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6.山口さんとの語らい
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「ごめんな、希代ちゃん。どうしてもって茶谷に頼まれて仕方なく仕組んだんだよ」
「ほんと、次からは許しませんからッ!!って、まあ仕方ないですよね。山口さん、気が弱いし」
終業後──と言っても時刻は既に夜10時。私はランチを約束していたはずの山口さんと、中華料理店で麻婆豆腐を食べていた。ちなみに山口さんは今年で30歳になる気のいい男性だ。システム開発では私と同じような位置づけにいた人で、有能で仕事は早いのに、常に誰かを手伝っていて。残業ばかりしていたから、私と一緒に晩御飯を食べる機会が多かったのである。
気弱な性格がそのまま容姿にも表れているのか全体的に色素は薄く、肌は真っ白で髪や目も茶色っぽい。しかし、残念なことにイケメンではない。
「ごめん山口さん。龍の顔を毎日見てるせいで、貴方の凡庸さが妙に落ち着くわ。なんかさ~、何だかんだ言って龍ってイケメンなのよね。出社するといつも龍の方が先に座ってて『おはようございます』つってチラッと顔を見ると、やっぱときめくのよ。この調子で心臓に負担をかけ続けたら、健康にも良く無いと思うのね。いっそ鼻毛フサフサか眉毛繋がって欲しいわ」
って山口さんったら私の話、全然聞いて無いし。
「はい、餃子のタレ、作ってあげたよ」
「ご親切に、どおも」
普通は男女逆だよね。でも、山口さんは気配り大好きだから。ていうか、もし反対に私が餃子のタレを作ってあげたら、『ゴメン!俺が作るべきだったよね?!』とか言って自分を責め出すので、女で後輩でしょっちゅう愚痴を聞かせている立場だけど、こうしてタレは作らせてあげることに決めているのだ。
「…なんか、希代ちゃんイキイキしてるのな」
「はあ、それは否定しませんけど」
「デジタルコンテンツ部の方が楽しいんだな?」
「ええ、異世界だけどオタサーの姫状態なんで」
「そっか、なら良かった。もうウチに戻ってくるんじゃないぞ。…酷使されるから」
「はああい」
ほんとイイ人だ。
「ポニーテールも凄く似合うよ。希代ちゃんもきちんと化粧すれば美人なんだし、これからは皆んなの姫としてどんどん可愛くなってね」
「う…あああ…、山口さああん…」
どうして私は山口さんと付き合わずに、誠一郎みたいな腐れ外道と付き合ってしまったのか。答えは簡単、ヤツの方が少しばかりイケメンで、且つ、向こうから交際を迫ってきたからである。ふふっ、私って…。顔さえ良ければ誰でもいいのか。そんな自虐的な思いに耽っていると山口さんが驚きの事実を教えてくれるのだ。
「そう言えば、さっき話してた須賀龍ってさ、副社長の奥さんと昔、付き合ってたとかって」
「うえ?ああ?だっ、それって私の前任の秋山未来さんのこと?」
いやいや、だってあの副社長を射止めたのに、龍まで落としてたって、凄すぎない??
「それだけじゃなくて、なんか取引先の電広堂に生きる神話と呼ばれてる御門圭って男がいて。これが一度見たら忘れられなくなるほどイイ男らしいんだけど、その超絶イケメンからも告白されて、それを断ったんだってさ副社長夫人」
「う…わあ…」
驚き過ぎて言葉を失う私を見て、山口さんは尚も続ける。
「でさ…、えっと、どう言えばいいかな…。この流れで申し訳ないんだけど、希代ちゃんは俺で我慢してみない?…というか、その…うっ、俺と、付き合ってくれないかなあ」
「へっ?!」
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