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はじまりはじまり
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※こんにちは、ももくりです。本作は『昔の恋を、ちょっとだけ思い出してみたりする』で存在感をアピールしまくった、中林コトリさんのお話です。前作を読まなくてもどうにか分かると思いますが、先にお読みいただいた方がすんなり入り込めるかもしれません。
──────────────────────────────
…………
「もう証拠は挙がってんだ、早く吐いてラクになっちまいな」
席に着いて早々、威勢よくそう言ったのはアヤさんだ。続けて茉莉子さんが隣席から私の肩に手を置き、さすさすと擦りながらこう呟いた。
「浦くんは真面目だよ~。今までの男たちみたいに軽く付き合えないから、覚悟しないと後で大変なことになっちゃうぞォ」
…えっと、なぜ私が悪い女設定なのか?
全然、納得いかないしッ。
ていうか、そうじゃ無いしッ。
あれは、アヤさんがこの喫茶店で浦くんに別れを告げた日の夜のこと。私は自宅マンション近くのバーで、1人寂しく飲んでいた。そこへ既にイイ感じで酔っていた浦くんがやって来たのが、事の発端である。
呂律の回らない舌で彼は熱弁した。
…自分の不甲斐なさを。
どんなに虚勢を張ってみせても、やはり委縮してしまったのだと。24歳の浦くんは、アヤさんの前に1人の女性としか付き合ったことが無く。しかも、その相手の女性から『セックスが下手』だと言われてしまい、落ち込んだ挙句ED気味になり。それで別れたという過去を持つらしい。
「い、いやいや、そんなことを彼氏に向かって堂々と言えるその元カノ、凄すぎない??なんつう猛者と付き合ってたのよ」
「うー、でも、そんときの彼女、酔ってたんで。あ、俺は全然酔ってないれすよ!ちゅんちゅん」
嘘を吐け。さっきから私の名前を勝手に『ちゅんちゅん』なんぞと呼び、セクハラ親父も顔負けしそうなボディタッチをしまくっているのに。
おい、こら。
スカートの上からとは言え、尻を揉むな。
「ああっ、ちゅんちゅんの尻が割れたッ」
「きゃあ、大変だわー(棒読み)」
「だからですね、俺、アヤさんとしてなくてッ。一か八かで勃ったとしても、あの店長なんかと比較されたら…う、わあああん、死にますよ」
「そ、そうなのね」
いくら街外れのバーだからって、そんな大きな声で『勃った』とか言うなッ。そう怒りたいけど怒れない。何故ならこの男は酔っ払いだからだ。
「ちゅんちゅん、チュウして」
「は?なんでッ」
「えーっ、イヤなのおお?!やっぱ俺ってそんなに魅力無いのかなあああ。じゃ、じゃあさ、俺にセックス教えて」
「えっと、そ、それって…」
「もちろん、実技希望~~!!」
「……」
キスがダメならセックスしろよと?アンタの性に対する基準はどうなってんのッ。
「そういうの本当に無理だから」
「…ちゅんちゅん」
ふらりと立ち上がったかと思ったら、そのまま物凄い勢いで土下座された。まるでフライング土下座という感じだ。
「えっ?!ちょ、止めて、本当に止めてッ!!」
「このままだと俺は、一生自信が持てないまま、誰ともエッチ出来ずに結婚も望めません。だから、ちゅんちゅん、俺を助けてくださいッ」
冷や汗がタラタラと流れて落ちた。いや、酔っ払いの戯言にしてはタチが悪すぎる。公衆の面前で土下座。ジャパニーズ・ドゲザ!しかも女である私に、性指南をしてくれよと。恐れるべきは周囲の目である。現在の私は秘書なのだ。いつどこで仕事関連の人間に見られているとも限らないというのに。
焦った私は浦くんの首根っこを捕まえて素早く立ち上がらせ、会計も終えて足早に逃げ…ようと思ったのに。腰に抱き着いたまま離れない巨大な物体が。
「ちょっと、離してよお」
「ちゅんちゅん、助けて…、俺、怖い」
アホか!自分の問題は自分で解決しろ!!と冷たく斬り捨てられる性格だと良かったのに。残念ながら私はそうでは無かったのである。
頼られることに弱い。それもこんな捨てられた子猫みたいな目をした迷える子羊…ん?猫なのか羊なのか??…って、まあそこは置いておいて。
こんな住宅街にホテルがあるはずも無く、項垂れながら自宅マンションへ持ち帰ったのだ。
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「もう証拠は挙がってんだ、早く吐いてラクになっちまいな」
席に着いて早々、威勢よくそう言ったのはアヤさんだ。続けて茉莉子さんが隣席から私の肩に手を置き、さすさすと擦りながらこう呟いた。
「浦くんは真面目だよ~。今までの男たちみたいに軽く付き合えないから、覚悟しないと後で大変なことになっちゃうぞォ」
…えっと、なぜ私が悪い女設定なのか?
全然、納得いかないしッ。
ていうか、そうじゃ無いしッ。
あれは、アヤさんがこの喫茶店で浦くんに別れを告げた日の夜のこと。私は自宅マンション近くのバーで、1人寂しく飲んでいた。そこへ既にイイ感じで酔っていた浦くんがやって来たのが、事の発端である。
呂律の回らない舌で彼は熱弁した。
…自分の不甲斐なさを。
どんなに虚勢を張ってみせても、やはり委縮してしまったのだと。24歳の浦くんは、アヤさんの前に1人の女性としか付き合ったことが無く。しかも、その相手の女性から『セックスが下手』だと言われてしまい、落ち込んだ挙句ED気味になり。それで別れたという過去を持つらしい。
「い、いやいや、そんなことを彼氏に向かって堂々と言えるその元カノ、凄すぎない??なんつう猛者と付き合ってたのよ」
「うー、でも、そんときの彼女、酔ってたんで。あ、俺は全然酔ってないれすよ!ちゅんちゅん」
嘘を吐け。さっきから私の名前を勝手に『ちゅんちゅん』なんぞと呼び、セクハラ親父も顔負けしそうなボディタッチをしまくっているのに。
おい、こら。
スカートの上からとは言え、尻を揉むな。
「ああっ、ちゅんちゅんの尻が割れたッ」
「きゃあ、大変だわー(棒読み)」
「だからですね、俺、アヤさんとしてなくてッ。一か八かで勃ったとしても、あの店長なんかと比較されたら…う、わあああん、死にますよ」
「そ、そうなのね」
いくら街外れのバーだからって、そんな大きな声で『勃った』とか言うなッ。そう怒りたいけど怒れない。何故ならこの男は酔っ払いだからだ。
「ちゅんちゅん、チュウして」
「は?なんでッ」
「えーっ、イヤなのおお?!やっぱ俺ってそんなに魅力無いのかなあああ。じゃ、じゃあさ、俺にセックス教えて」
「えっと、そ、それって…」
「もちろん、実技希望~~!!」
「……」
キスがダメならセックスしろよと?アンタの性に対する基準はどうなってんのッ。
「そういうの本当に無理だから」
「…ちゅんちゅん」
ふらりと立ち上がったかと思ったら、そのまま物凄い勢いで土下座された。まるでフライング土下座という感じだ。
「えっ?!ちょ、止めて、本当に止めてッ!!」
「このままだと俺は、一生自信が持てないまま、誰ともエッチ出来ずに結婚も望めません。だから、ちゅんちゅん、俺を助けてくださいッ」
冷や汗がタラタラと流れて落ちた。いや、酔っ払いの戯言にしてはタチが悪すぎる。公衆の面前で土下座。ジャパニーズ・ドゲザ!しかも女である私に、性指南をしてくれよと。恐れるべきは周囲の目である。現在の私は秘書なのだ。いつどこで仕事関連の人間に見られているとも限らないというのに。
焦った私は浦くんの首根っこを捕まえて素早く立ち上がらせ、会計も終えて足早に逃げ…ようと思ったのに。腰に抱き着いたまま離れない巨大な物体が。
「ちょっと、離してよお」
「ちゅんちゅん、助けて…、俺、怖い」
アホか!自分の問題は自分で解決しろ!!と冷たく斬り捨てられる性格だと良かったのに。残念ながら私はそうでは無かったのである。
頼られることに弱い。それもこんな捨てられた子猫みたいな目をした迷える子羊…ん?猫なのか羊なのか??…って、まあそこは置いておいて。
こんな住宅街にホテルがあるはずも無く、項垂れながら自宅マンションへ持ち帰ったのだ。
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