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Lesson14

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 バチン、と視線が絡み合う。

 すると彼はなぜか思いっきり笑顔を見せ、暫くすると私と川崎さんのいるテーブルにやって来た。

「有香。席つめて」
「え、あ、あの?!」

 動揺しすぎて素直に奥の席へと移動する私。向かいの席では川崎さんがポカンと口を開けたままだ。

「今日は日帰り出張だったんだけど、連絡を貰ってさ」

 連絡??

「…あの、三嶋さん。こちらは?」
「えと、弊社営業部の桐生です。桐生さん、こちらは仕事でお世話になっているキョウエイ株式会社の川崎さん」

 そういうことを聞きたいワケではないと、私も分かっておりますが。

「ど~も、有香の彼氏の桐生です」
「…あの、あの、私ね」

 最後まで言い切らないうちに彼は口を開く。

「想定内なんだよなあ」
「へ?」

「あ、川崎さん。今から御耳汚しをするかもしれませんが、ご容赦ください」
「え、あ、はい?」

「だいたい、最近おかしかったし。何か思い詰めてるんだろうなあ、とは思った。そしたら営業部の女性社員4人がだよ、入れ替わり立ち替わりで『有香には内緒に』つって密告に来たんだよ。お前が別れるつもりだとさ」

 杏さん、ルイさん、ハルカさん、進藤さ~ん。

「先月末付で別れるつもりだったんだろ?そのクセ、何を言うワケでもなく電話を着拒にしたりLINEをブロックしてみたり。バカなのか、お前」
「だ…って、別れるって言いたくなかったんだもん」

「その時点で、別れたくないってコトだろうよ」
「だって、このまま付き合ったとして桐生さん、一生浮気しないと約束出来る?」

 恐る恐る…という感じで、川崎さんが口を出す。

「あの~、三嶋さん?浮気をされてもいないのに、浮気されるのが怖くて別れることにしたの?あはは、そりゃあ理不尽だね~」

 援軍を得て、桐生さんは得意満面の表情になった。

「ほれ見てみろ、川崎さんもこう仰ってる。そんなの俺だけじゃなくて他の男でも浮気の可能性はあるだろうが。なんで俺限定にしてまだ起きていないことを心配するんだよ」

 ウンウン、と川崎さんは頷く。

「だって、川崎さん!この人100人斬りなんですよ!女たらしなの」

 一瞬、川崎さんは戸惑いの表情を浮かべる。

「う~ん。100人と聞くと状況変わるねえ」
「でしょでしょ?!」

 桐生さんは、チッと小さく舌打ちする。

「それは有香と付き合う前の俺で、今は違うってお前自身が一番よく分かっていることだろう?」
「分かるけど、でも。貴方のことが好きすぎて、だから、他の女性に心が移ったらきっと私…死んじゃうかもしれないもん!」

 あれ?
 あれれ?

 桐生さんと川崎さんが頭を抱えて項垂れている。私、何かおかしなことを言ったかな…。すると、真っ赤な顔をした桐生さんがキッとこちらを見詰めて言った。

「分かった。もう、結婚しよう」
「へ?なんでそうなるの??」

 戸惑う私を後目にニヤニヤ顔の川崎さんがボソリと呟く。

「こりゃあ、破壊力がスゴイ。こんな熱烈に好きって言われたら、コロリだな。堪んないですね、桐生さん」
「でしょ?本人だけがそれを分かってなくて」
「わ、分かってるよ。だから…えっと」

 そっか。
 私いま、『浮気したら死ぬよ』って言ったんだ。
 くう。は、恥ずかしい。

「有香が死なないように努力するよ。だからさ、結婚しちゃえば女の方から寄ってこなくなるだろ?もしも俺がフラッとしても、きちんと離婚だの慰謝料だのとペナルティも課せられるからいろいろと便利じゃんか」

 ニコリ、とそれはもう美しく微笑む。ふふっ、桐生さんは目尻の皺さえ美しいね。

「うほ。俺、帰りましょうか?」
「いえいえ。最後まで見届けてくださいよ」

 なぜか引き留められる川崎さん。奇妙な連帯感が3人の間で生まれ、そして何故か酒盛りが始まった。

「早く返事しろよ有香。プロポーズって結構勇気いるんだぜ」
「だって、そんなのスグに決められないよ」
「またもう。決まってるクセに、三嶋さん」

 ぐでぐでな感じで宴は進み。酔っているクセに、ちゃっかり電話の着拒とLINEのブロックは解除させられて。

 川崎さんがトイレに行っている間に、
 こっそりキスまでされてしまった。

 
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