青き戦士と赤き稲妻

蓮實長治

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「青き戦士」第2章:猛襲(オンスロート)

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一つ約束して欲しい。
明日、何が有ろうと君は君のままでいてくれ。
完璧な兵士ではなく、一人の善良な男のままで。
ジョー・ジョンストン監督「キャプテン・アメリカ:ザ・ファースト・アベンジャー」より

「両側のが、この世界の日本の国旗と、久留米の市の旗。真ん中のが『世界政府』の旗です」
「ねぇ……変な事聞くけど……この世界のユダヤ人って無事なの?」
「ヨーロッパのユダヤ人の事でしたら……『世界統一戦争』中にマダガスカルに移民したけど、その後、伝染病でほぼ全滅した事になってます。あくまで『世界政府』の公式見解ではね」
「あぁ、なるほど。で、ユダヤ人は、本当にマダガスカルで死んだの?それとも、アウシュヴィッツで殺されたの?」
「『アウシュヴィッツ』って何ですか?地名ですか?それとも施設か何かですか?」
「あ~あ~あ~……う~んと……ここ、そぅ~ぅ~世界な訳か……」
「それと……奇遇ですね……。私の妹が、ある人物から全く同じ事を聞かれた、と言ってました。その『アウシュヴィッツ』と云う地名も含めて」
「なるほど……もう1つの嫌な予感が当ってたよ」
「貴方より先に、別の世界から、この世界に来た者が居る事に気付いた理由は何ですか?『青龍』が存在したからですか?」
「やっぱり、キミも、ボクがこの件には裏が有ると思ってる事に気付いてた訳だね。答をうと、そのモーターサイクル以外に、もう1つ。この世界に、ボクの世界と同じ規格のGPSが有る」
 ……そう、ボクの「鎧」のモニタには、この場所の緯度・経度が表示されている。そして、「鎧」の制御コンピュータの内部時刻と、「鎧」に搭載されているGPSの内部時刻に、いつの間にか、数ヶ月単位のズレが生じている。早い話が、GPSの方の内部時刻が、ボクの世界から見て「来年の3月」のものになっていたのだ。GPSはGPS衛星の「時計」と装置デバイス側の「時計」の時刻の誤差が少ない状態でしか使いモノにならないので、おそらく、GPS衛星と通信した結果だろう。
「この世界に、ボクの世界でう『GPS』に相当するモノが有っても、ボクの世界で作られた装置デバイスと互換性が有る訳が無い。ボクの世界か、ボクの世界とつい最近までは同じ歴史を辿った別の平行世界から、おそらく何年か前……最低でも数ヶ月前には来ていた何者かが居る。それも結構な数」
「まぁ、私も、その『GPS』とやらについては、詳しい事は聞いてないので……」
「へぇ……。で、ボクがこの世界に呼ばれた理由が、誰かが書いた脚本の結果なら、ボクにも、その脚本をくれないかな?あと、脚本家にアポ取るにはどうしたらいいの?ボクを呼んだ理由も、ボクにこの世界を救って欲しい訳じゃないんでしょ、ど~せ」
「私も、彼らと接触したのは最近なので……判っているのは、この世界で『アーリマン』が消滅してから『神の力』を持つ者であれば、自分の『神』の平行世界版が居る平行世界との通路を比較的自由に開けるようになった事と、それ以前からも平行世界との行き来は困難ではあっても全く不可能じゃなかった、と云う事だけで……」
「アーリマン?他の神様どもが世界にもたらした『歪み』を打ち消す役目の特別な神様の事?」
「そうです。貴方の世界にも居たんですか?」
「ボクの世界では、別の名前を名乗ってた。……しかし、マズいね、これ……。わざと『時と闇の神カーラ・チャクラ』……キミたちの世界で云う『アーリマン』をブッ殺したなんて間抜けな事はしてないよね?ブッ殺せるとしてだけど」
「ええ、私達にとっても想定外の事態です」
「脚本は有ったけど、撮影中にテリー・ギリアムの『ドンキホーテを殺した男』みたいな凄いトラブルが起きた訳か。ねぇ、ややこしい事にならない内に、元の世界に戻っていい?キミがわざと『ポータル』を閉じたんでしょ?」
「ややこしい事って?」
「例えば、この世界そのものが複数の平行世界に分岐してしまい、それに巻き込まれた結果、ボクやキミの存在そのものが消えるとか。神を名乗るあの怪獣ゴジラどもの本当の能力が『現実の書き換え』『因果律への介入』である以上、この世界に居る『神の力』を使えるヤツが何かする度に、この世界そのものが辻褄合せの為に平行世界を生み出す可能性が生じてしまう。そして、その可能性は、他の神様のおいたの後始末をする神様が消えた状態では、もの凄くデカくなってる」
「言ってる事は、何となく判りますが、そのテリーなんとか氏とかゴジラって、何なんですか?」
「ええっと……ああ、そうか、この世界では映画の『ゴジラ』シリーズは無いし、テリー・ギリアムは存在してても、有名人にはなってない訳ね」
「……なるほど……つまり、貴方の世界にはテリー・ギリアムと云う映画監督が居て……」
「そうそう」
「代表作が『ドンキホーテを殺した男』と云う映画で」
「ま……まぁ、概ね、そんな感じかな」
「その映画は『ゴジラ』と云う怪物が出て来る連作シリーズの1つ、と……」
「キミ、絶対、ホントの事知ってて、わざとボケてるだろ⁉」
「えっ?」
「違うの?」
「それはともかく、ひょっとしてですが、貴方達の世界が、他の平行世界と接触したのは、これが初めてじゃないんですか?」
「よく判ったね。……まぁ、『鎧』の動力源である幽明核……こっちでは何て呼んでるか知らないけど……が存在する以上、この世界の大半の人たちが知らないだけで、この世界もかつて、他の平行世界と接触した可能性が高いんだけどね」
「えっ?どう云う事です?」
「ボクたちの世界で『鎧』の動力源を最初に生み出したのは、旧日本陸軍の特務機関『大連高木機関』と『哈爾浜高木機関』。そして、複数の平行世界の『大連高木機関』と『哈爾浜高木機関』が協力して研究を行なう事で、こんなオーバーテクノロジーを生み出した。多分、この世界でも似たような事が起きてると思う」
「聞いた事が有ります。その組織の名前は……。実の父と養父がある記録の中から、その組織の存在を発見し……学術論文にしたんですが、発禁扱いになりました」
「でも、ボクたちの世界と云うより、ボクとボクの仲間たちは、様々な平行世界を渡り歩いてた者と接触した事が有る。どうも、そいつは、キミたちの世界で『アーリマン』と呼ばれてるヤツが人類の大半を細菌兵器でほぼ全滅させた世界の出身らしい。そして、ボクとボクの仲間たちは、そいつから様々な情報を得た。『鎧』の動力源の本来の目的とか、ロクデナシの神様が暴れ回るままにしておくと何が起きるかとか、逆に、君たちの世界で『アーリマン』と呼ばれる存在が人類を滅ぼそうと考えるに到る危険性とか」
「もしかすると、貴方が貴方とは別の世界の者と接触した事が有る事も彼等にとって想定外の事態かも知れませんね」
「ちょっと待って、キミの仲間……になるのかな?ボク以外の他の世界から来た連中をキミは信用してないの?」
「知り合って、そんなに時間が経ってないので、まだ、何とも……。彼らが初めて接触したのは、約半月前、私の妹が死に、妹が持っていた『神の力』を私が受け継いだ直後です」
「なるほど……ボクの世界と、その点は同じか……。『娑伽羅サーガラ竜王の娘』を名乗る5体の『竜神』は、巫女が死ぬと、巫女と親しい女性の内の誰か1人に受け継がれる。血の繋がりは必要って訳じゃないけど、大概は、家族の誰か」
「貴方の言う『娑伽羅サーガラ竜王の娘』が、この世界では『九頭竜クトゥリュウの娘・宮帝羅クティーラ』と名乗っている以外は、その通りです。ところで、何をする気なんですか?」
「何人か死なない程度にブチのめして、自白剤を撃って詳しい事情を聞く。でも、キミはどうするの?多分、ヤツらからもらったモノを使ってると、ヤツらに居場所がバレるよ。そのモーターサイクルとか、ヘルメットとか」
「まずは、目の前の問題を片付けましょう。5人ですか?」
「いや……それに加えて、ロボットが2体」
 彼女が、ボクの恋人と同じ能力を持つなら、体の大半が水で出来た存在……つまり通常の生物の存在は感知出来る。その能力を知った上で裏をかくつもりだったらしい。しかし、ボクの「鎧」のセンサは、金属の存在と、わずかな熱、そして動作音を検知していた。しかし、どう云う事だ?ロボットの動作音は、ボク達の世界の「鎧」に使われている人工筋肉のものとは、明らかに違う。むしろ……そう、モーターで駆動するタイプ……例えば、ボク達の世界の旧式の強化服や、この世界の「鎧」のものに近い。
「なるほど。とりあえず、生きた人間5人の内2人は『神の力』を持つ者……えっ?これは?」
 彼女のような「神の力」を持つ者は、他の「神の力」を持つ者の存在を検知出来る。そして、ボク達を取り囲んでいる者達の中に「神の力」を持つ者2人居て、その片方は、「神の力」の持ち主の中でも、ちょっと特殊なヤツらしい。
「まさか、ボクの『鎧』や、この世界の『鎧』と同じ反応?」
「ええ、でも、コレは……まさか……?」
「ボクの予想が当ってるなら、『鎧』の動力源を埋め込まれた人間だよ。いや、『鎧』の動力源は、元々、特殊な改造人間を生み出す為に作られたモノだった。少なくともボクの世界ではね」
「そうだ、青い『鎧』の戦士。俺は、旧日本陸軍・哈爾浜高木機関が行なった『護国軍鬼デモニック・パトリオット』計画の再現実験の被験者だ」
 後方から男の声。日本語だが、ネイティブじゃない。訛からすると、母国語は多分、ヨーロッパ系の言語……おそらく英語。声からすると、二十代か三十代かだけど、ボクの世界に居たヤツと同じとするなら、改造の結果、老化が遅くなっているので、実際には、老人並の経験と最盛期の肉体を合わせ持ってる可能性が高い。
 そう、ボクの「鎧」の別名である「護国軍鬼」は、元々は、「神の力」を常人に移植して作られた対神人間兵鬼タクティカル・フィーンドの名前であり、ボク達の「鎧」は、本来の意味での「護国軍鬼」の追加武装が原型だ。
「一緒に来てもらいたいが……どうやら、2人とも、私達を信用していないようだな」
 闇の中から若い女性の声がしたと同時に炎の鳥が出現した。そして、茜色の光が、夜の闇を払った。
 そして、それと同時に……。
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