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66・遅成の子

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 「では神殿長。書類の提出は頼んだぞ」

 「……。分かりました。お預かり致します」

 婚約に関する書類はレクラムさんが提出してくれるみたいだ。



 「父上。そろそろが何なのか教えて頂いても?」

 それは俺も気になっていた。
 生きてるのは分かる。体温もあるし、呼吸もしてる。
 最初は石の様にギュッと丸まって固まっていたが、時折、身体の表面を撫でていたら、今はほんの少しだけ…気持ち程度だけど緩んた気がする。
 それでもやっぱり俺に獅噛みついていて、未だ顔は見れない。

 「仔竜だ」

 こりゅー…竜?!

 「見れば分かります」

 え、そうなの? アージェン?

 「デュナメスの子だが。二年前に孵化してから成長しない」

 「……?」

 「私も見た事は無いから何とも言えんが、遅成の子かもしれん」

 「遅成?」

 「古い文献には、極稀にそういった子が産まれるとあった。何年も成長を止め、何かの弾みで一気に成長をする。
 何時いつ成長するか分からんが、成長すればその能力は他の竜の群を抜くと言う」

 「そんな希少なものを育てろと?
 …私には竜の飼育の知識も経験もありませんが」

 「簡単な事だ。様子を見ながら適度に構ってやれば良い。」

 簡単な事って……簡単に言うなぁ。

 「遅成の子とは言え、翼竜種の生態と何ら変わらん。アウローラにも声を掛けておく」

 「叔母上でなく私に預ける理由は?」

 「ソレの母親が育児放棄をした。
 元々、ソレと同じ頃に生まれたものや後に生まれたものに虐げられていてな。最初はソレの母親も守っていたが、次第に守らなくなった。」

 仔竜? の身体が小刻みに小さく震えている? これって、もしかしてこの会話を訊いて理解しているのか? だとしたら、この仔竜、知性高くないか?
 余程怖い思いをしたのか、震える小さな竜に俺は、 大丈夫。ここには君を傷付ける者はいないよ。 と言う気持ちで撫で続けた。

 「母竜の庇護を失った事で、周りの竜達もソレを潰しにかかる様になり、デュナメスも気付けば助けていたが、アレは隊長騎だ。常にソレに付いている事は出来ん。
 ソレは、竜でありながら、竜を怖がっている」

 「事情は分かりましたが、私にも仕事があります。ずっとこの竜に付いている事は出来ません」

 「最低限の世話さえすれば、四六時中くっ付いていなくても良いだろう。
 一頭にしておけない時は、今の嫁の様に抱えていれば良い。人間の赤子よりもずっと丈夫な筈だ」

 「…ルキ」

 無表情で淡々と話すアージェンのお父さんの言葉に、困惑顔で俺見るアージェン。

 「アージェンが良いなら、俺は構わないけど、世話の仕方や、何か問題があった時の対処法を教えてほしいかな」

 アージェンのお父さんの胸中なかではこの子をアージェンに預ける事は決定しているみたいだ。
 それに俺も…、身体をちぢめて萎縮している仔竜を突き放す事はしたくない。

 けど、犬や猫を飼った事すらない俺にとっては竜なんて未知の領域だ。
 竜の生態はもちろんの事、この仔竜にとって何が良くて、何が悪いのか分からない。
 それに、怪我や病気だってするだろうし、その時の対処法を俺は知っておきたい。

 そう思って、アージェンに返事を返せば。

 「…ならば、領地にいる竜の世話係、竜医師、私の妹と通信が取れる様に手配をしよう。
 構わないな? 神殿長」

 「神子様がそれをお望みなら」

 「ふむ、世話係と竜医師は、竜に関しては高い知識と経験を持っているが、我が領地にいる為、音声や書面でのやり取りとなる。
 妹は王都に住んでいる。アレはみずからの竜を育てた経験がある。手が必要な場合は相談すると良かろう」

 ……妹さんの所には既に竜がいる。
 だから、竜を怖がるこの仔竜を預けられない。
 という事だろうか?

 アージェンのお父さんがフォロー案を提示してくれて、レクラムさんも了承してくれたところで、俺は気になる事を訊いた。

 「あの…、ところでこの子の名前は?」

 そうなんだ、アージェンのお父さんはこの仔竜の事をソレと言っている。
 預かるなら、名前を教えてほしいだろ?

 「無い」

 ナイ?

 「付けていない。
 竜は凡そ二~三ヶ月程で飛ぶ練習をし、羽ばたきだけで地から足が離れる様になる。
 名はその時に付けるが、その仔竜にはまだ付いてはいない」

 ……飛べないから、名前が無いってことか…。

 「…そういった、決まりなんでしょうか」

 「いや、竜の世界では飛ぶ事で一つの個体と認められる。その形式にのっとったまでの事。
 ソレはお前達の竜だ。
 一頭飼いをするのであれば、好きに名付けると良い」

 「え……? 預かるだけでは…、」

 「お前に渡した。お前達の竜だ」

 「「………。」」

 これを育てろ。確かに渡した。って、そういう意味~?!

 どうする? ってアージェンを見上げれば「ルキに任せる」って言われた。

 名前、名前かぁ。
 水色。翼のある生き物。

 「……ラフィー。とかは?」




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