たぶん愛は世界を救う

ももくり

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さよならコトリ⑨~富樫side~

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※誠に申し訳ございません!!『さよならコトリ⑤~⑧』を未投稿のまま、本話(さよならコトリ⑨)を手違いで先に公開しておりました。先ほど⑧まで公開しましたので、改めてお読みいただけると嬉しいです。ペコペコ。
────





 
「なんだかよく分かりません」

 チッと舌打ちが聞こえ、それから安藤弁護士は早口で捲し立てる。

「ああもうこんな時間だ。早く風呂入って一杯やりてぇな。…いいか?とにかくコトリさんはデブスから隔離する…すなわち家から出すんだ。その先での生活の良し悪しは、デブス次第だ」
「…はあ?」

 チッとまた舌打ちが聞こえ、安藤弁護士は急にゆっくりとこう言った。

「鈍いな、ったく。コトリさんを独立させた後も、あの女が『まだまだイビリ足りない』っつうことになると、生活水準を落とされるだろうな。低レベルの高校に入れられて、ボロいアパートで生活費も微々たるもの…とかさ。

 その逆…『もうイビリ倒した、満足です』となったら金持ち御用達の高校に入れて、そこの寮で優雅に暮らさせてやれるってこと。とにかくここは心を鬼にして、コトリさんを突き放すしか無いと泰造さんは決めたようだ。

 あ、この話、絶対コトリさんには言うなよ?!あの子、興奮すると何でもベラベラ喋るから。それをされると全部台無しになっちまうんだよ」

 そう締め括って安藤弁護士は電話を切った。そして、俺はその内容を全て母に話す。すると母は無言のまま目の前に有る箸を掴んだ。

「じゃあ、とにかくご飯を食べちゃいましょう」
「え…?あ、うん」

 なんだか拍子抜けだった。もっとコトリのことについて質問されるだろうと思ったのに全然で。むしろ母は聞かない様にしているみたいだ。

「敬子はねえ、本当に同じ親の血を引いているのかと疑いたくなるほど綺麗な子で。小さい頃から、そりゃもう大事にされて育ったのよ」
「へえ…」

 サクサクと口に入れたトンカツが音を立てる。

「ふふ、平凡な私とは大違い。親だって私には草刈りを手伝えとかゴミを捨ててこいとか言うクセして、敬子にはそんな雑用をさせなかった」
「同じ姉妹なのに?」

「そう、同じ姉妹なのに。どこへ行ってもその調子で、敬子は苦労らしい苦労をしなかったの。…でもその結果、口の上手い男に騙されて凄く苦労したし、御曹司に見初められた挙句、家族との縁を切ることになって、そんなゴタゴタに巻き込まれてしまったのよね。

 私ねえ、敬子のことをずっと妬んでた。

 どうして私もあんな顔に産んでくれなかったのよって、母親を恨んだりもしたんだけど。いま思うと、敬子はあまり幸せじゃなかったのかなって。

 だってあの子、いつも1人だったのよ。

 友だちから電話が掛かって来たことも無いし、誰かと遊びに行くところを見たことも無い。いつも壊れ物扱いだったせいで、自ら進んで人と関わる術を知らなかったのかもしれないわ。

 だから肝心な時に相談出来る相手もいなかった。

 …きっと過保護過ぎたのね。

 もっと若い頃に苦労して、人を見る目を養い、世間一般のルールを身をもって学んでおけば。あんな風に遅れて苦労することも無かったのに。

 ねえ、裕斗。心配なのは分かるけど、既に中林家から接近禁止を言い渡されているのでしょう?お前のことだから隠れて会い続けるつもりだろうけど、もうそれは止めなさい。

 あの子は、今のうちに苦労させておかないとダメなの。無菌室でひ弱に育てるより、皆んなと同じ環境で育てないと頑丈になれないんだから。

 敬子だけじゃない…義博もそうよ。

 私たちはあの子を過信してしまった。強くて何にでも対応出来る子だと思い込んだ。その結果、自殺させてしまったんだわ。

 ああ、いいの、何も言わないで。どんなに足掻いても過去は変えられない。そんなこと、分かってるんだから。でも、守るだけが愛情じゃないって、それだけはどうしても伝えたかったの」

 …そうか、兄さんが自殺したと知っていたのか。

 話し終えた後、普通に食事を続けている母は、顔面が涙ビショビショで。それを拭おうともせず、千切りキャベツなんかモリモリ食べていて。

 その姿がなんだか妙に泣けた。

 でもここで泣いてはいけない気がして、眉間に力を込めまくり根性で耐える。

 コトリ。

 母さんの言う通り、俺はもうお前の傍にいない方がいいのかもしれない。

 闘い方なんてきっと人それぞれで、
 自力で見つけなければ意味が無いのだから。




 …………
 その数日後、安藤弁護士と共に関口エミリたちを撃退した俺は、学校側から分かり易く敬遠され。コトリが俺のアパートに入り浸っているという目撃談を発端に、実習期間を短縮されてしまい。


 最後は『さよなら』も告げぬまま、彼女の元を去ることとなった…。

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