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ああ言えば、こう言う。
しおりを挟むえっと。
湊に絶賛片想い中の時はどれほど懇願しても一緒にいてくれなかったクセに、こうして私が他の男性と付き合い出した途端、一緒にいたがるのはどう解釈すれば良いのでしょうか?
そんな疑問を口にしたところ、瞬殺された。
「はあッ?!お前、自意識過剰かっつうの。今まで相手にしなかった女に、彼氏が出来たという理由で惜しがってモーションかけるのはモテない男のすることだぞ。俺がどんなにモテるか朱里が一番知ってるだろ?」
「たっ、確かに」
そう言われればグウの音も出ない。『それは大変失礼致しました』と逆に謝罪してしまう私だったのだが、『それでもやはり世間様の目は気になる』と反論すると、それもまた瞬殺されてしまう。
「元々、廣瀬さんと俺の3人でツルんでたんだし、2人きりが嫌なら他に誰か呼べばいいだけの話だよな?そうしないってことは、むしろ朱里の方に下心が有るんじゃねえの?」
「なっ、なるほど」
ああ言えば、こう言う。
なんだこの口から生まれたクチ太郎みたいな男は。…いや、桃から生まれたのが桃太郎ならば口から生まれたのが口太郎だと勝手に私が思っただけでしてね、じゃあ金太郎は金から生まれたのかって話なんですけど、それは違うんですよ。坂田金時の幼名なんだとその昔、父が教えてくれました。
って、何の話でしたっけ?
「大丈夫?朱里ちゃん」
「はい!というワケで、もしよければ私達と一緒に食事していただけませんか?」
目の前でホンワリと微笑んでいる女性は、九瀬七海さんといって同じ総務部の4年先輩だ。
社外の人間に声を掛けようかとも思ったが、突発的に決まる我らの予定とスケジュールが合わせ難いので断念することに。しかも、普通の女子だと湊に惚れること間違い無しなので、トラブルを避けるため最善の人選をさせていただいたワケである。
この七海さんは幼い頃に両親が離婚し、連れ子同士の再婚で5人姉弟の長女になったという経歴を持つ。中でも血の繋がらない2つ年下の弟をこよなく愛しており、それを公言して憚らない強者なのだ。だから、相手が湊だろうと絶対に好きにならない。誰が見てもジミメガネのフツメンである弟の祥君しか、目に入らないのだ。
「うーん、いいわよ。なんか最近、祥ってば忙しいみたいでウチに帰って来ないし」
「彼女でも出来たんでしょうか?」
「…朱里ちゃんもそう思う?」
「いや、さすがにもう祥さん25歳ですし」
「しかも超カッコイイからね!女が放っておかないよね!!」
「はあ…、かもですね…」
視力矯正をお薦めしたい。いや、でも、私はスマホという小さな枠内で画像を見せて貰っただけだから、実物はとんでもなくカッコイイのかも…って、そんなはず無い。アレはどこをどう切り取っても普通だ。
「九瀬七海?名前に九と七って数字が2つも入ってんの?マジ、ウケル~」
「瀧本さんってほんと失礼ですね~。お察しのとおり九月七日生まれなんですよ」
「はあ?!そんなの察せるヤツ絶対にいないと思う」
「いや、過去に3人もいましたけどッ」
「すげえ、それを当てたの預言者かそれとも占星術師だろ」
「んなワケ無いでしょう。発想が貧困な人ってコレだから…」
案の定、七海さんは湊の前でも一切態度は変えず、ズバズバと辛辣な言葉を投げていく。そのせいか湊も異常に打ち解け、気付けば仲良し3人組状態で日々、楽しく過ごすことに。
『1カ月を目途に』と言っていた廣瀬さんはどうやら苦戦しているらしく、総務部に姿を見せることも無くなった。私に対しても最初は1日1回の電話をしてくれていたのが、いつの間にか2日に1回になり、それが更に数日に1回になって。電話がLINEからのメッセージに変わり…2か月経過した今ではもう生きているのか死んでいるのかさえ、分からない状態になってしまった。
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