上 下
42 / 56

望月さんとキャラメルナッツタルト

しおりを挟む
 
 
 私が美人では無いからと、早々に好青年の仮面を脱ぎ捨てた望月さんは辛辣で。二重人格なのではないかと疑いたくなるほど、私とそれ以外の女性の前とでは態度が違った。
 
 二次会の参加者が社内の人間限定だったから、私達は主に終業後の休憩室で打合せをしていたのだが。他の女性社員がいるとそうでも無いのに、2人きりになった途端ダラけてしまうのだ。
 
「あ~、くそ、腹減ってきたなあ。でもコレ、今日中に参加者リストを纏めないと会場の予約も出来ねえし」
「じゃじゃ~ん、そう思って差入れ作って来た。安心してッ、料理教室で先生に習ったとおりにやったから。そう、寸分の狂いも無くねッ」
 
「ええっ、まさかお前、やっぱり俺のことを狙ってるんじゃないだろうな?」
「だ~か~ら~、私には彼氏がいるんだってばッ」
 
 ブツクサ言いながらもキャラメルナッツタルトを箱から取り出し、紙ナプキンの上に置く。
 
「うっ、まるで店で売ってるヤツみたいじゃん」 
「望月さん、隠れ甘党だもんね。私の前では全然隠れてないけど」
 
 男が甘党なのは恥ずかしいからと周囲には内緒にしているそうなのだが、私なんぞに隠しても意味が無いということで早々にカミングアウトしてくださったのである。
 
「そんじゃ缶コーヒーを奢ってやるよ」
「あざーっす、望月センパイ」
 
 誰に見られても良いようにと、自販機で購入したのは相変わらずのブラックコーヒーだ。それを飲みながら豪快にタルトを頬張る姿を眺めていたら、突然スマホの着信音が。内藤さんの名前が表示されたので別の場所で応答しようと立ち上がったところ、なぜか望月さんに手首を掴まれてしまう。 

「彼氏からか?いいじゃん、ココで喋れば」
「えー、でもなんか喋りづらいし」
 
「なんで喋りづらいんだよ」
「それ…は、彼氏と望月さんとでは口調が違うからに決まってるじゃないの」
 
「面白い、是非、聞かせろ」
「え、ああっ、留守電になっちゃう」
 
 更に手首をグイグイ引っ張られ、仕方なく私はその場で電話に出ることにした。
 
「はい、もしもーし」
「あ、香奈?まだ会社にいるのか?」
 
「えっと、はい。でも仕事じゃなくヨッちゃんの二次会について新郎側の幹事と話し合っているだけなので。内藤さんの方はもう仕事終わりましたか?」
「うん、いま打ち合せが終わって香奈の会社の近くにいるから、久々に晩飯を一緒したいと思ってさ。こうやって誘いの電話を掛けてみたというワケだ」

「食事、いいですね!こっちもそろそろ帰ろうかと言っていたところなんですよ」
「良かった、じゃあ20分後に正面玄関の前で待ってるから、慌てず急いで来いよ」
 
 慌てず急げとな?そんな器用なこと出来ますか…とかなんとかブツクサ呟きつつ電話を切ると、すかさず望月さんが突っ込んで来る。
 
「おい!こっちはまだ終わりそうにないぞ」
「あ、ははっ。でも、だって、平日に誘われるのは久々なんだもんッ。どうせ明日もまた打ち合せするんでしょ?私の分は持ち帰ってリスト作成しておくから、今日だけは勘弁してよッ」
 
 多分、鬼気迫る表情をしていたのだろう。神様に祈るかの如く胸の辺りで両手を組む私を見て、口元を歪めながら望月さんはこう言った。
 
「ぶっ、く…、ぶはは!いいよ、許す。お前、マジで俺狙いじゃなかったんだな」
「はあ…?」
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺様な極道の御曹司とまったりイチャイチャ溺愛生活

那珂田かな
恋愛
高地柚子(たかちゆずこ)は天涯孤独の身の上。母はすでに亡く、父は音信不通。 それでも大学に通いながら、夜はユズカという名で、ホステスとして生活費を稼ぐ日々を送っていた。 そんなある日、槇村彰吾(まきむらしょうご)という男性が店に現れた。 「お前の父には世話になった。これから俺がお前の面倒を見てやる」 男の職業は、なんとヤクザ。 そんな男に柚子は言い放つ。 「あなたに面倒見てもらう必要なんてない!」 オレサマな極道の若と、しっかり者だけどどこか抜けてる女の子との、チグハグ恋愛模様が始まります。 ※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「絶対にキモチイイと言わせてやる」 私に多額の借金を背負わせ、彼氏がいなくなりました!? ヤバい取り立て屋から告げられた返済期限は一週間後。 少しでもどうにかならないかとキャバクラに体験入店したものの、ナンバーワンキャバ嬢の恨みを買い、騒ぎを起こしてしまいました……。 それだけでも絶望的なのに、私を庇ってきたのは弊社の御曹司で。 副業がバレてクビかと怯えていたら、借金の肩代わりに妊娠を強要されたんですが!? 跡取り身籠もり条件の愛のない関係のはずなのに、御曹司があまあまなのはなぜでしょう……? 坂下花音 さかしたかのん 28歳 不動産会社『マグネイトエステート』一般社員 真面目が服を着て歩いているような子 見た目も真面目そのもの 恋に関しては夢を見がちで、そのせいで男に騙された × 盛重海星 もりしげかいせい 32歳 不動産会社『マグネイトエステート』開発本部長で御曹司 長男だけどなにやら訳ありであまり跡取りとして望まれていない 人当たりがよくていい人 だけど本当は強引!?

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

快楽のエチュード〜父娘〜

狭山雪菜
恋愛
眞下未映子は、実家で暮らす社会人だ。週に一度、ストレスがピークになると、夜中にヘッドフォンをつけて、AV鑑賞をしていたが、ある時誰かに見られているのに気がついてしまい…… 父娘の禁断の関係を描いてますので、苦手な方はご注意ください。 月に一度の更新頻度です。基本的にはエッチしかしてないです。 こちらの作品は、「小説家になろう」でも掲載しております。

モブ令嬢としてエロゲ転生したら幼馴染の年上隠れS王子に溺愛調教されて困ってます

あらら
恋愛
アラサー喪女が女性向けエロゲの世界にモブとして転生した!

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

絶倫獣人は溺愛幼なじみを懐柔したい

なかな悠桃
恋愛
前作、“静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ”のヒーロー視点になってます。そちらも読んで頂けるとわかりやすいかもしれません。 ※誤字脱字等確認しておりますが見落としなどあると思います。ご了承ください。

処理中です...