21 / 31
ああ言えば、こう言う。
しおりを挟むえっと。
湊に絶賛片想い中の時はどれほど懇願しても一緒にいてくれなかったクセに、こうして私が他の男性と付き合い出した途端、一緒にいたがるのはどう解釈すれば良いのでしょうか?
そんな疑問を口にしたところ、瞬殺された。
「はあッ?!お前、自意識過剰かっつうの。今まで相手にしなかった女に、彼氏が出来たという理由で惜しがってモーションかけるのはモテない男のすることだぞ。俺がどんなにモテるか朱里が一番知ってるだろ?」
「たっ、確かに」
そう言われればグウの音も出ない。『それは大変失礼致しました』と逆に謝罪してしまう私だったのだが、『それでもやはり世間様の目は気になる』と反論すると、それもまた瞬殺されてしまう。
「元々、廣瀬さんと俺の3人でツルんでたんだし、2人きりが嫌なら他に誰か呼べばいいだけの話だよな?そうしないってことは、むしろ朱里の方に下心が有るんじゃねえの?」
「なっ、なるほど」
ああ言えば、こう言う。
なんだこの口から生まれたクチ太郎みたいな男は。…いや、桃から生まれたのが桃太郎ならば口から生まれたのが口太郎だと勝手に私が思っただけでしてね、じゃあ金太郎は金から生まれたのかって話なんですけど、それは違うんですよ。坂田金時の幼名なんだとその昔、父が教えてくれました。
って、何の話でしたっけ?
「大丈夫?朱里ちゃん」
「はい!というワケで、もしよければ私達と一緒に食事していただけませんか?」
目の前でホンワリと微笑んでいる女性は、九瀬七海さんといって同じ総務部の4年先輩だ。
社外の人間に声を掛けようかとも思ったが、突発的に決まる我らの予定とスケジュールが合わせ難いので断念することに。しかも、普通の女子だと湊に惚れること間違い無しなので、トラブルを避けるため最善の人選をさせていただいたワケである。
この七海さんは幼い頃に両親が離婚し、連れ子同士の再婚で5人姉弟の長女になったという経歴を持つ。中でも血の繋がらない2つ年下の弟をこよなく愛しており、それを公言して憚らない強者なのだ。だから、相手が湊だろうと絶対に好きにならない。誰が見てもジミメガネのフツメンである弟の祥君しか、目に入らないのだ。
「うーん、いいわよ。なんか最近、祥ってば忙しいみたいでウチに帰って来ないし」
「彼女でも出来たんでしょうか?」
「…朱里ちゃんもそう思う?」
「いや、さすがにもう祥さん25歳ですし」
「しかも超カッコイイからね!女が放っておかないよね!!」
「はあ…、かもですね…」
視力矯正をお薦めしたい。いや、でも、私はスマホという小さな枠内で画像を見せて貰っただけだから、実物はとんでもなくカッコイイのかも…って、そんなはず無い。アレはどこをどう切り取っても普通だ。
「九瀬七海?名前に九と七って数字が2つも入ってんの?マジ、ウケル~」
「瀧本さんってほんと失礼ですね~。お察しのとおり九月七日生まれなんですよ」
「はあ?!そんなの察せるヤツ絶対にいないと思う」
「いや、過去に3人もいましたけどッ」
「すげえ、それを当てたの預言者かそれとも占星術師だろ」
「んなワケ無いでしょう。発想が貧困な人ってコレだから…」
案の定、七海さんは湊の前でも一切態度は変えず、ズバズバと辛辣な言葉を投げていく。そのせいか湊も異常に打ち解け、気付けば仲良し3人組状態で日々、楽しく過ごすことに。
『1カ月を目途に』と言っていた廣瀬さんはどうやら苦戦しているらしく、総務部に姿を見せることも無くなった。私に対しても最初は1日1回の電話をしてくれていたのが、いつの間にか2日に1回になり、それが更に数日に1回になって。電話がLINEからのメッセージに変わり…2か月経過した今ではもう生きているのか死んでいるのかさえ、分からない状態になってしまった。
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる