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望月さんとキャラメルナッツタルト
しおりを挟む私が美人では無いからと、早々に好青年の仮面を脱ぎ捨てた望月さんは辛辣で。二重人格なのではないかと疑いたくなるほど、私とそれ以外の女性の前とでは態度が違った。
二次会の参加者が社内の人間限定だったから、私達は主に終業後の休憩室で打合せをしていたのだが。他の女性社員がいるとそうでも無いのに、2人きりになった途端ダラけてしまうのだ。
「あ~、くそ、腹減ってきたなあ。でもコレ、今日中に参加者リストを纏めないと会場の予約も出来ねえし」
「じゃじゃ~ん、そう思って差入れ作って来た。安心してッ、料理教室で先生に習ったとおりにやったから。そう、寸分の狂いも無くねッ」
「ええっ、まさかお前、やっぱり俺のことを狙ってるんじゃないだろうな?」
「だ~か~ら~、私には彼氏がいるんだってばッ」
ブツクサ言いながらもキャラメルナッツタルトを箱から取り出し、紙ナプキンの上に置く。
「うっ、まるで店で売ってるヤツみたいじゃん」
「望月さん、隠れ甘党だもんね。私の前では全然隠れてないけど」
男が甘党なのは恥ずかしいからと周囲には内緒にしているそうなのだが、私なんぞに隠しても意味が無いということで早々にカミングアウトしてくださったのである。
「そんじゃ缶コーヒーを奢ってやるよ」
「あざーっす、望月センパイ」
誰に見られても良いようにと、自販機で購入したのは相変わらずのブラックコーヒーだ。それを飲みながら豪快にタルトを頬張る姿を眺めていたら、突然スマホの着信音が。内藤さんの名前が表示されたので別の場所で応答しようと立ち上がったところ、なぜか望月さんに手首を掴まれてしまう。
「彼氏からか?いいじゃん、ココで喋れば」
「えー、でもなんか喋りづらいし」
「なんで喋りづらいんだよ」
「それ…は、彼氏と望月さんとでは口調が違うからに決まってるじゃないの」
「面白い、是非、聞かせろ」
「え、ああっ、留守電になっちゃう」
更に手首をグイグイ引っ張られ、仕方なく私はその場で電話に出ることにした。
「はい、もしもーし」
「あ、香奈?まだ会社にいるのか?」
「えっと、はい。でも仕事じゃなくヨッちゃんの二次会について新郎側の幹事と話し合っているだけなので。内藤さんの方はもう仕事終わりましたか?」
「うん、いま打ち合せが終わって香奈の会社の近くにいるから、久々に晩飯を一緒したいと思ってさ。こうやって誘いの電話を掛けてみたというワケだ」
「食事、いいですね!こっちもそろそろ帰ろうかと言っていたところなんですよ」
「良かった、じゃあ20分後に正面玄関の前で待ってるから、慌てず急いで来いよ」
慌てず急げとな?そんな器用なこと出来ますか…とかなんとかブツクサ呟きつつ電話を切ると、すかさず望月さんが突っ込んで来る。
「おい!こっちはまだ終わりそうにないぞ」
「あ、ははっ。でも、だって、平日に誘われるのは久々なんだもんッ。どうせ明日もまた打ち合せするんでしょ?私の分は持ち帰ってリスト作成しておくから、今日だけは勘弁してよッ」
多分、鬼気迫る表情をしていたのだろう。神様に祈るかの如く胸の辺りで両手を組む私を見て、口元を歪めながら望月さんはこう言った。
「ぶっ、く…、ぶはは!いいよ、許す。お前、マジで俺狙いじゃなかったんだな」
「はあ…?」
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