かりそめマリッジ

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<茉莉子>

その89

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 どうやらお義母様は私の味方のようだ。

「そんな事はとっくの昔に知っているわ。負い目が有る方が逃げなくて好都合なのよッ。よく聞きなさい、お母さんは自分で言うのも変だけど、大抵の人から敬遠されてしまうの。

 顔が怖いとか、話し方がキツイとか、傲慢で我儘で威圧的だからなんですって。そのせいで夫となった人の妹からもそりゃもう強烈に嫌われて、現在も避けられまくっているでしょう?

 私も自分なりに努力してみたけれど、何をどうすればいいのか分からなくなったのよ。なのに、会長…いえ、お祖父様はこの家に若夫婦も同居させろと仰る。帯刀家の嫁として見本になるよう、私の日々の行動をシッカリ見せてあげなさいと。

 …榮太郎はあんな子だから、きっとどんなお嬢さんとでも上手くやれるわ。

 でも、問題は母親であるこの私なの。

 帯刀家の花嫁候補になるような女性は、当たり前だけど大切に育てられた世間知らずの砂糖菓子みたいなコばかりで。どう考えても、私と一緒に暮らせそうに無かった。だから165人の花嫁候補の中から、私に合いそうなド根性の持ち主を選んだのよ。

 見なさい、顔つきからして違うでしょう?政親、この1番はね、父親にモラハラされて、幼い頃から座敷牢に閉じ込められて育ったの」

 う?えっと…お義母様??

 その言い方だと座敷牢の中で育ったかのように聞こえてしまいますって。そんな横溝正史の小説の世界じゃあるまいし、たまーに入れられた程度なんですってばッ。

 ああ、ほらっ。
 義弟が誤解して、私を思いっきり憐れんでる!

 戸惑う私を置き去りにして、お義母様はまだまだ話し続けるのだ。

「昨年、何度かレセプションで1番の父親に会ったんだけどね、これがもう驚くほど嫌な奴。感動に値するほど、良い部分が1つも無いの。

 その時、彼の長男が私に教えてくれたのよ。
 …1番の存在を。

 とにかく何をやらせても凄いのに、女だというだけで父親から虐げられてきたと。抑圧されて、罵倒されて、理不尽な生活を強いられても腐らずに成長し、最高に素敵な女性になっていますよって。

 私ね、それを聞いて震えたの。絶対に逃がすもんかって、榮太郎にはこのコしかいないと思ったわ。

 政親にだって文句は言わせない。だって、私が決めたのよ。1番…いえ、茉莉子さんを帯刀家の嫁にします。そうよ、茉莉子さん以外の誰にもこの家の嫁は務まらないんだから!」

 泣くものかと思ったのに、ウッカリ涙を流してしまったようだ。それに気づいた途端、私は滝の様に泣き出した。

「…うっ、ぐすっ、寛貴お兄ちゃん…」
「ええっ、そっち?違うだろうよ、この場面だとウチの母さんに感動すべきじゃないのか??」

 だって、あの家では誰も味方なんていないって。お腹を痛めて産んでくれた母親ですら、私には無関心だったのに。横暴な父の後始末を押し付けられて大勢の社員たちの運命を背負い、妹に土下座までしていた長兄が。

>理不尽な生活を強いられても腐らずに成長し、
>最高に素敵な女性になっていますよって。

 そんなに私を認めてくれていただなんて。

 いま思えば『茉莉子なら何でも出来るよ』と、いつでもそう言ってくれていた。フランスへ行くことを薦めたのも兄だった。誰も味方がいないなんて、私が勝手にそう決めつけていただけで。

 兄は私を最高の妹だと思ってくれていたのだ。

「わ、私、頑張りますッ!!兄の為に最高の嫁になってみせますとも!!」
「だから、そっち?ねえ、おかしくない??この場合、兄の方じゃなくてウチの母さん…」

 1年1年1年1年…。

 その言葉が呪文のように迫って来る。なんだかもう、どうすればいいのか分からなくなっていた。

 お義母様の願いや、長兄の想い。
 そんなしがらみと相反する榮太郎の未来。

 愛しい榮太郎の幸せは、私とは別の誰かとしか築けないのだ。一時は奪ってしまおうと考えたのに、それが罪だと感じるほど榮太郎は優し過ぎた。

 流れる涙はいつしか違う意味を持つ。
 いったい私はどうすればいいのだろうか?

 悩んでも、答えは簡単に出そうに無くて。だから自分で自分に言い聞かせた。

 1年だけ仮初めの夫婦生活を演じさせて貰おう。

 その間に事態が変わるかもしれない。ウチの会社が無事に立て直すかもしれないし、榮太郎が私を一番好きになるかもしれない。

 そうなればいいなあ…。

 甘い夢だとは分かっている。
 でも今はそれに縋るしか無かったのだ。

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