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てっ、天使??
しおりを挟む…と、いうワケで廣瀬さん宅にいたりする。
ホテルで…という選択肢も有ったのだが、廣瀬さんの『自宅の方が不測の事態に対応出来る』という言葉になんとなく頷いてしまったのだ。
「不測の事態って例えばどんなことが起きるんでしょうかね?」
「うーん、よく分からないなあ、俺も」
「えっ、分からないのに自宅を選択したんですか?」
「ほら、俺も久々だしさ、自分のテリトリーの方がリラックス出来るじゃないか」
「はあ、そうですか」
「ホテルって結構、壁薄いし。隣室に声を聞かれてると思うとなんか萎えるんだよなあ…」
「意外とナイーヴなんですね」
「あー、でもまさかOKしてくれるとは思ってなかったけどさ。本当にいいの?俺が初めての男になっちゃって」
改めて問われると、自分でもよく分からない。
勢いで返事してしまったような気もするし、廣瀬さんとの距離を縮めるにはもうコレしか残っていないようにも思える。だって、私達はたっぷり会話してお互いを十分に理解したというのに、それでも距離を感じてしまうのはどうしてなのだろうか?
廣瀬さんのことはとても尊敬しているし、信頼もしている。だから、もっと近づきたいのにその手段が分からないのだ。恋愛初心者の私と、リハビリが必要な廣瀬さんには、手っ取り早く荒療治が必要なのかもしれない。
もしかして恋人の域に達するには心だけではなく、身体も繋げなければいけないのかも…という考えから、その誘いを承諾してみたワケだ。
そう伝えると、廣瀬さんは一瞬だけ真顔になって、それからゆっくりと笑った。
「そっか、俺と本気で恋愛してくれるつもりだったのか」
「は?当然でしょう、だって私は一応廣瀬さんの彼女なんだし。でも、2人きりになってもなかなかそういう甘い雰囲気にならなくて、もしかして私に魅力が無いからかもと悩んでいたんですよ」
コトンとテーブルの上にコーヒーの入ったマグが置かれ、私はその匂いを思いきり嗅ぎながら廣瀬さんの顔を見つめる。
「魅力が無いわけないじゃないか」
「じゃあどうしてキスもしてくれなかったんですか?」
って、ん??
このタイミングでキスっておかしくない??
ソファに座る私の隣りに腰を下ろした廣瀬さんは、自分の膝に私を乗せて有無も言わさず唇を重ねた。柔らかなその感触の合間から肉厚で狂暴な舌が入ってきて、私の舌を絡め取る。クチュ、ピチャと淫らな音に羞恥心と同じだけ興奮も高まる。
ふああああっ、何この気持ちいいキス…。
『あらゆる面で完璧になろうとしてしまう』と自身でも言っていたように、廣瀬さんのキスは非の打ち所の無い百点満点のキスだった。寂しさだけを残して唇に伝わっていた熱が離れて行く。
「太田さん…朱里は俺にとって特別な存在だから、だから怖かったんだ」
「特別…?」
キスで麻痺してしまった脳を自力で活性化させていた最中だったせいか、私は無意識に笑っていたようだ。
「朱里との関係が余りにも心地良くて、このままずっと一緒にいてくれたらいいな…って。仕事は好きだけど、ビフォーとアフターが同じような生活をここんとこずっと続けてて、メリハリが無いというか、自分がロボットになったみたいな感覚で、なんかちょっとヤバイって思ってたら、目の前に天使が現れた」
「て、天使?」
まさか、それって…。
「その天使は『美味しいね』って一緒にご飯食べて、くだらない雑談してくれるだけで俺を人間に戻してくれるんだよ。俺のクソ長い話を真剣にウンウンって聞いてくれるし、『今日も頑張りましたね』って一日の終わりに必ず言ってくれたし、それだけで苦労が報われた気がして、朱里は本当に俺の天使なんだ」
「ひ、廣瀬さん…」
何このギャップ!!
普段、あんなに自信満々で偉そうなのに。そんな泣きそうな顔して、どこもかしこも真っ赤にしながら『天使』とか言っちゃうなんて。そんなの聞かされたら、普通は死ぬよ!即死だよ!!
「ああ、言っちゃった…、朱里に重いと思われる…」
「重くないよ!すっごく嬉しい!!」
そう言って私は自分から廣瀬さんに抱き着いた。
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