の後ろ姿。
 一本結びの髪がゆらめく……。その髪を束ねてるのは……青い迷彩模様のリボン。
 あたしが、今、髪を束ねてるのと同じデザインのモノだ。
 その人は、おじさんを追って、通路の吹き抜けに飛び込み……。
「あっ‼」
 あたしも、その女の人の後を追い、上着の片方の袖を両手で握り、上着を下に垂らし……。
「おい、すぐに助けを呼べ」
 その女の人は……片手で落ちかけてるおじさんの手を握り……もう片手で垂らされた上着を掴みながら、そう叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ヒトナードラゴンじゃありません!~人間が好きって言ったら変竜扱いされたのでドラゴン辞めて人間のフリして生きていこうと思います~

Mikura
ファンタジー
冒険者「スイラ」の正体は竜(ドラゴン)である。 彼女は前世で人間の記憶を持つ、転生者だ。前世の人間の価値観を持っているために同族の竜と価値観が合わず、ヒトの世界へやってきた。 「ヒトとならきっと仲良くなれるはず!」 そう思っていたスイラだがヒトの世界での竜の評判は最悪。コンビを組むことになったエルフの青年リュカも竜を心底嫌っている様子だ。 「どうしよう……絶対に正体が知られないようにしなきゃ」 正体を隠しきると決意するも、竜である彼女の力は規格外過ぎて、ヒトの域を軽く超えていた。バレないよねと内心ヒヤヒヤの竜は、有名な冒険者となっていく。 いつか本当の姿のまま、受け入れてくれる誰かを、居場所を探して。竜呼んで「ヒトナードラゴン」の彼女は今日も人間の冒険者として働くのであった。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...