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37.夢と失望

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 …………
 数か月後。
 
「どうもお世話になりました、田島さん。あ、龍も元気でね、ヨヨヨ…」
「こら希代、今生の別れみたいな挨拶すんな!」
 
 龍に叱られながら荷物を纏めて座席移動する。まあ、早い話が席替えですな。なんと中途採用の女子が2人も入ることになり、龍はそのうちの1人の教育係に選ばれたのである。私の新天地は、優しい清水さんと呑気な近藤さんに挟まれた席。龍ほどでは無いけれども、まあまあ砕けた感じで話せるので然程イヤでは無い。むしろ楽しみなくらいだ。
 
「こんちは~、これからお世話になりまーす」
「あーっ残念、せっかく希代ちゃんが来たのに、俺もう出掛けないとダメなんだ。このまま直帰するからさ、明日から仲良くしてくれ、んじゃ」
 
 慌ただしく出て行く近藤さんを見送っていたら、清水さんがキーボードを打つ手を止めずに話し掛けて来た。
 
「こちらこそ、これから宜しくな、希代ちゃん。そういや龍の隣りって誰になんの?夢と失望のどっちかな?」
「し、清水さんまでそんなことを言うんですか。女性に対して、あまりにも失礼な呼び名ですよソレ。私だったらグーで殴りますけどね」
 
「…ごめん、ちょっと調子に乗った。えっと、夢じゃなくてあの若い方…いや、こういう言い方も顰蹙を買うのかな?えーっと、あの…」
「中島さんですか?可愛いですよね、私と同じ年齢らしいんですけど、童顔でしかもあの巨乳」
 
 中途採用とは言え、実際はヘッドハンティングらしく。下請けとして何度か仕事を依頼していた会社の社員と、クライアントの元に出入りしており、よく顔を合わせていた同業者を富樫副社長が引き抜いたそうだ。夢…と呼ばれる中島さんは、先にも語られたようにふわふわモチモチの可愛らしい女性。失望と呼ばれているのは、ひっつめ髪で化粧もせずに分厚いメガネをかけ、服装も毎日同じという『生きていて楽しいのかお前』と訊きたくなるような風貌の吉川さんという女性だ。
 
 この2人が選ばれた理由は、副社長の前でも他の男性の前でも同じ態度だったから…らしい。
 
「副社長はリトマス試験紙なのかって話ですよ」
「希代ちゃんはそう言うけどさ、男の俺ですらたまに副社長が横にいたら仕事にならないから。なんかあの人いい匂いすんだよ。そんで、魚眼レンズみたく横も見えてる気がしてなんか怖い」
 
 随分な言われ様だな副社長。同情しながら元の席を眺めたら、そこに座ったのは夢の方だった。
 
 
 
 
───────────────────
 ※ここに登場した中島さんが、別作品『たぶんきっと大丈夫』のヒロインである華ちゃんですよ~。
 
 
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