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59・内緒のスキル(後)
しおりを挟む「クルト、何か壊れた物はありましたか?」
「…今のところは…無いですね」
「そうですか。では、カップの下に敷ける様な物を」
クルト君が大きめの布巾を持って来ると、レクラムさんはそれをローテーブルの上に敷いて……カップの中に残っていたお茶を飲み干した。
そのカップを布巾の上に置き。
カップ本体と取っ手の間に、人差し指を当てた思ったら。
パキンっ……
乾いた音を立てて、カップの取っ手は布巾の上に落ちた。
え…? 何これ、どういう仕組みだろう。取っ手の部分だけが綺麗に布巾の上に転がっている。
「ルキ様。お願い出来ますか」
「え、あ、はい」
そうだった。
本体と重なる様に見える元の形。
それに触れると……。
「「!!」」
落ちた取っ手はそのままに。
本体の方は元の形に戻った。
「………。」
「これは…」
「欠損した部分が無くても、修復出来る。
これがルキ様のスキルです。
続いて、ルア様ですが。
何で試しましょうか…」
「このお部屋全体ぐらいは余裕でイケるよ。
生き物は無理だけど」
「それは、ちょっと…。
ルア様達が座っている椅子はどうです?」
「全然平気」
俺と留愛が立ち上がり。留愛が三人掛けのソファに触れると……。
消えた。
「「!?」」
「戻して頂いても?」
「うん」
現れた。
「「!」」
けど、位置と向きがズレてる。
「ルア様…。元の位置に戻す事は?」
「テヘッ、無茶言わないでっ」
留愛……。元の位置に戻せないのに、応接室全体の物を収納しようとしたのか?
「アージェン、ユース」
留愛が収納して出したソファは、アージェンとユースが元の位置に戻してくれた。
中々の重量だろうに……。
レクラムさんの提案とは言え、ウチの弟がスミマセン。
「と、まぁこれがお二人のスキルです。
悪用を避ける為に、今はまだ内密に」
「分かりました」
アージェンも頷いてくれる。
「さて、私からの連絡事項なのですが」
ソファを戻して俺達が着席し。
テーブルの上を片付けて、仕切り直したところで、レクラムさんは口を開いた。
「まず、浄化石の事です。
あれを一つ作るのに、かなりの力が消費される事が分かりました。
ですので、浄化石の生成は週に一箱程度に止めて頂きたいのです」
そんなに疲れは感じなかったけど。
「分かりました。
ですが、そのペースで間に合うのですか?」
「ええ、それは大丈夫です。
元々、瘴気の浄化は神殿騎士の巡回だけで賄っていたのです。
それが浄化石の存在だけで、随分楽になりましたから、そこは気にしなくても大丈夫です」
「そうですか。分かりました」
「もう一つ、今から約二ヶ月後に神子様方のお披露目があります」
……お披露目?
「お披露目と言っても、王城のホールで貴族達に顔見せをする程度です。
皆に紹介はしますが、直話や挨拶等は禁じます。
ですので、紹介された後は、用意された奥の席に移り、そこで食事を楽しむだけです」
「王城……」
「ええ、そこが一番広くて、招集をかけるのに適していますから」
「それは…、アージェンやユースも一緒に?」
「はい。アージェンはルキ様の護衛兼、エスコート役として。
ユースも、ルア様の護衛兼、エスコートとして付く事が出来るでしょう」
「分かりました。それなら大丈夫です」
良かった。王城なんて大層な所に俺と留愛。二人で放り込まれる訳じゃないみたいだ。
「明日の午前中に服飾と雑貨を扱う商人が神殿を訪れますので。服の採寸やお披露目の衣装。普段着等を見繕ってください。
その時にルア様のスケッチブックの買い付けも出来ますよ」
「わぁ…っ、ありがとう」
良かったな。留愛。
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