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よねざわさん、よねざわさん、よねざわさん…。

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 エレベーターに乗り、夜間用の従業員出入口から出て、大回りしながら大通りに面したコーヒースタンドへと向かう。その移動の際に私、廣瀬さん、前田さん、千脇さんの4人でフォーメーションが組まれ、全員一列に並んだり廣瀬さんと私、前田さんと千脇さんで二列になったり、男女別で分かれたり、とにかく目まぐるしくその位置が変わっていくうちに気付けば米沢さんを囲むようにして、4人とも円卓についていた。

 えっと、早く帰りたそうにしてたのに、
 この2人まで連いて来ちゃったよ。

「米沢さん、お待たせしてごめんなさい。彼が仕事で外出していて、この時間まで戻って来なかったんです」
「全然平気だよ。ところで、どっちの男性かな?」

 素早く顔を伏せる前田さんと、ドヤ顔で微笑む廣瀬さん。多分、私が紹介するまでもなくその態度で米沢さんは分かってしまったのだろう、それこそ舐めるように廣瀬さんを見つめ始めた。

 そっか、こういう時に廣瀬さんは本領を発揮するんだな。注目されることがどうやら嫌いでは無いらしく、軽く足を組んでから『コホン』と軽く咳払いすると、分かり易くドヤ顔がドヤドヤ顔へと進化する。それから漸く自己紹介が始まった。

「初めまして、朱里さんとお付き合いさせていただくことになった廣瀬です」
「朱里さんの友人で米沢といいます。突然呼び出したりして失礼だとは思ったのですが、どうしても確認しておきたかったものですから」

「確認?」
「あの、あまりにも瀧本湊という男の評判が悪すぎて、皆んな凄く朱里ちゃんのことを心配しているんですよ。こうなったら俺が憎まれ役になっても構わないから、そいつを諦めさせようと決心したワケでして。気持ち悪いストーカー男だと思われても構わない、とにかく湊という男と切れてくれればって。朱里ちゃん、すごくイイ子だから、そんなつまんない男のせいで時間を無駄にさせたくないって言うか、だからなんかもう、安心しました」

 よねざわさん…。

「安心、ですか?」
「はい。だって湊とかいう男のことご存知ですか?俺も一回しか見たこと無いんですけど、本当にもう胡散臭くて。長髪、両耳に複数のピアス、着ていたシャツなんかボタンが4つも開いてたりして。でもまあ、外見だけで判断するのもどうかと思って念のため朱里ちゃんの友人である佐古さんからその性格についても聞いたんですけどね、それで余計に確信しましたよ。あんな男に関わったら、朱里ちゃんは絶対不幸になる」

 よねざわさん、よねざわさん…。

「それは仰るとおりですね」
「ええ、ですから、諦めさせようと意気込んで来たんですけど、その朱里ちゃんが『実は新しい彼氏が出来た』と。まさか同じ轍を踏むことは無いだろうとは思いましたけど、この目で確かめるため相手に会わせてくれとお願いしたんです」

 よねざわさん、よねざわさん、よねざわさん…。

「ということは、俺は合格でしょうか?」
「勿論です。また外見のことを言って申し訳ありませんが、社会人として理想的な方だとお見受けしました。あの…、でも廣瀬さんのような素敵な男性が、一時的とは言えフリーだったなんて信じ難いのですが、まさか他に彼女がいたりしませんよね?」

 私の中で『よねざわシュプレヒコール』が起きていたせいで返答に遅れたところ、間髪入れずに千脇さんが答えてくれた。

「いません。仕事バカで一時的どころか2年間も彼女がいません!」
「えっ、2年間も??」

「ご安心ください!モテ過ぎて、女除けのために偽の彼女役をした私が言うんだから間違いありません」
「女除けを??」

「でも私はここにいる前田と付き合い出したので、お役御免になったのです」
「そう…ですか。あの、まさか朱里ちゃんも女除けとして利用されているんじゃありませんよね?」

「あはは、ご安心ください。この2人はきちんと好き合っていますから!!」
「本当かい?朱里ちゃん」



 ここまで来れば、もう後には引けない。
 私は声高らかに『ハイッ!』と答えた。

 
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