みどりさんの好きな人

ももくり

文字の大きさ
上 下
6 / 15

6.トモ

しおりを挟む
 
 
 「へ?」

 その日の昼休み。
 いつもの焼きそばパンを食べていると、翠ちゃんがボソリと呟いた。

「か、彼氏を作ろうと思うのよ」

 どうした、有川翠。頭でもぶつけたか?

「シュウちゃんに迷惑ばかり掛けられないから。本当はひとりで大丈夫と言いたいところだけど、きっと鼻で笑われちゃうだろうし。彼氏できたってことにすれば、いいでしょ?」

 だって、シュウさんは…。
 
 ああ、もう本当に面倒な人たちだな。傍目で見てる私でさえ分かったのに、なんで当人同士はこんなコトになってるの??

「翠ちゃんはそれでいいの?シュウさんのこと、ずっと好きだったじゃない」
「あのね。ずっとトモに黙ってたけど、シュウちゃんには好きな女の人がいるんだって。私のせいで、その人と付き合えないみたいなの」
 
 もしもーし。
 たぶん、その『好きな女の人』ってさ…。

 ああ、もう私が言っても信じないだろうな。本人が納得できるまで、自由に泳がせよう。…親友の私はそう思ったワケで。まさかこの決断が、更なる面倒を引き起こすとは思っていなかった。

 絶妙のタイミングで、近寄る影。

「聞いちゃった。俺、いいよ、彼氏になっても」
「か、軽っ」
 
 思わず、焼きそばパンに乗っていた紅ショウガを吹き飛ばす。どこから湧いて出たのか、それは学園王子こと森野龍之介で。強引に翠ちゃんの椅子にグイグイと座り、顔を近づけてこう言った。

「俺ならきっとあの人、納得するよ。そのへんの男じゃ見劣りするだろ?」

 いやいや。シュウさんと比べれば、世の中の男ほぼ全てが見劣りしますし。ていうか、きっと誰だろうと認めないと思う。
 
 まさかのまさかで、翠ちゃんは即答する。

「えっ、いいの?森野君、いいひと~!じゃあ、よろしくお願いします」
 
 翠ちゃん、『付き合う』ってさ、おテテ繋いで一緒に登下校するだけじゃないよ。ましてやこの森野だもん。あんなことや、こんなこと、されちゃうよ?きっとシュウさんが怒り狂うだろうなあ。

 …案の定、その日の帰り道。森野と私も一緒に来てと懇願され、並んで歩く。なぜか前列はシュウさんと翠ちゃん。後列は私と森野という、謎の並び。必死の形相で、翠ちゃんがシュウさんに告げる。

「あのね、登校はトモがいるし、下校は森野君と帰るから、シュウちゃんは一緒じゃなくて大丈夫だよ」

 一瞬立ち止まり、それはもう優しく笑ってシュウさんが問い返す。

「意味、わかんないな。この『森野君』は、翠の何なワケ?」
「か、彼氏なのッ。付き合うことにしたんだ私」

 シュウさんは、まだ笑っている。そこに、勇者・森野が口を出した。

「真剣交際しますんで、ご安心ください!」
「……」

 む、無視?!
 でも、まだ笑ってる。

 そのまま、駅で森野君と別れ、ニコニコ微笑んだまま、シュウさんは翠ちゃんを自宅へと連れ込む。私んちは、もう少し先にありまして。ちなみに3人とも同じ町内なんだな。きっと今から荒れ狂うんだろうナ~。私以外、誰も知らない秘密。それは、シュウさんが

 …究極のツンデレであること。

 彼は、翠ちゃんを溺愛していて。
 そのクセ、なぜか2人きりだと凶暴になる。

「翠が可愛すぎて、ツライ」
 
 以前、私にそうボヤいていた。でも、なぜか本人には死んでも言えないそうだ。2年分の愛情を、きっと今から彼女にぶつけるのだろう。人前では、あんなに爽やかで穏やかそうなのに。翠ちゃんの前でだけ、言葉遣いも雑で、凶暴だ。それを彼女から聞いたときの、衝撃ときたら。
 
『好きな女』なんて、そんなのアンタに決まってるでしょ。…そう言いたいけど、きっと言っても信じない。そのくらい、彼の態度は豹変するらしいのだ。
 
 完璧な男なんて、どこにもいない。
 
 永井シュウの生きざまを見ていると、
 心底、そう思うのである。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あやまち

詩織
恋愛
恋人と別れて1年。 今は恋もしたいとは特に思わず、日々仕事を何となくしている。 そんな私にとんでもない、あやまちを

最愛の彼

詩織
恋愛
部長の愛人がバレてた。 彼の言うとおりに従ってるうちに私の中で気持ちが揺れ動く

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

仮の彼女

詩織
恋愛
恋人に振られ仕事一本で必死に頑張ったら33歳だった。 周りも結婚してて、完全に乗り遅れてしまった。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

処理中です...