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63・留愛の絵の価値

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 洋服の購入が終われば、今度は隣の部屋へ。
 そこも、さっきと同じぐらい広いホールで、見た感じ大手雑貨屋みたいになってる。

 「ふあぁぁあっ、すご~い!
 ユース、ユース! あっち見に行きたいっ! フレメンも早くっ」

 多種多様の雑貨を前に、興奮した留愛はユースとフレメンを引っ張って行ってしまった。
 まぁ、二人が付いていれば大丈夫だろう。

 俺もゆっくり雑貨を見て回る。

 生活日用品が全て揃っていそうな規模だが、中でも調理器具に目が行き、俺はそちらに引き寄せられた。

 俺が関心を示した物を一つ一つ。一緒にいたアルヴィスが説明してくれた。どれも魔道式と言って、嵌め込まれた魔石に魔力を流せば稼動するらしい。
 ハンドミキサーやスライサーなんかもあった。
 あと凄いのは、一瞬で殺菌出来たり、解毒出来たりする容器。
 これなら食中毒の心配がない。

 部屋に必要な物を、一通り購入して俺は満足だ。

 「アージェン、これで食材が届けば、部屋でも料理が出来るな」

 「ああ、楽しみだ」

 「んっ…、」

 アージェン…、楽しみなのは分かった。
 けど! 人前でキスはやめてほしいっ。
 しかも、唇に!



 さすがにこの買い物は個人的な物だろう。と、俺は自分のお金で購入した。





 「本当に経費で落とさなくて良かったんですか?」

 俺達の少し前を歩くティグリスさんが訊ねてくる。

 「ええ、あれは明らか私物ですし。
 それを経費で落とすのは申し訳ないです」

 「ふぅん? 神殿長は先行投資だと言ってたがな」

 「?」

 「まぁ、その内神殿長から話があるでしょう。
 それはそうと、ルア様、俺…私を描いた絵を幾つか売ってもらえませんか?」

 「タイチョーさん、タイチョーの話し方で良いよ。僕の絵がほしいの? いっぱい描かせてくれるならあげるよ?」

 「では、非公式の場では言葉は崩します」

 「?」

 「仲間内ではフレンドリーに話すけれど、他の人が居る所では敬語を使う。という意味ですよ」

 「ありがとう。ユース」

 「「「「「…………。」」」」」

 ティグリスさんの言葉に首を傾げる留愛。
 それに対して説明をするユース。
 ユースは、留愛の護衛兼、通訳になったのか。

 「えぇ~っと、そうだ。ルア様、あの絵を安売りしてはいけません。
 あの絵には、かなりの価値があります。
 それを無料タダにしてしまうと、図々しい連中が押し寄せるでしょう。
 俺はルア様の絵を他人に見せる気はありませんが、万が一にも外に漏れた場合。
 絵画を生業……絵描きを商売にしている奴らに妬まれる可能性もある。
 ですから、それなりの値を付けて下さい。
 あぁ、それとレクラム……神殿長の絵も描いて頂きたい」

 「レクラムさんの?」

 「はい。本人の了承はとってありますから。バンバン描いて下さい」

 「それもタイチョーさんが買うの?」

 「もちろん」

 「ん~? 分かったぁ」

 「「「「「…………。」」」」」

 レクラムさんの絵をバンバン…。
 留愛は、本物そっくりに絵を描く。
 それを大量に購入するティグリスさん。
 もしかして、部屋中に飾るつもりなんだろうか。
 そう考えるとちょっと怖い。



 そんな話をしながら出口に向かっていると、なんだか一階フロアが騒がしい。
 俺達が向かっている方向とは別の通路。

 「お待ちくださいっ! 神殿長の許可がなければお通しする事は出来ないんです」

 アージェンとユースが、ティグリスさんの両サイド。斜め後ろにサッと着いて、俺と留愛の前に壁が出来た。
 俺と留愛の後ろには、それぞれアルヴィスとフレメンが立ってる。

 あっという間の警戒態勢。

 「その許可はいつ下りる」

 ここから距離はあると思うのに、腹にズシリと重く響くような、艶のある重低音だ。

 「現在、確認を取りに行っております」

 「その言葉は随分前に聞いた。退け」

 「しかし、ここは神殿ですっ。神殿には神殿の決まり事が……、」

 「……塵にされたいか」

 コツコツと靴音を立てて近づいて来る声は、なんだか不穏な言葉を発している。

 「おい、アージェン。あの狂犬をどうにかしろ」

 「………はぁ…」

 ティグリスさんの言葉に、アージェンが溜息を吐いた時。

 「…っ、アージェンっ!」

 少し高めの男性の声と共に、タタタッと駆け寄る音がして、ドンっとアージェンに体当たりをした。
 いや、これは抱き着いている?
 アージェンの腕の上から背中に、男性にしては華奢な両腕が回されている。

 「あぁ…、アージェン、会いたかった……」

 色白の美しい手がアージェンの背中にギュッと獅噛み付くが、アージェンはそれをほどく事もなく、微動だにしない。

 え…っと、……誰……?




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