66 / 71
66・遅成の子
しおりを挟む「では神殿長。書類の提出は頼んだぞ」
「……。分かりました。お預かり致します」
婚約に関する書類はレクラムさんが提出してくれるみたいだ。
「父上。そろそろコレが何なのか教えて頂いても?」
それは俺も気になっていた。
生きてるのは分かる。体温もあるし、呼吸もしてる。
最初は石の様にギュッと丸まって固まっていたが、時折、身体の表面を撫でていたら、今はほんの少しだけ…気持ち程度だけど緩んた気がする。
それでもやっぱり俺に獅噛みついていて、未だ顔は見れない。
「仔竜だ」
こりゅー…竜?!
「見れば分かります」
え、そうなの? アージェン?
「デュナメスの子だが。二年前に孵化してから成長しない」
「……?」
「私も見た事は無いから何とも言えんが、遅成の子かもしれん」
「遅成?」
「古い文献には、極稀にそういった子が産まれるとあった。何年も成長を止め、何かの弾みで一気に成長をする。
何時成長するか分からんが、成長すればその能力は他の竜の群を抜くと言う」
「そんな希少な竜を育てろと?
…私には竜の飼育の知識も経験もありませんが」
「簡単な事だ。様子を見ながら適度に構ってやれば良い。」
簡単な事って……簡単に言うなぁ。
「遅成の子とは言え、翼竜種の生態と何ら変わらん。アウローラにも声を掛けておく」
「叔母上でなく私に預ける理由は?」
「ソレの母親が育児放棄をした。
元々、ソレと同じ頃に生まれた竜や後に生まれた竜に虐げられていてな。最初はソレの母親も守っていたが、次第に守らなくなった。」
仔竜? の身体が小刻みに小さく震えている? これって、もしかしてこの会話を訊いて理解しているのか? だとしたら、この仔竜、知性高くないか?
余程怖い思いをしたのか、震える小さな竜に俺は、 大丈夫。ここには君を傷付ける者はいないよ。 と言う気持ちで撫で続けた。
「母竜の庇護を失った事で、周りの竜達もソレを潰しにかかる様になり、デュナメスも気付けば助けていたが、アレは隊長騎だ。常にソレに付いている事は出来ん。
ソレは、竜でありながら、竜を怖がっている」
「事情は分かりましたが、私にも仕事があります。ずっとこの竜に付いている事は出来ません」
「最低限の世話さえすれば、四六時中くっ付いていなくても良いだろう。
一頭にしておけない時は、今の嫁の様に抱えていれば良い。人間の赤子よりもずっと丈夫な筈だ」
「…ルキ」
無表情で淡々と話すアージェンのお父さんの言葉に、困惑顔で俺見るアージェン。
「アージェンが良いなら、俺は構わないけど、世話の仕方や、何か問題があった時の対処法を教えてほしいかな」
アージェンのお父さんの胸中ではこの子をアージェンに預ける事は決定しているみたいだ。
それに俺も…、身体を縮めて萎縮している仔竜を突き放す事はしたくない。
けど、犬や猫を飼った事すらない俺にとっては竜なんて未知の領域だ。
竜の生態はもちろんの事、この仔竜にとって何が良くて、何が悪いのか分からない。
それに、怪我や病気だってするだろうし、その時の対処法を俺は知っておきたい。
そう思って、アージェンに返事を返せば。
「…ならば、領地にいる竜の世話係、竜医師、私の妹と通信が取れる様に手配をしよう。
構わないな? 神殿長」
「神子様がそれをお望みなら」
「ふむ、世話係と竜医師は、竜に関しては高い知識と経験を持っているが、我が領地にいる為、音声や書面でのやり取りとなる。
妹は王都に住んでいる。アレは自らの竜を育てた経験がある。手が必要な場合は相談すると良かろう」
……妹さんの所には既に竜がいる。
だから、竜を怖がるこの仔竜を預けられない。
という事だろうか?
アージェンのお父さんがフォロー案を提示してくれて、レクラムさんも了承してくれたところで、俺は気になる事を訊いた。
「あの…、ところでこの子の名前は?」
そうなんだ、アージェンのお父さんはこの仔竜の事をソレと言っている。
預かるなら、名前を教えてほしいだろ?
「無い」
ナイ?
「付けていない。
竜は凡そ二~三ヶ月程で飛ぶ練習をし、羽ばたきだけで地から足が離れる様になる。
名はその時に付けるが、その仔竜にはまだ付いてはいない」
……飛べないから、名前が無いってことか…。
「…そういった、決まりなんでしょうか」
「いや、竜の世界では飛ぶ事で一つの個体と認められる。その形式に則ったまでの事。
ソレはお前達の竜だ。
一頭飼いをするのであれば、好きに名付けると良い」
「え……? 預かるだけでは…、」
「お前に渡した。お前達の竜だ」
「「………。」」
これを育てろ。確かに渡した。って、そういう意味~?!
どうする? ってアージェンを見上げれば「ルキに任せる」って言われた。
名前、名前かぁ。
水色。翼のある生き物。
「……ラフィー。とかは?」
90
お気に入りに追加
256
あなたにおすすめの小説
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる