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~ファンタジー異世界旅館探訪~【前日譚】現実と異世界の狭間
第1話「突然の連絡~慌しく旅立つ」
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入広瀬優希は、第一志望の大学に落ちてしまい無気力真っ只中だった。現に今もベッドの上でスマホ片手にゴロゴロしていたが、クラスメイトの書き込みに返信するでもなく放置していた。その割に勉強の合間にイベント周回を重ねたスマホゲームは惰性で続けている辺り罪深いとも言える。
「解せぬ。もしやこれは何者かの陰謀……って、そんな訳ないか」
第一志望は、県外の国立で偏差値はそこそこ高いものの入試倍率は1.2倍。第二志望は、なんとなくで受けた地元の有名私立。こちらの学科の倍率は9.7倍だったが、なんと合格してしまったのだ、もっとも補欠合格だったが……。
ただ少々特殊な学科のせいなのか入学金や授業料、寄付などなど、合計すると結構な金額になる事が後で分かった。
両親は『お金の事は気にするな』とは言ってくれたが、どうしても気になってしまう。
「やっぱり、どこかで、まだ遠慮してるのかも……」
父親が単身赴任して、入広瀬家の現在の家族構成は、母の優子。妹の彩香。そして優希の三人暮らしだ。
問題は、同居している家族が二人とも女性……なので何かと気を使うというのもあるが、最大の問題は、二人とは家族だが血が繋がっていない、所謂、義母と義妹という関係だという事だった。
母は40代前半、妹は今年から高一という年齢も重要なのだろう。新婚半年で単身赴任となった、実の父からは『俺が居ない間は二人の事を頼む』と言われた。
きっと男としてという事だろうが、ここに引っ越してきた時に、お隣さんのおばさんから『美人姉妹』と言われた事は忘れてはいない。次の言葉が『お母さんもお綺麗で』だったから優希に逃げ道はなかった。
未だにご近所からは、姉妹と認識されているらしい。通っていた高校が制服のない私服通学だったのも誤解の元だったのだろうが、スカートを穿いた事も無いし女性らしい色使いの服も着ていなかったはずなのにと優希は思わずにはいられなかった。
そんな事を考えていると唐突にドアがノックされ妹に呼ばれた。
「優希さん。田舎のお父さんの方の、お爺ちゃんから電話」
「わ、分かった~」
階段を上がる音も聞こえなかったが何の気配もしなかった事に驚きながら、一階に下りると家電の保留を解除した。
「はい、もしも…―「おう、久しぶり。今回は残念だったな~」―…し……」
この豪快さは相変わらずだな~と思いつつ、懐かしくも感じた。
「あ、まあ、うん。お爺ちゃんも久しぶり。それで、何か用? お父さんなら長期出張中だけど」
「ああ、旅館の方が人手不足でな。どうだ手伝いに来んか?」
「えっ、突然どうしたの? 今までそんな事無かったと思うけど」
――詳しく話を聞くと、仲居さんなど数人が体調不良で暫く休むらしい。食中毒でも出したのかと思ったが、違ったようで電話の向こうで怒鳴られてしまった。ノロウイルス怖いのに。
どうやら仲居さんの高齢化と少子化が原因らしい。何故、少子化がと思ったが繁忙期にはバイトに高校生などを雇うのは割と一般的らしい。地方の人口減少や労働力不足は深刻なのだろうか?
「う~ん、取り敢えず分かった。それで何時そっちに……」
「おお! そうかそうか、じゃあ、明日からよろしくな。優子さんと妹ちゃんにもよろしく伝えておいてくれ」
『ガチャン……ツーツーツー――――』
「……と言う訳で急だけど、明日から実家に行く事になったから」
夕飯を食べながら、家族に報告する。母親の優子には普通に応援されたが、向かい合って座っていた妹は、こちらをじっ――と見つめてくる。思わず目を逸らしてしまう優希だった。
その後、慌しく荷物を纏め参考書もきちんと詰めて早めに就寝した優希は、次の日、二人の見送りを受けていた。
「お手伝いもあるだろうけど暫くはあっちでのんびりするといいわ。入広瀬のお爺様によろしくね。お土産はどうするの?」
「ん~、それは駅の売店で買えば良いかな。こっちの名物って何だっけ?」
母親と話している間も妹はじっと兄を見つめていた。やがて二人の会話が終って優希が荷物を背負うと、妹の彩香と目が合った。
「あれ? 制服着てるけど今日は学校あるの? まだ入学前だけど」
それを聞いた彩香は、むっとした顔をした後、穴が開くんじゃないかと言う程、優希を睨み気味に見つめた。
「そんなの優希さんに関係ないです」
兄妹のディスコミュニケーションに優希は理不尽さを感じたが、隣の優子さんは物知り顔で笑っていた。
――考えて見れば、妹が兄を名前で呼ぶから姉妹だと思われているんじゃないだろうか。そんなどうでもいい事を考えていたせいか、出発の時間がギリギリになってしまった。
慌てて荷物を背負うと二人に向き合う。
「それじゃあ行って来ます」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
「―――行ってらっしゃい」
急いで駅に向かう優希の背をずっと見送っていた彩香に母が声を掛けた。
「制服姿、見て貰いたかったんじゃないの?」
「――そんなんじゃない」
母は若干、呆れながらずっと兄の背を見ている実の娘を微笑ましく見ていたが、玄関を開けると中に入って行った。
「行ってらっしゃい。――お兄ちゃん」
一人残った彩香は、優希が見えなくなった後も暫くその背中を追うように見つめ続けた。
「解せぬ。もしやこれは何者かの陰謀……って、そんな訳ないか」
第一志望は、県外の国立で偏差値はそこそこ高いものの入試倍率は1.2倍。第二志望は、なんとなくで受けた地元の有名私立。こちらの学科の倍率は9.7倍だったが、なんと合格してしまったのだ、もっとも補欠合格だったが……。
ただ少々特殊な学科のせいなのか入学金や授業料、寄付などなど、合計すると結構な金額になる事が後で分かった。
両親は『お金の事は気にするな』とは言ってくれたが、どうしても気になってしまう。
「やっぱり、どこかで、まだ遠慮してるのかも……」
父親が単身赴任して、入広瀬家の現在の家族構成は、母の優子。妹の彩香。そして優希の三人暮らしだ。
問題は、同居している家族が二人とも女性……なので何かと気を使うというのもあるが、最大の問題は、二人とは家族だが血が繋がっていない、所謂、義母と義妹という関係だという事だった。
母は40代前半、妹は今年から高一という年齢も重要なのだろう。新婚半年で単身赴任となった、実の父からは『俺が居ない間は二人の事を頼む』と言われた。
きっと男としてという事だろうが、ここに引っ越してきた時に、お隣さんのおばさんから『美人姉妹』と言われた事は忘れてはいない。次の言葉が『お母さんもお綺麗で』だったから優希に逃げ道はなかった。
未だにご近所からは、姉妹と認識されているらしい。通っていた高校が制服のない私服通学だったのも誤解の元だったのだろうが、スカートを穿いた事も無いし女性らしい色使いの服も着ていなかったはずなのにと優希は思わずにはいられなかった。
そんな事を考えていると唐突にドアがノックされ妹に呼ばれた。
「優希さん。田舎のお父さんの方の、お爺ちゃんから電話」
「わ、分かった~」
階段を上がる音も聞こえなかったが何の気配もしなかった事に驚きながら、一階に下りると家電の保留を解除した。
「はい、もしも…―「おう、久しぶり。今回は残念だったな~」―…し……」
この豪快さは相変わらずだな~と思いつつ、懐かしくも感じた。
「あ、まあ、うん。お爺ちゃんも久しぶり。それで、何か用? お父さんなら長期出張中だけど」
「ああ、旅館の方が人手不足でな。どうだ手伝いに来んか?」
「えっ、突然どうしたの? 今までそんな事無かったと思うけど」
――詳しく話を聞くと、仲居さんなど数人が体調不良で暫く休むらしい。食中毒でも出したのかと思ったが、違ったようで電話の向こうで怒鳴られてしまった。ノロウイルス怖いのに。
どうやら仲居さんの高齢化と少子化が原因らしい。何故、少子化がと思ったが繁忙期にはバイトに高校生などを雇うのは割と一般的らしい。地方の人口減少や労働力不足は深刻なのだろうか?
「う~ん、取り敢えず分かった。それで何時そっちに……」
「おお! そうかそうか、じゃあ、明日からよろしくな。優子さんと妹ちゃんにもよろしく伝えておいてくれ」
『ガチャン……ツーツーツー――――』
「……と言う訳で急だけど、明日から実家に行く事になったから」
夕飯を食べながら、家族に報告する。母親の優子には普通に応援されたが、向かい合って座っていた妹は、こちらをじっ――と見つめてくる。思わず目を逸らしてしまう優希だった。
その後、慌しく荷物を纏め参考書もきちんと詰めて早めに就寝した優希は、次の日、二人の見送りを受けていた。
「お手伝いもあるだろうけど暫くはあっちでのんびりするといいわ。入広瀬のお爺様によろしくね。お土産はどうするの?」
「ん~、それは駅の売店で買えば良いかな。こっちの名物って何だっけ?」
母親と話している間も妹はじっと兄を見つめていた。やがて二人の会話が終って優希が荷物を背負うと、妹の彩香と目が合った。
「あれ? 制服着てるけど今日は学校あるの? まだ入学前だけど」
それを聞いた彩香は、むっとした顔をした後、穴が開くんじゃないかと言う程、優希を睨み気味に見つめた。
「そんなの優希さんに関係ないです」
兄妹のディスコミュニケーションに優希は理不尽さを感じたが、隣の優子さんは物知り顔で笑っていた。
――考えて見れば、妹が兄を名前で呼ぶから姉妹だと思われているんじゃないだろうか。そんなどうでもいい事を考えていたせいか、出発の時間がギリギリになってしまった。
慌てて荷物を背負うと二人に向き合う。
「それじゃあ行って来ます」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
「―――行ってらっしゃい」
急いで駅に向かう優希の背をずっと見送っていた彩香に母が声を掛けた。
「制服姿、見て貰いたかったんじゃないの?」
「――そんなんじゃない」
母は若干、呆れながらずっと兄の背を見ている実の娘を微笑ましく見ていたが、玄関を開けると中に入って行った。
「行ってらっしゃい。――お兄ちゃん」
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