朝日家の三姉妹＜３＞～奈月の場合～

お待ちかねの志季ｓｉｄｅ（志季視点）

　
　
　※ここからは志季ｓｉｄｅとなっております。
　
　
　
　＞きゃあ！壮一様と目が合っちゃったわ。
　＞ええっ、ズル～イ。
　＞私、挨拶してきちゃおう。
　
　＞壮一様に告白してみちゃおうっかなあ。
　＞嘘！頑張って～。
　
　＞付き合ってみたら、アイツ勘違いし出して。
　＞なんか最近、キモイ。
　
　＞だよねえ～、よくよく見たらブタみたい。
　＞あはは、キモブタ～。
　＞おい、ブタのくせにこっち見んなよ！
　＞あっち行け！近寄んなッ。
　
　…樋口壮一は、中学に入ってから出来た友人だ。
　
　色白で女みたいな顔をしていたが、その体型は少しと言うか相当太っていて。痩せればきっと芸能人並みのルックスだろうに、彼いわく母親が料理研究家で料理の試食をさせられるのだと。優しい彼はそれを断れずに、その結果、脂肪がどんどん蓄積したらしい。
　
　でもまあ、テディベアみたいで見苦しくない太り方と言うか、性格もおっとりしていたことが功を奏し、周囲の女子たちが１人、また１人と樋口のことを『可愛い』と騒ぎ出した。
　
　それは段々と異常なまでになり、そのうち樋口のボールペンやファイルなんかが盗まれるようになって、ちょっとしたアイドル状態に。
　
　そして騒いでいるグループのリーダー的な女子から告白された樋口は、そのコと付き合い出す。

『だって、断ったら何を言われるか分からない』という非常に消極的な理由では有ったが、彼氏らしく振る舞おうと必死で頑張っていたと思う。
　
　その努力も虚しく、ある日樋口はリーダー的な女子から死刑宣告を受けてしまうのだ。それも、『調子に乗っている』という意味不明な理由で。
　
　可哀想な樋口は彼女たちに翻弄されただけなのにまるで汚物の如く扱われ、罵倒されながらも卒業までの半年間をどうにか凌ぎ。そして高校に入ってからダイエットに励んで驚きの変貌を遂げ、現在に至るというワケだ。
　
　彼が苦しんでいたその頃、俺も苦しんでいた。父と離婚した母が懲りもせずヒモみたいな男に入れ込んだせいで生活費がスッカラカン状態になっており。仕方なく父に助けを求めるもキッパリと断られ、幾つかのバイトを始めた俺に向かって母は呑気にこう言ったのだ。
　
『志季、あんた働き過ぎじゃない？』
　
　おいおいおい。じゃあ、アンタが働けよ！！男に貢ぎまくってるクセして何言ってんの？…そう反論しても、母にはちっとも響かない。
　　
　父に『養育費は俺に直接渡して欲しい』と伝えたことで、学費はどうにかなったものの、それ以降も母は平気で借金を繰り返す。
　
　なので、今度は母方の祖父母に頼んでガッツリ締めて貰い、やっと生活が安定したと思ったら、今度は女子たちから呼び出しを受け始めるのだ。
　
『志季くん、付き合ってください！』
『私、ずっと志季くんのことが好きでッ』
　
　騙されるもんか。
　
　だって、俺は知っているんだ…樋口が受けた仕打ちを。お前ら女という生き物は平気で男を玩具にして、飽きると難癖をつけて手酷く捨てるんだろう？