15 / 21
母との攻防
しおりを挟む早速、母へと視線を移すと、菩薩のように柔らかく微笑み返され。それから思いっきり顔を逸らされてしまう。
「お、お母さん?その態度、すっごく不自然なんだけどッ」
「そお?っぐそんッなことなわわ」
ほら、動揺しすぎ。今も紅茶じゃなくてマカロン飲もうとしてるし。
「お願い、お母さん。貴臣のことで知っているのなら教えて!10年っていったい何のことなの?」
母は意味深な表情を浮かべたかと思うと、そのまま唇の前で人差し指を立てる。
「ヒ・ミ・ツ…っていうか、言えないの。もしスミレに教えたことがバレたら、私、お父さんに殺されちゃうから」
残念ながら母はとても頑固なので、こうと決めたら一歩も譲らない。だからこの膠着状態を動かすには、メガトン級の何かを出さねばならないのだ。そして私はそのメガトン級のネタを偶然、隠し持っていた。
「ねえ、お母さん。実は私、知ってるのよ。アレグザンダーがなぜ死んだのかを」
「ひ、ひいいっ」
アレグザンダーというのは、父が異常なまでに愛情を注いでいた犬で。チベタン・マスティフという犬種自体、とても珍しいそうなのだが、しかもそれの純血種ということで物凄く入手困難だったらしい。
裏ルートやコネを駆使して、掛かった費用は最終的に200万円を超えたとかなんとか。そこまでして手に入れた犬が、僅か2年で死亡。その原因は、最後まで不明なままだった。
しかし、私は知っているのだ。母がアレグザンダーの口が臭いと大騒ぎして、キシリトール入りのガムを噛ませたことを。それも1個では無く、一気に10個ほど口に放り込んだらしい。
勿論、そんなモノを与えれば犬は死ぬ。
この話を庭師見習いの若い男性から聞いた私は、この話を決して他言しないようにと懇願し、暴君の父から母を守るため沈黙を貫いた。それがまさか、こんな時に役立つとは。半信半疑の様子で見つめてくる母に向けて、ガムを噛むジェスチャーをしてみせる。
「ひいっ。ス、スミレ、お願いだからその話は墓場まで持って行ってちょうだいッ」
「いいわよ。じゃあ交換条件として、貴臣の件、今ここで話してくれるわね?」
母の黒目が水平なままでキョロキョロ動き、それから右側だけガクンと落ちる。どうやら2つの案件を自分なりに秤にかけて、軽い方を選んだようだ。
「…分かった。貴臣くんのことを教えてあげる。でも私がこれから言うことは絶対、内緒にして」
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~
蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。
職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。
私はこんな人と絶対に関わりたくない!
独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。
それは……『Dの男』
あの男と真逆の、未経験の人。
少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。
私が探しているのはあなたじゃない。
私は誰かの『唯一』になりたいの……。
初色に囲われた秘書は、蜜色の秘処を暴かれる
ささゆき細雪
恋愛
樹理にはかつてひとまわり年上の婚約者がいた。けれど樹理は彼ではなく彼についてくる母親違いの弟の方に恋をしていた。
だが、高校一年生のときにとつぜん幼い頃からの婚約を破棄され、兄弟と逢うこともなくなってしまう。
あれから十年、中小企業の社長をしている父親の秘書として結婚から逃げるように働いていた樹理のもとにあらわれたのは……
幼馴染で初恋の彼が新社長になって、専属秘書にご指名ですか!?
これは、両片想いでゆるふわオフィスラブなひしょひしょばなし。
※ムーンライトノベルズで開催された「昼と夜の勝負服企画」参加作品です。他サイトにも掲載中。
「Grand Duo * グラン・デュオ ―シューベルトは初恋花嫁を諦めない―」で当て馬だった紡の弟が今回のヒーローです(未読でもぜんぜん問題ないです)。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~
蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。
なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?!
アイドル顔負けのルックス
庶務課 蜂谷あすか(24)
×
社内人気NO.1のイケメンエリート
企画部エース 天野翔(31)
「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」
女子社員から妬まれるのは面倒。
イケメンには関わりたくないのに。
「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」
イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって
人を思いやれる優しい人。
そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。
「私、…役に立ちました?」
それなら…もっと……。
「褒めて下さい」
もっともっと、彼に認められたい。
「もっと、褒めて下さ…っん!」
首の後ろを掬いあげられるように掴まれて
重ねた唇は煙草の匂いがした。
「なぁ。褒めて欲しい?」
それは甘いキスの誘惑…。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
俺様エリートは独占欲全開で愛と快楽に溺れさせる
春宮ともみ
恋愛
旧題:愛と快楽に溺れて
◆第14回恋愛小説大賞【奨励賞】受賞いたしました
応援頂き本当にありがとうございました*_ _)
---
私たちの始まりは傷の舐めあいだった。
結婚直前の彼女にフラれた男と、プロポーズ直前の彼氏に裏切られた女。
どちらからとなく惹かれあい、傷を舐めあうように時間を共にした。
…………はずだったのに、いつの間にか搦めとられて身動きが出来なくなっていた。
肉食ワイルド系ドS男子に身も心も溶かされてじりじりと溺愛されていく、濃厚な執着愛のお話。
---
元婚約者に全てを砕かれた男と
元彼氏に"不感症"と言われ捨てられた女が紡ぐ、
トラウマ持ちふたりの時々シリアスじれじれ溺愛ストーリー。
---
*印=R18
※印=流血表現含む暴力的・残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。
◎タイトル番号の横にサブタイトルがあるものは他キャラ目線のお話です。
◎恋愛や人間関係に傷ついた登場人物ばかりでシリアスで重たいシーン多め。腹黒や悪役もいますが全ての登場人物が物語を経て成長していきます。
◎(微量)ざまぁ&スカッと・(一部のみ)下品な表現・(一部のみ)無理矢理の描写あり。稀に予告無く入ります。苦手な方は気をつけて読み進めて頂けたら幸いです。
◎作中に出てくる企業、情報、登場人物が持つ知識等は創作上のフィクションです。
◆20/5/15〜(基本)毎日更新にて連載、20/12/26本編完結しました。
処女作でしたが長い間お付き合い頂きありがとうございました。
▼ 作中に登場するとあるキャラクターが紡ぐ恋物語の顛末
→12/27完結済
https://www.alphapolis.co.jp/novel/641789619/770393183
(本編中盤の『挿話 Our if story.』まで読まれてから、こちらを読み進めていただけると理解が深まるかと思います)
副社長氏の一途な恋~執心が結んだ授かり婚~
真木
恋愛
相原麻衣子は、冷たく見えて情に厚い。彼女がいつも衝突ばかりしている、同期の「副社長氏」反田晃を想っているのは秘密だ。麻衣子はある日、晃と一夜を過ごした後、姿をくらます。数年後、晃はミス・アイハラという女性が小さな男の子の手を引いて暮らしているのを知って……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる