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脳ミソが砂糖漬けになってるんじゃないの?

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 私は正直にすべて話した。

 清水さんの友人と2人きりで食事予定だったが、相手の都合が悪くなりキャンセルすることになったのだと。
 
 ところが予約してあったのが高級ホテル内に有るフレンチレストランだったため、キャンセルしても全額支払いになってしまい、しかも清水さんが友人への誕生プレゼントとして前払いしてくれていたことを。

「だから、そのまま帰ると1万2千円を捨てることになるのよ。そんなの勿体無いでしょ?」
「は?!なら、俺を呼べばいいだろう、なんで廣瀬さんなんだよッ」

「予約時間ギリギリのタイミングだったし、そこにたまたま廣瀬さんが通り掛かったから事情を説明して一緒に食事しただけだよ」
「そもそも付き合ってる相手がいるのに他の異性と2人きりで食事とか、誤解を招くだろうがッ。お前はいつも、そういう配慮に欠けるんだって」

 ああ、そうか。こんなに怒っているのは廣瀬さんが未だに交際中だと思っているからなんだな。昔からこの人は私のことを『鈍感な女』だとよく貶していたから。

「そこは大丈夫!廣瀬さんはもう彼女と別れているんだって。だから私と2人きりで食事しても変な噂は立ちません」

 私の言葉に前田が小さく『は?』と呟いた気がしたが、それに被せるように大きな声で清水さんが問い掛けてきた。

「えっ?!そうなんだ??そっか、じゃあ千脇さん、頑張ってみなよ。あれは絶対に脈アリだと思う。廣瀬さんの歴代彼女って、バリバリのビジネスウーマンって感じの人ばかりだったからさ、きっとキミみたいな子は一緒にいて肩の力が抜けると言うか…新鮮に映ったんじゃないかなあ?」
 
「なっ、バ、バカなこと言わないでくださいよ。私なんかじゃ釣り合いませんって」

 思わずムキになって反論すると、何故か清水さんは嬉しそうに続ける。

「もっと自分に自信を持ちなよ。千脇さん、デジタルコンテンツ部でも人気有るよ。桂…じゃなくて吉川さんがね、凄くキミのことを褒めてて。ウチの奴ら、桂のことをとても信頼してるから、その桂の褒める千脇さんのことも無条件で好きになるみたいなんだな。ほら、桂って裏表が無いから、本当のことしか言わないだろう?そういうところが人間としても素敵なんだけどね!」

 なんで1回だけ『吉川さん』と言い直したんだ。
 そのくせ最後は『桂』連発だし。

 というか、惚気たいだけだよね?
 脳ミソが砂糖漬けになってるんじゃないの??

 …という私の想いがどうやら伝わってしまったらしく。清水さんは突然正気に戻ったかのように頬を真っ赤に染め、アタフタと去って行った。そして後に残された私は何故か今、誰もいない会議室にいる。いや、自分がいるのだから『誰もいない』ワケでは無いのだけれども。それどころか自分以外に前田も一緒にいたりするのだが。

「話って、何?もう休憩終わっちゃうから早くして欲しいな」
「さっきの件、結局お前が清水さんに男を紹介されようとしたってところから始まってるってことでいいのか?」

 さすがだよね~、
 あの短い会話でそこまで察するとは。
 
「うん。それで合ってるけど、だから何?」
「は?!なに開き直ってるんだよッ。千脇は…、お、俺のモノだろ?!」

 ポカンと口が開いたまま塞がらない。

 何それ?自分はアチコチの女と付き合ってて、しかもシッカリ本命の彼女もいるクセに私のことも手放さないってこと??

 どんだけ強欲なのよ?!

「は?私は前田の所有物になったつもりは有りませんけど」
「そういう意味じゃなくて」

 どうしてそんな泣きそうな顔をしているの?
 
「あのさ、…もう、私達の関係は潮時だと思う」
「俺はそう思わない」

 頬に温かい何かが流れて、ようやく自分が泣いていることに気付いた。そっか、前田が泣きそうなんじゃなくて、自分が泣いてしまったのか。

「ひ…っく」
「バカ、俺を試そうとするな。分かってるんだぞ、千脇は俺のことが大好きだって」

 反論したいのに、反論できない。

 こんな風に泣いてしまったら、何も言い訳出来なくなってしまう。前田の言うとおり、私は本当に大バカだ。

 
 

 その日の晩、

 フレンチレストランの支払いの件が有耶無耶になったからと、清水さんが自分の代わりに吉川さんを差し向けて来て。仕方なく中島さんも加えて3人で台湾料理店へ行くことになり。

「あっ、あの店にいるの、千脇さんと同じ部署の…えっと…」
「前田だよ」

 多分、向こうは気付いていないだろう。街なかの隠れ家的なダイニングバーに彼はいた。勿論、1人では無く

 かねてより噂の有った営業部の村瀬裕美さんと、
 それは楽しそうに窓際の席で微笑み合っていた。

 
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