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美香編

えッ?

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 案の定、質問攻めになった私は答えられる範囲で必死に答えたのだが、いい加減ウザったくなったのでこうしてトイレに逃げたワケだ。だが、そこでこんな刺客が待ち受けているとはいったい誰が予測出来たであろうか?
 
「朝日、俺と付き合え」
「はい?どちらの案件でしょうか?」
 
 そう訊ねた私に柴崎さんはいつもの余裕綽々の笑顔で答える。
 
「はあ?お前、相変わらずこっち関係は鈍いな。そうじゃなくて、俺の女になれって意味だよ」
 
 頭、大丈夫ゥ~?
 
 だって課長の話を聞いてたはずだよ、私が婚約しましたよって。んで、アナタも私の斜め前の席でそれらしく驚いてたじゃない。あれ全部、忘れたってのッ?!…と鼻で笑うことも出来ず。
 
 いや、そんなことよりも私は迷った時間も含むとかなり長時間宴席を離れているので、とっととトイレを済ませて早く戻りたかったのだ。
 
 >朝日さん、もしやお腹の調子悪いの?
 >まさか妊娠してて、悪阻とか?
 
 そんな邪推をしそうな営業アシスタントの女子たちがワンサカいると言うのに、これ以上油を売らせないで欲しい。
 
「あの…私は柴崎さんにこれっぽっちも恋愛感情を抱けないんですが。だって女性の扱い、かなり雑ですよね?残業中に何度か彼女らしき方と電話されてましたけど、吃驚するほど冷たくて私まで凍えるかと思いました」
「は?勝手に人の電話を盗み聞きすんなッ」
 
「盗み聞きって…。だって、あんな自席で堂々と私用電話するんですもん、勝手に耳に入ってきますよォ。自意識過剰な人はこれだから困る」
「自意識過剰だと?おいこら朝日!こう見えて女性の扱いには定評が有るんだ!お前の聞いたその電話ってのはな、勝手に人の電番を調べて掛けて来たストーカー女なんだよッ。だから口調もキツかっただけだ!俺は…」
 
 まだまだ話が続きそうなので一方的に中断してトイレの中へと駆け込む。ったく、いったい何だと言うのか?結婚が決まりそちらに全神経を集中したいのに、波風を立てようとするなんて本当にタチが悪い。
 
 慌てて用を足し、エアータオルで手を乾かしてからトイレを出るとそこにまだ柴崎さんが待っていて。憮然とした表情で私に訴えてくるのだ。
 
「おいこら朝日、人の話は最後まで聞けって!俺はな、お前のことをかなり気に入ってるんだ。でもこの全戦全勝の俺を、そう、モテまくりの人生だった俺を、お前が『好みじゃない』とか言い切りやがるから。だから絶対に恋愛対象は異性じゃないと思い込んじまったんだよッ!!」
「えッ?私が柴崎さんに靡かないから、同性愛指向者だと思い込んだってこと?!」
 
 
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