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40.ディスり、ディスられ

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 いつの間にやら副社長は姿を消してしまい、給湯室は静けさを取り戻した。それからの中島さんは私に直接訊こうとせず、だけど思わせぶりにこちらを見ながらも無言のままだ。お、重い。沈黙が重すぎるよ…。すると、突然吉川さんが口を開く。
 
「堤さん、なぜ言ってくれなかったんですか?私…てっきり…」
「え?あ、あの、ごめんなさい、ワザワザ言うほどでも無いかと思ってて…」
 
 ええっ、そんな切ない顔しちゃう?
 私が悪いの?なんで?
 
 戸惑っている私に、吉川さんが慌てて補足する。彼女いわく、堤さんは彼氏がいないようだけど本人がその気になれば出来そうだし、自分みたく仕事に逃げて30歳になってしまう前に、女としての喜びに目を向けて欲しかったのだそうだ。
 
「だから、偉そうに『恋愛をしてみるべきです』とか『仕事ばかりしてちゃダメ』なんて言ったんですけど、いま考えると余計なお世話でしたね。うわあっ、私、恥ずかしーッ!!超イタイ!!彼氏いないクセに、彼氏いる人に向かって恋愛しろとかアドバイスしてたああッ。死ぬ、もう死んでしまううう」
 
 中島さんに『ウルサイです』と窘められ、漸く静かになった吉川さんはニッコリ微笑みながら言う。
 
「で、お相手はどなたなんですか?」
 
 どうやら絶対に部署内の人間だと思っているらしい。まあ、正直に言うとその方が手っ取り早いんだけどね。でも、違うんだなあ~。
 
「実は社外の人なんですよ」
「えっ、そうなんですか?まあ確かにウチの部署の男性陣、なんだかんだ言って美形揃いですよね。私が前にいた会社なんてオッサンとキモオタしかいませんでしたよ」
 
 えっと、吉川さん…。ソレ、さり気なく私のことをディスってません?美形とは釣り合わないと、そう仰りたいのですねッ?!(※希代さんは自分が未来さんのことをディスったことなど、すっかり忘れているようです)
 
 ここで、吉川さんの失言に気付いた中島さんがフォローに回る。
 
「確かにココの部署の男性陣、外見はイケてるのに中身が残念ですよね。例えば田島さんとか、田島さんとか、田島さんとか」
「あ、もしかして何か言われた?『俺に気があるだろう』的な勘違いワードを」
 
 どうやら鬱憤が溜まっていたようで、再び早口へと変わっていく。
 
「えっ?!なんで分かるんですか?もしかして堤さんも被害者だったってこと?私、端末画面を見ているだけなのに、『そんなに俺のことを見つめるな』とか言われて凄く仕事がやり難いんですけど!見てない、全然見てない、どうせ見るならもっとイケメンの須賀さんを見ますと言ってやりたいけどさすがに私には言えません!ていうか須賀さんったら超ヤバイんですけど!顔だけじゃなくて中身も男前!あんなの教育係にされたら心臓もちませんって!いや、私も堤さんと同様に無理めな男には手を出さずに無難な男で手を打つつもりなんですけどね!それにしてもとにかくあの須賀さんは反則ですって!」
 
 おいこら。お前もさり気なく私のことをディスったな。しかし、どうやら悪意は無いようなので聞き流してあげることにした。
 
 
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