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私の過去③
しおりを挟む私が高木くんと付き合っても、先生はノーダメージなんだな。
何故か、そんなことにショックを受けていた。
これほど親身になってくれるのは、私のことが好きなんだからと勝手に思い込んでいたのに。そうかそうか、勘違いだったのか。
…幼くて、しかも対人関係に躓いたせいで世間一般の常識をあまり知らなかった私は、ここで考えることを諦めてしまった。
この感情が何なのか。
どうせ分かったとしても、先生はあと2週間で私の前から姿を消すのだ。だったら何も気付かなかったことにして、心の中に仕舞っておこうと。
監視カメラが設置されたその翌日に、高木くんから呼び出されて告白を受け。改めて先生の行動力に感心し、自分の役割をしっかり遂行しようと決心した。そう、私の役割はエミリの大好きな高木くんを奪い、彼が私の名誉を回復するように仕向けることだ。
先生は私にこう説明してくれた。
『いいか、中林。集団心理なんてオセロと同じ。中心人物じゃない末端の2人が白だと言い出すことで、真っ黒だった意見が全て白に引っ繰り返る可能性も有るんだよ。
まず俺が白と言い、高木にも白と言わせるから、お前はそのまま大人しく黙ってろ。肝心なのは誰が悪人かを周囲に分からせること。最初から嘘で固めたヤツの話なんて辻褄が合うワケ無いだろうしな。思いっきりやってやるよ』
…優等生でどちらかというと物静かだったはずの高木くんは、若さ故の潔癖さを持っており。生徒から絶大な信頼を得ている富樫先生の、
>関口エミリはもともと高木のことが好きで、
>お前と付き合い出した中林コトリに対して
>一方的に憎悪を募らせ、嫌がらせしている。
>関口エミリが話した中林の件は、全部嘘だ。
という言葉について最初は半信半疑だったが、よくよく考えてみると全て腑に落ちたらしい。
「あの…、本当にゴメン。
俺が一番理解しているはずだったのに、中林の親友のエミリが言うんだからと真偽も確かめず、いま思えば、妙な話だったんだよな。あんな頻繁に俺と会ってたのに、他に3人も男がいるとかさ、そんなヒマ無かったはずだし。
もしパパ活なんてしてたら、もっと金遣いだって荒いはずだろう?確かお前、いつも財布の中には小銭しか入ってなくて、紙パックのジュースでさえ買うのを我慢してたもんな。
なんか1つ疑い出すと全部嘘だって分かってさ。あんな女を信じて、本当にバカだったよ。
…その、これからは中林を死ぬ気で守るから!だからもう一度俺と、やり直してくれないか?どうかチャンスをくださいッ、お願いします!」
答えはもちろんイエスで。そのまま私は、ひたすら泣いてみた。これで自分の人生が決まるような気がして、それはもう迫真の演技だったと思う。
>何やられっぱなしでいるんだよ!
>俺が闘い方を教えてやる。
脳内では、富樫先生の有り難いお言葉がプカプカと浮かんでは消え。闘志という名の暖炉に、怒りという名の薪をくべようとしたその時。取巻き連中を引き連れたエミリがやって来た。
どうして人はこんなにも変わってしまうのか。
エミリとは小学校の頃から仲が良くて、私の母が亡くなった時には励ましの手紙をくれたり、お互いの家にもよく行き来して遊んだ仲なのに。あの優しかった親友は、いったい何処に行ってしまったのだろうか?そして、憎悪に満ちた目で私を睨むこの人は誰なのか?
最早、私はエミリを前にすると軽く震え出すようになっていて。それを悟られぬよう、自分で自分を抱き締めた。
ここで取巻きの女子たちがエミリを応援し出す。
>高木くんを狙うなんて、身の程を知れって!
>汚れた女に釣り合う相手じゃないんだからね。
>だって昨日もパパ活してたらしいよ~。
>エミリが街で現場を見ちゃったんだってさ。
>嘘ォ!気持ち悪~い。
>脂ギラギラのオッサンとやっちゃったんだ?
>おええっ、汚い女だねえ。
アホか。
昨日は富樫先生と仲良く我が家でカメラを設置してたんだよ?嘘吐きはどっちだっつうの!!
しかし、反論はしない。先生の言いつけ通り、ひたすら黙り続ける。そろそろヒーローが登場する予定だからだ。
瞳を潤ませながら廊下の方を見ると、一緒に帰る約束をしていたはずの高木くんが信じられないモノを見たと言わんばかりの表情で、こちらに向かって猛進して来た。そして、彼に背を向けて立っていたエミリの肩を掴み、恐ろしいほど落ち着いた声で言うのだ。
「もう、いい加減にしろよ」
「…た、高木…くん??」
女王から一転、弱々しい召使いのような表情に変わったエミリは、慌てふためく。
「お前らもいったい何様のつもりだよ?!無関係なクセに何を便乗して中林を叩いてんだ。
だいたいな、俺はもともと中林と付き合ってた。その俺を好きだったエミリが、汚い手を使って俺と別れさせた挙句、こうして中林を脅してる。
いいか、お前らッ。エミリの言ったことは全部ウソだ!!これ以上、俺の好きな中林コトリのことを悪く言ったら、絶対に許さないぞ!!
…さあ、エミリ、早く中林に謝れ!!」
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