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~ファンタジー異世界旅館探訪~

【第1章】第35話「出発準備と買出し」(7)

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第二交易文字ドゥエコメルソテクストは、あちらの、優希達の世界で使われている文字だな」

 突然の爆弾発言に、優希とノーチェは驚きを隠せなかったが、榛名はるなちゃんを除き、他の面々は既に知っていたのか反応は薄かった。

「えっ、え? つまり異世界には日本語が使われているって事ですか?」

「正確には、そちらの国の日本の文字が、使われているだな。一部の記号文字シンボゥロテクスト以外は同じ文字が使われているようだ。朝にこちらの新聞ガゼートを読んだが、意味の分からない単語ラヴォルトはあったものの問題なく読む事が出来た。――そちらでは左読みで統一されているらしいが、こちらでは、右読みも多いが、左右混在こんざいしているのが現状だな」

「それも迷い人が、あちらの世界へ広めたんですかね?」

 優希の疑問に、恵子とゲンさんが、難しい顔をして視線しせんを合わせていたのに気付いたアルヴァーが、そちらに注目すると、優希も遅れて視線を向けた。

「あー、それは、迷い人の影響じゃなくて明らかにこっちの人間の影響だ。ときの明治政府はそっちの世界と何らかの取引関係があったらしい」

「何? それは何時いつ頃の事だ!?」

 何時いつになく慌てた様子のアルヴァーが立ち上がるとゲンさんに詰め寄った。

「と、とりあえず落ち着いてくれ。今から百年以上は前の話になるんだ。詳しい事は記録を調べないとはっきりしないが、とにかく、その当時の交流の名残りだと思う」

 アルヴァーは一先ずは落ち着きを取り戻すと、立ったままの姿勢で腕を組み考え込んだ。

「その辺は、祖父が帰って来てからという事で。――でも、文字も使われてるし言葉も通じるって、あんまり異世界っぽくはないですよね。……見た目はともかく」

 優希はノーチェと撫子なでしこを見て、前々からの疑問ぎもんを思い出した。

「そうそう、アルヴァーさんやノーチェに会った時にも不思議に思ってたんですけど、何で言葉が通じるんでしょうか?」

 この言葉にアルヴァーとノーチェは一瞬、不可解ふかかいそうな顔をしたが、撫子なでしこには理解出来たのか「ぁーーー」と小さく声を出し疑問に答えた。

「あちらの世界の住人はどんな言語でも言葉は通じるんだ。――正確に言うと話したい意思が伝わる……のかな? そちらの世界のように言語を学ばないと会話が成立しないという事はないよ」

「それは、ひょっとして魔力が影響してるんでしょうか?」

 現実世界に生きる優希なら当然の仮説だったが、異世界の住人には理解されていないようで、どの顔にも疑問符ぎもんふが浮かんでいた。
 その中でアルヴァーは該当がいとうする知識があったのか、異世界の言語事情を語り始めた。

「今までは疑問にも思わなかったが……なるほど。――まず、魔力が影響するかだが、その仮説に当てはまらない条件が多いので、関連性は低いだろうと思われる。魔力の少ない者や場所でも問題なく意思疎通いしそつうが可能だからだ。――むしろ魔力が高くても共通言語をきちんと習得していないと……。――ああ、なるほど、言われてみれば何らかの意思が働いていた可能性も……」

 その場で思考の海にしずみそうだったアルヴァーをあわてて引き上げて、続きをうながした。

「……ああ、すまない。少し前、ノーチェを商人組合コメルシストクリーゾ所属員メンブロだと言った事があっただろう?」

「にゃ。そういえば、そんな事もあったのにゃ~」

「あれは、ノーチェに母国なまりが残っていたからだ。正式な組合員コンヴィーロなら母国なまりは改善かいぜんする場合が圧倒時あっとうてきに多い。――思うに、このなまりの原因は、会話が翻訳不全ほんやくふぜんのような状態になっているからなのだろう。現に、ガロファノ女史じょしには母国なまりが出ていない」

「にゃ~。同郷どうきょうだと、どうしても気がゆるむのにゃ~……」

 言われてみれば、撫子なでしこ語尾ごびは普通だったが、違和感もなかったので気付かなかったと優希は思った。逆に、にゃ~と付いたらどんな感じだったろうと想像して撫子なでしこを見たが、瞳孔どうこうを細められたので、別の質問をしてごまかす事にした。

「その改善かいぜんで、なまらないようになるのは何でなんでしょう?」

「元々、発音での意思疎通いしそつうに問題がなかったため、こちらの世界では文字の発達や共通化が遅れていた。その後、商業協会コメンサアソシオが力を付け始めた時に、第一交易文字ウヌエコメルソテクストと発音を制定せいていした事で、それが一気に広がり統一化が進んだ。つまり、第一交易文字ウヌエコメルソテクストの発音で話す事で、より正確な意思疎通いしそつうが可能になった訳だ」

「う~ん、つまり教養が高いほど標準語になる?」

 優希の問いには撫子なでしこが答えた。

「そういう事になるけど、ノーチェは第一交易文字ウヌエコメルソテクストの発音に母国語のクセが抜けていないから余計にね。もっとも、猫妖精ケットシーの国では、第二交易文字ドゥエコメルソテクストの方がメインだから、組合員コンヴィーロにならないんだったら問題はないよ」

 撫子なでしこの言葉通りなら日本語である第二交易文字ドゥエコメルソテクストが、遠く離れた猫妖精ケットシーの国では標準になっているらしい。不思議な繋がりがあると優希は思った。

「――こちらの世界の神話では、人間の傲慢ごうまんによって一度は、統一言語をうばわれたが、古い神々が、その力を使って再び言葉を取り戻し、新しい世界を創ったとある。そして、その時、力を失った古い神々が妖精だと……」

「へえ、そっちの世界にも似たような話があるんですね」

 その後は、お互いの世界の共通点を話し合いつつ、猫妖精ケットシー隊商キャラバンに売る品物の選定せんていを進めていった。
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