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犯罪都市 ― The Outlows ―
護国軍鬼2号鬼・茨城県大洗町近辺
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十年前、当時の日本の首都圏の大部分は壊滅した。だが、旧首都圏と同じ関東とは言っても、茨城ともなれば、富士の噴火の影響は間接的に……例えば経済的打撃など……しか受けていない。
しかし、ここでも、日本の他の地域……いや、世界の他の地域と同じく、富士の噴火の前から、この手の事態は起きないには越した事は無いにせよ、交通事故程度には有りふれた事になっていた。
もっとも、今、起きているのは交通事故に喩えれば、2桁の台数の玉突き衝突並の重大事故だと思う者も多いだろうが。
『タケちゃん。地元警察も「対異能力犯罪警察」や「対組織犯罪広域警察」の地元部隊も、今の所、動きはないみたいだ』
後方支援要員から無線連絡が入る。
残念ながら、国家機能がマトモになる日は遠いようだ。俺は六十・七十になっても「正義の味方」を続けるか……さもなくば、若い世代に「正義の味方」稼業を継いでもらうしか無いらしい。俺にとって、前者の選択肢は、これっぽっちも望ましくないが、後者の選択肢は更に望ましくない。
「おい、作戦中はコードネームで呼べと何度言えば……」
『五〇過ぎの実の従兄弟を、中学生が考えたみたいな恥ずかしい芸名で呼ばなきゃいけないのか? いい加減、勘弁してくれ』
「作戦中は個人情報を漏らすのも禁止だ。何十年、この仕事をやってる?」
『悪い。この仕事は、あくまで副業だ。あと、そっちこそ何十年にも渡って、何度、同じ事を言わせる? 個別通信の時まで堅苦しい話は無しにしてくれ』
ふと、姪の顔が脳裏に浮かぶ。同じ稼業をやっていた、今、行方不明中の弟は、自分の娘を、この稼業の跡継ぎにしようとしていた。
俺の姪が俺達のような真似をせずに済む世界、と云うささやかな夢は、残念ながら完全に潰えたようだ。
前方には4m級の軍用パワーローダーと、約1時間前まで、それを乗せていた大型トラックが走っている。
脚部の高速移動用車輪を逆回転させて後ろ向きに走っているパワーローダーの手には五〇口径の機関砲。対物ライフル級の威力の弾丸を毎秒二〇発は発射出来る物騒な代物だ。もちろん、今、俺を狙って火を吹いている。
その弾丸を何とかかわしながら、四輪バギーで目標を追い続ける。「国防戦機」シリーズの軍用パワーローダーは、銃撃の際、操縦者の動きを一〇〇%トレースするのではなく、制御AIにより動きを補正する事で命中率を上げているが、その補正方法は何年も前に解析済みなので、こちらの四輪バギーも半自動操縦により、向こうのAIの「癖」の裏をかく方法で銃撃を何とか回避し続けている。
しかも、幸か不幸か、あの機体の今の「持ち主」が「大事なのは国防戦機・特号機で、操縦者など消耗品」と考えるようなロクデナシだったせいで、向こうの操縦者は、まだ未熟で、それほど経験を積んでいないらしい。逆に裏が有るのでは?と勘繰りたくなるほど馬鹿正直に俺を狙って来るので、この四輪バギーの制御AIからすれば、更に回避し易くなっている。あの機関砲の威力と連射性能からすれば「道路そのものを破壊して俺の追跡を振り切る」などと云う手も可能だろうが、そう云う発想は浮かばないようだ。
もっとも、昔、あれの「先祖」に当る代物を、制御AIのバグを利用して横転させる、と云う方法で二重の意味で「倒した」事は有るが、あれの開発者達も馬鹿では無く、富士の噴火の前に対策をされてしまっているので、もう、その時の方法は使えない。あるバージョン以降は、操縦者が、わざと転ぼうとしても、逆に転んでくれなくなっている。
そして、こちらも機関銃を掃射しているが、相手にとっては豆鉄砲同然だ。あれの装甲をブチ抜けるだけの武器を関東まで持って来ていた方が良かったのかも知れない。
早い話が、お互い手詰まりだが、困った事に、この状態では、時間の経過そのものが先方の味方だ。
『そろそろ港だ』
「判った。プランBに切り替え。俺は『囮』を続ける」
俺の追撃も虚しく、軍用パワーローダー「国防戦機・特号機」はフェリー型の輸送船に乗り込み、悠々と海上を移動し始めた……ように相手に思わせる芝居を打った……。もちろん、船に乗り込む前に撃破すると云う最善の策が失敗した事による次善の策に過ぎないが……。
『よっし、ドローンで船に発信機を取り付けたぞ』
「ご苦労さん」
日本及び韓国・台湾・中国・ロシア・香港の主要な港の近辺が守備範囲の「同業者」は、今夜の内にも「国防戦機・特号機」が乗った船の追跡を始めるだろう。航路から上陸先がほぼ確定したなら、そこの警察にも、それとなく情報を流す手筈になっている。もちろん、どこまで対処出来るかは、今後の状況次第だが。
旧政府が無くなった際に、「もう1つの自衛隊」こと「特務憲兵隊」のシンボルでもあった「国防戦機」が多数「裏」に流れた。外国の金持ちの兵器マニアが庭の飾りとして買った場合も有れば、犯罪組織が実用品として買った場合も有る。その中でも「特号機」と呼ばれる機体を手に入れたのは無法地帯と化した旧首都圏を支配する犯罪組織の1つだった。そして、今、その犯罪組織は、その「国防戦機・特号機」を旧首都圏から、どこかに持ち出そうとしていた。
……まさか、この時は、その「国防戦機・特号機」が……よりにもよって、俺の姪と戦う事になるなど、思ってもみなかった。
しかし、ここでも、日本の他の地域……いや、世界の他の地域と同じく、富士の噴火の前から、この手の事態は起きないには越した事は無いにせよ、交通事故程度には有りふれた事になっていた。
もっとも、今、起きているのは交通事故に喩えれば、2桁の台数の玉突き衝突並の重大事故だと思う者も多いだろうが。
『タケちゃん。地元警察も「対異能力犯罪警察」や「対組織犯罪広域警察」の地元部隊も、今の所、動きはないみたいだ』
後方支援要員から無線連絡が入る。
残念ながら、国家機能がマトモになる日は遠いようだ。俺は六十・七十になっても「正義の味方」を続けるか……さもなくば、若い世代に「正義の味方」稼業を継いでもらうしか無いらしい。俺にとって、前者の選択肢は、これっぽっちも望ましくないが、後者の選択肢は更に望ましくない。
「おい、作戦中はコードネームで呼べと何度言えば……」
『五〇過ぎの実の従兄弟を、中学生が考えたみたいな恥ずかしい芸名で呼ばなきゃいけないのか? いい加減、勘弁してくれ』
「作戦中は個人情報を漏らすのも禁止だ。何十年、この仕事をやってる?」
『悪い。この仕事は、あくまで副業だ。あと、そっちこそ何十年にも渡って、何度、同じ事を言わせる? 個別通信の時まで堅苦しい話は無しにしてくれ』
ふと、姪の顔が脳裏に浮かぶ。同じ稼業をやっていた、今、行方不明中の弟は、自分の娘を、この稼業の跡継ぎにしようとしていた。
俺の姪が俺達のような真似をせずに済む世界、と云うささやかな夢は、残念ながら完全に潰えたようだ。
前方には4m級の軍用パワーローダーと、約1時間前まで、それを乗せていた大型トラックが走っている。
脚部の高速移動用車輪を逆回転させて後ろ向きに走っているパワーローダーの手には五〇口径の機関砲。対物ライフル級の威力の弾丸を毎秒二〇発は発射出来る物騒な代物だ。もちろん、今、俺を狙って火を吹いている。
その弾丸を何とかかわしながら、四輪バギーで目標を追い続ける。「国防戦機」シリーズの軍用パワーローダーは、銃撃の際、操縦者の動きを一〇〇%トレースするのではなく、制御AIにより動きを補正する事で命中率を上げているが、その補正方法は何年も前に解析済みなので、こちらの四輪バギーも半自動操縦により、向こうのAIの「癖」の裏をかく方法で銃撃を何とか回避し続けている。
しかも、幸か不幸か、あの機体の今の「持ち主」が「大事なのは国防戦機・特号機で、操縦者など消耗品」と考えるようなロクデナシだったせいで、向こうの操縦者は、まだ未熟で、それほど経験を積んでいないらしい。逆に裏が有るのでは?と勘繰りたくなるほど馬鹿正直に俺を狙って来るので、この四輪バギーの制御AIからすれば、更に回避し易くなっている。あの機関砲の威力と連射性能からすれば「道路そのものを破壊して俺の追跡を振り切る」などと云う手も可能だろうが、そう云う発想は浮かばないようだ。
もっとも、昔、あれの「先祖」に当る代物を、制御AIのバグを利用して横転させる、と云う方法で二重の意味で「倒した」事は有るが、あれの開発者達も馬鹿では無く、富士の噴火の前に対策をされてしまっているので、もう、その時の方法は使えない。あるバージョン以降は、操縦者が、わざと転ぼうとしても、逆に転んでくれなくなっている。
そして、こちらも機関銃を掃射しているが、相手にとっては豆鉄砲同然だ。あれの装甲をブチ抜けるだけの武器を関東まで持って来ていた方が良かったのかも知れない。
早い話が、お互い手詰まりだが、困った事に、この状態では、時間の経過そのものが先方の味方だ。
『そろそろ港だ』
「判った。プランBに切り替え。俺は『囮』を続ける」
俺の追撃も虚しく、軍用パワーローダー「国防戦機・特号機」はフェリー型の輸送船に乗り込み、悠々と海上を移動し始めた……ように相手に思わせる芝居を打った……。もちろん、船に乗り込む前に撃破すると云う最善の策が失敗した事による次善の策に過ぎないが……。
『よっし、ドローンで船に発信機を取り付けたぞ』
「ご苦労さん」
日本及び韓国・台湾・中国・ロシア・香港の主要な港の近辺が守備範囲の「同業者」は、今夜の内にも「国防戦機・特号機」が乗った船の追跡を始めるだろう。航路から上陸先がほぼ確定したなら、そこの警察にも、それとなく情報を流す手筈になっている。もちろん、どこまで対処出来るかは、今後の状況次第だが。
旧政府が無くなった際に、「もう1つの自衛隊」こと「特務憲兵隊」のシンボルでもあった「国防戦機」が多数「裏」に流れた。外国の金持ちの兵器マニアが庭の飾りとして買った場合も有れば、犯罪組織が実用品として買った場合も有る。その中でも「特号機」と呼ばれる機体を手に入れたのは無法地帯と化した旧首都圏を支配する犯罪組織の1つだった。そして、今、その犯罪組織は、その「国防戦機・特号機」を旧首都圏から、どこかに持ち出そうとしていた。
……まさか、この時は、その「国防戦機・特号機」が……よりにもよって、俺の姪と戦う事になるなど、思ってもみなかった。
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