46 / 74
~ファンタジー異世界旅館探訪~
【第1章】第35話「出発準備と買出し」(7)
しおりを挟む
「第二交易文字は、あちらの、優希達の世界で使われている文字だな」
突然の爆弾発言に、優希とノーチェは驚きを隠せなかったが、榛名ちゃんを除き、他の面々は既に知っていたのか反応は薄かった。
「えっ、え? つまり異世界には日本語が使われているって事ですか?」
「正確には、そちらの国の日本の文字が、使われているだな。一部の記号文字以外は同じ文字が使われているようだ。朝にこちらの新聞を読んだが、意味の分からない単語はあったものの問題なく読む事が出来た。――そちらでは左読みで統一されているらしいが、こちらでは、右読みも多いが、左右混在しているのが現状だな」
「それも迷い人が、あちらの世界へ広めたんですかね?」
優希の疑問に、恵子とゲンさんが、難しい顔をして視線を合わせていたのに気付いたアルヴァーが、そちらに注目すると、優希も遅れて視線を向けた。
「あー、それは、迷い人の影響じゃなくて明らかにこっちの人間の影響だ。時の明治政府はそっちの世界と何らかの取引関係があったらしい」
「何? それは何時頃の事だ!?」
何時になく慌てた様子のアルヴァーが立ち上がるとゲンさんに詰め寄った。
「と、とりあえず落ち着いてくれ。今から百年以上は前の話になるんだ。詳しい事は記録を調べないとはっきりしないが、とにかく、その当時の交流の名残りだと思う」
アルヴァーは一先ずは落ち着きを取り戻すと、立ったままの姿勢で腕を組み考え込んだ。
「その辺は、祖父が帰って来てからという事で。――でも、文字も使われてるし言葉も通じるって、あんまり異世界っぽくはないですよね。……見た目はともかく」
優希はノーチェと撫子を見て、前々からの疑問を思い出した。
「そうそう、アルヴァーさんやノーチェに会った時にも不思議に思ってたんですけど、何で言葉が通じるんでしょうか?」
この言葉にアルヴァーとノーチェは一瞬、不可解そうな顔をしたが、撫子には理解出来たのか「ぁーーー」と小さく声を出し疑問に答えた。
「あちらの世界の住人はどんな言語でも言葉は通じるんだ。――正確に言うと話したい意思が伝わる……のかな? そちらの世界のように言語を学ばないと会話が成立しないという事はないよ」
「それは、ひょっとして魔力が影響してるんでしょうか?」
現実世界に生きる優希なら当然の仮説だったが、異世界の住人には理解されていないようで、どの顔にも疑問符が浮かんでいた。
その中でアルヴァーは該当する知識があったのか、異世界の言語事情を語り始めた。
「今までは疑問にも思わなかったが……なるほど。――まず、魔力が影響するかだが、その仮説に当てはまらない条件が多いので、関連性は低いだろうと思われる。魔力の少ない者や場所でも問題なく意思疎通が可能だからだ。――むしろ魔力が高くても共通言語をきちんと習得していないと……。――ああ、なるほど、言われてみれば何らかの意思が働いていた可能性も……」
その場で思考の海に沈みそうだったアルヴァーを慌てて引き上げて、続きを促した。
「……ああ、すまない。少し前、ノーチェを商人組合の所属員だと言った事があっただろう?」
「にゃ。そういえば、そんな事もあったのにゃ~」
「あれは、ノーチェに母国なまりが残っていたからだ。正式な組合員なら母国なまりは改善する場合が圧倒時に多い。――思うに、このなまりの原因は、会話が翻訳不全のような状態になっているからなのだろう。現に、ガロファノ女史には母国なまりが出ていない」
「にゃ~。同郷だと、どうしても気が緩むのにゃ~……」
言われてみれば、撫子の語尾は普通だったが、違和感もなかったので気付かなかったと優希は思った。逆に、にゃ~と付いたらどんな感じだったろうと想像して撫子を見たが、瞳孔を細められたので、別の質問をしてごまかす事にした。
「その改善で、なまらないようになるのは何でなんでしょう?」
「元々、発音での意思疎通に問題がなかったため、こちらの世界では文字の発達や共通化が遅れていた。その後、商業協会が力を付け始めた時に、第一交易文字と発音を制定した事で、それが一気に広がり統一化が進んだ。つまり、第一交易文字の発音で話す事で、より正確な意思疎通が可能になった訳だ」
「う~ん、つまり教養が高いほど標準語になる?」
優希の問いには撫子が答えた。
「そういう事になるけど、ノーチェは第一交易文字の発音に母国語のクセが抜けていないから余計にね。最も、猫妖精の国では、第二交易文字の方がメインだから、組合員にならないんだったら問題はないよ」
撫子の言葉通りなら日本語である第二交易文字が、遠く離れた猫妖精の国では標準になっているらしい。不思議な繋がりがあると優希は思った。
「――こちらの世界の神話では、人間の傲慢によって一度は、統一言語を奪われたが、古い神々が、その力を使って再び言葉を取り戻し、新しい世界を創ったとある。そして、その時、力を失った古い神々が妖精だと……」
「へえ、そっちの世界にも似たような話があるんですね」
その後は、お互いの世界の共通点を話し合いつつ、猫妖精の隊商に売る品物の選定を進めていった。
突然の爆弾発言に、優希とノーチェは驚きを隠せなかったが、榛名ちゃんを除き、他の面々は既に知っていたのか反応は薄かった。
「えっ、え? つまり異世界には日本語が使われているって事ですか?」
「正確には、そちらの国の日本の文字が、使われているだな。一部の記号文字以外は同じ文字が使われているようだ。朝にこちらの新聞を読んだが、意味の分からない単語はあったものの問題なく読む事が出来た。――そちらでは左読みで統一されているらしいが、こちらでは、右読みも多いが、左右混在しているのが現状だな」
「それも迷い人が、あちらの世界へ広めたんですかね?」
優希の疑問に、恵子とゲンさんが、難しい顔をして視線を合わせていたのに気付いたアルヴァーが、そちらに注目すると、優希も遅れて視線を向けた。
「あー、それは、迷い人の影響じゃなくて明らかにこっちの人間の影響だ。時の明治政府はそっちの世界と何らかの取引関係があったらしい」
「何? それは何時頃の事だ!?」
何時になく慌てた様子のアルヴァーが立ち上がるとゲンさんに詰め寄った。
「と、とりあえず落ち着いてくれ。今から百年以上は前の話になるんだ。詳しい事は記録を調べないとはっきりしないが、とにかく、その当時の交流の名残りだと思う」
アルヴァーは一先ずは落ち着きを取り戻すと、立ったままの姿勢で腕を組み考え込んだ。
「その辺は、祖父が帰って来てからという事で。――でも、文字も使われてるし言葉も通じるって、あんまり異世界っぽくはないですよね。……見た目はともかく」
優希はノーチェと撫子を見て、前々からの疑問を思い出した。
「そうそう、アルヴァーさんやノーチェに会った時にも不思議に思ってたんですけど、何で言葉が通じるんでしょうか?」
この言葉にアルヴァーとノーチェは一瞬、不可解そうな顔をしたが、撫子には理解出来たのか「ぁーーー」と小さく声を出し疑問に答えた。
「あちらの世界の住人はどんな言語でも言葉は通じるんだ。――正確に言うと話したい意思が伝わる……のかな? そちらの世界のように言語を学ばないと会話が成立しないという事はないよ」
「それは、ひょっとして魔力が影響してるんでしょうか?」
現実世界に生きる優希なら当然の仮説だったが、異世界の住人には理解されていないようで、どの顔にも疑問符が浮かんでいた。
その中でアルヴァーは該当する知識があったのか、異世界の言語事情を語り始めた。
「今までは疑問にも思わなかったが……なるほど。――まず、魔力が影響するかだが、その仮説に当てはまらない条件が多いので、関連性は低いだろうと思われる。魔力の少ない者や場所でも問題なく意思疎通が可能だからだ。――むしろ魔力が高くても共通言語をきちんと習得していないと……。――ああ、なるほど、言われてみれば何らかの意思が働いていた可能性も……」
その場で思考の海に沈みそうだったアルヴァーを慌てて引き上げて、続きを促した。
「……ああ、すまない。少し前、ノーチェを商人組合の所属員だと言った事があっただろう?」
「にゃ。そういえば、そんな事もあったのにゃ~」
「あれは、ノーチェに母国なまりが残っていたからだ。正式な組合員なら母国なまりは改善する場合が圧倒時に多い。――思うに、このなまりの原因は、会話が翻訳不全のような状態になっているからなのだろう。現に、ガロファノ女史には母国なまりが出ていない」
「にゃ~。同郷だと、どうしても気が緩むのにゃ~……」
言われてみれば、撫子の語尾は普通だったが、違和感もなかったので気付かなかったと優希は思った。逆に、にゃ~と付いたらどんな感じだったろうと想像して撫子を見たが、瞳孔を細められたので、別の質問をしてごまかす事にした。
「その改善で、なまらないようになるのは何でなんでしょう?」
「元々、発音での意思疎通に問題がなかったため、こちらの世界では文字の発達や共通化が遅れていた。その後、商業協会が力を付け始めた時に、第一交易文字と発音を制定した事で、それが一気に広がり統一化が進んだ。つまり、第一交易文字の発音で話す事で、より正確な意思疎通が可能になった訳だ」
「う~ん、つまり教養が高いほど標準語になる?」
優希の問いには撫子が答えた。
「そういう事になるけど、ノーチェは第一交易文字の発音に母国語のクセが抜けていないから余計にね。最も、猫妖精の国では、第二交易文字の方がメインだから、組合員にならないんだったら問題はないよ」
撫子の言葉通りなら日本語である第二交易文字が、遠く離れた猫妖精の国では標準になっているらしい。不思議な繋がりがあると優希は思った。
「――こちらの世界の神話では、人間の傲慢によって一度は、統一言語を奪われたが、古い神々が、その力を使って再び言葉を取り戻し、新しい世界を創ったとある。そして、その時、力を失った古い神々が妖精だと……」
「へえ、そっちの世界にも似たような話があるんですね」
その後は、お互いの世界の共通点を話し合いつつ、猫妖精の隊商に売る品物の選定を進めていった。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移す万国旗
あずき
ファンタジー
202X年、震度3ほどの地震と共に海底ケーブルが寸断された。
日本政府はアメリカ政府と協力し、情報収集を開始した。
ワシントンD.Cから出港した米艦隊が日本海に現れたことで、
アメリカ大陸が日本の西に移動していることが判明。
さらに横須賀から出発した護衛艦隊がグレートブリテン島を発見。
このことから、世界中の国々が位置や向きを変え、
違う惑星、もしくは世界に転移していることが判明した。


初めての異世界転生
藤井 サトル
ファンタジー
その日、幸村 大地(ゆきむら だいち)は女神に選ばれた。
女神とのやり取りの末、大地は女神の手によって異世界へと転生する。その身には女神にいくつもの能力を授かって。
まさにファンタジーの世界へ来た大地は聖女を始めにいろんな人に出会い、出会い金を稼いだり、稼いだ金が直ぐに消えたり、路上で寝たり、チート能力を振るったりと、たぶん楽しく世界を謳歌する。
このお話は【転生者】大地と【聖女】リリア。そこに女神成分をひとつまみが合わさった異世界騒動物語である。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる