青き戦士と赤き稲妻

蓮實長治

文字の大きさ
上 下
18 / 51
「赤き稲妻」第1章:平和の時代(ユートピア)

(11)

しおりを挟む
 十三人……いや一人減って十二人の「鋼の愛国者」の内五人が、ここ香港に集められていた。
 そして、香港に到着した後、大して休む間も無く、私達は世界政府軍香港基地の会議室の1つに呼ばれた。
「全員そろったようだな」
「悪しき者達は我らが手で癒す‼」
 作戦の指揮官のである「鋼の愛国者」13=1、コードネーム「金色のジークフリート」ことヴァルター・ランダ大佐と、副指揮官であるヘルマン・グルリット中佐を除く三名は、右手をまっすぐに上げて「鋼の愛国者」の「誓言」を唱えると着席した。
「前から思ってたんですが、これ、やる必要が有るんですかね?」
 グルリット中佐は、左手で頬杖を突いて、右手でペンをクルクル回しながら、ニヤニヤとしか形容出来ない、しかし何故か愛嬌のある笑みを浮かべながら、混ぜっ返すように言った。
 ランダ大佐は、じろりとグルリット中佐を睨む。
「始めてくれ」
 グルリット中佐は「鋼の愛国者」の現役メンバーの中でも最古参で、史上最も長く生き延びた「鋼の愛国者」だが、命令違反や独断専行が多く、出世街道からは外れている。
 一方で、ランダ大佐はグルリット中佐より2~3歳年下だが、堅実に仕事をこなすタイプで、部下(つまり私達だが)にも規則遵守を徹底させている。
 上の方は真逆の二人を組合せる事で巧く中和したつもりだろうが、残念ながら、強酸と強いアルカリを不用意に混ぜれば、往々にして危険な反応が起きる。
 やがてグルリット中佐は電脳を操作し、会議室の大型スクリーンに、元「7=7」の殺害死体を写し出した。
「とまぁ、死体の状況は、こんな感じだが……ゲロ袋を用意した方が良かったかな?」
「やめたまえ、中佐」
 ランダ大佐の気難しそうな顔は、いつもの五割増しで不機嫌そうな表情になり、いつもおどけた感じの禿頭の巨漢であるグルリット中佐は「またやっちまった」とでも言いたげな「照れ笑い」六〇%に「ニヤニヤ笑い」四〇%の笑みを浮べた。
「しかし……何故、死体にここまでの……何と言うべきか……」
 エリーザベト・ヴェールマン中尉が嫌悪感に満ちた表情と口調で、そう言った。
「まさに、死体損壊と言うより、凌辱とでも呼ぶべきだな。生前の傷は顔のものだけだ。その傷が元で『7=7』ことアドラー大尉は死亡か戦闘不能。その後、鎧を剥ぎ取り、カーネルを奪い、死亡後に死体の手足と腹と胸に軟弾頭弾を何発も撃ち込んでいる。敵は異常者なのか、それとも何か別の理由が有るのか、今の所は不明だ」
 ランダ大佐の声は妙に冷静だった。
「普通の殺人であれば、そんな真似をするのは殺しに慣れてないヤツでしょうけどね。相手が死んだが確信が持てないか、慣れない殺しでパニックに陥って、そんな真似をやらかした」
「だが、アドラー大尉を倒した程の腕前の者が、殺しに慣れていないなど、考えにくいな」
「ところで、アドラーの奴は、顔にいきなり一撃を食らって、おっんだんですか?」
「君にしては良い質問だ、グルリット中佐。後方支援部隊との通信が妨害されていた為、詳細は不明だ。頭部以外を負傷していたとしても、組織はグチャグチャになっており、解剖しても大した事は判らない。同行していた護送車の要員も全員死亡している」
「警察や民間の街頭監視カメラに映像は無かったんですか?」
「すでに香港警察に映像の確保を依頼済みだ。ミリセント少尉とヘルムート大尉は香港警察の本庁へ行って映像を受け取って来てくれ。グルリット中佐とヴェールマン中尉は、検屍官とは別の視点から死体の状況を確認してくれ。『鎧』の損傷状況は調査中だが、明日までには報告がまとまるまるようだ」
「で、上海で俺達が接触したジャミラ・ニュートンの言う通り、何者かが『鋼の愛国者』を一箇所に集めて一網打尽にするつもりだったら、どうするんですか?何者かの手にわざと乗りますか?それとも……」
「その判断をするにも情報が足りない。まずは情報を集めよう」
「ジャミラ以外に、最近、香港近辺で動きの有ったテロリストの情報は有りますか?」
「未確認情報だが、ここ2~3週間で、アイルランド解放軍のウィリアム・マクギャバンと黒桜隊の河野康夫、義烈団の朴 裕天パク・ウチョンの目撃情報が有ったらしい」
「どう言う事ですか?我々から見りゃ、どいつもテロリストとは言え、確執が有る連中が、仲良く一箇所に集合ですか?」
「そっちの方は私が調べよう。では、解散」
「了解しやした」
「悪しき者達は我らが手で癒す‼」
「悪しき者達は我らが手で癒す‼」
「悪しき者達は我らが手で癒す‼」
「……だから、これ、やる必要有るの?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

クリオ・リマキナ

もちもちピノ
SF
20⬜︎⬜︎年7月18日 地球に突如として現れた異星人と怪獣達 世界が混乱の渦に飲まれた。しかし ある日突然現れた白き巨人。 人はそれをクリオ・リマキナと呼んだ。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

おとなのための保育所

あーる
BL
逆トイレトレーニングをしながらそこの先生になるために学ぶところ。 見た目はおとな 排泄は赤ちゃん(お漏らししたら泣いちゃう)

処理中です...