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<靖子>
その63
しおりを挟むも…無理。
なんか意識が遠のいて…き…。
ドサッ。
…それから暫くして気付けば、寝室のベッドで横たわっていた。しかもいつの間にか水着は脱がされ、愛用のパジャマに着替えさせられていて。
「素っ裸を見られたあああっ」
あまりの衝撃に、再び枕へとその頭を沈めたのである。勇作は紳士だから、きっと目を閉じたまま着替えさせてくれたに違いない。というかそうであって欲しい。
「あ、気が付いたか?どうやら逆上せたみたいでさ」
「大丈夫だよ。ごめんね、面倒を掛けちゃって」
グラスに入った水を差し出されたので、それを一気飲みし。自分で片付けようと立ち上がったところ、案の定、フラついてしまう。
「あ、こら。まだ横になってろって」
「でも、髪、まだ濡れてるし…」
私は髪を必ず乾かして眠る派なのである。
「ああ、ハイハイ」
「うえっ?!はあっ??」
軽々と抱き上げられたかと思うと、勇作はそのままリビングに向かって歩き出し。ソファにそっと私を横たわらせた。
ゴオオオオッ。
暫くして響き渡るドライヤーの轟音。どうやらこのまま髪を乾かしてくれるようだ。
ゴオオオオオオッ。
…そう言えば何かするはずだったような。何かって何だったっけ?
ゴオオオオオオッ。
…この男、何をやらせても几帳面だよね。でもちょっと熱いかも。頭皮が焼けそう。
えっと、素直になって距離を縮めるんだっけ。まず何から話し出せばいいのだろうか?いや、それよりもこのドライヤーの音が止まるのを待ったほうが…って、やだもう限界。
「うあち」
「…うあち??」
ようやくドライヤーを止めた勇作は、首を傾げて私を見ている。
「ちょ、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけど熱かったかな~なんて。や、火傷するほどじゃ無いんだけどね、私ほら、暑がりだからッ」
「ふーっ、ふーっ」
髪に向かって息を吹きかけられている音である。
「あ…と?ドライヤーには冷風機能が有るし、息を吹きかけなくてもソレを使えば良いのでは」
「うあ、そっ、そうだな。俺ともあろう者が、なんたる失態を」
この程度を失態と言うのなら、私の日常は失態だらけだ。しかし、己を恥じている勇作の表情が妙に可愛かったのでヨシとする。
急に無音になった途端、焦る私。沈黙が怖い。早く何かを話さなくては。でも何かって、何?そんなことよりも、これ以上逃げずにもう本題に入ろうよ。
自問自答しながらも私は意を決した。
「わっ、私は…」
「え?何?」
ふ、ふあああ…。
髪を整えてくれているだけなのに、『イイコイイコ』と撫でられているような錯覚をしてしまいそうになる。髪の流れに沿って微かに伝わって来る感触が、私から邪気をどんどん奪っていく。犬なら耳の後ろ、猫なら喉を撫でると喜ぶが、人間にとってのソレは頭ナデナデに違いない。
ちくしょ。ナデナデ最高!!
「勇作、わ、私は…」
「うん、何だい?」
ナデナデが気に入っていることが伝わったのか、真面目な表情のまま一定のリズムで撫で続ける律儀な勇作の手を、私はガシッと掴んだ。
「好きだから、好きになって欲しかったんだと思う」
「……」
「きちんと相手と向き合う恋愛なんて、生まれて初めてするから…その、分からなくて。要領というか、手順というか、いや、全部!!」
「……」
「どうすれば先に進めるのかなんて知らないし、だから、恋愛に慣れてる勇作の方からグイグイ迫って来て欲しくて、でも、それほどの価値が自分には有るのか甚だ疑問だし、勇作、まるでどこぞの国の王子様みたいにカッコイイし、一緒にいるとどんどん好きになっちゃうし、
ていうか、好き過ぎて緊張する…。
お、おかしいのは自分でも分かってるのッ。今更、緊張とかしてたら一緒に暮らせないし!でも、だって、仕方ないんだもん。勇作、完璧すぎるんだもん。優しくてカッコ良くてほんとマジ王子…」
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