58 / 71
58・内緒のスキル(前)
しおりを挟む訪ねた弟の部屋から、弟以外の如何にも風呂上がりです。って男が出て来たら、びっくりするだろう?
今はそんな心境だ。
服は着ているけど、シャツのボタンは留めてないから、鎖骨の下に続く整った胸筋と腹筋を曝け出していて。
中途半端に湿った濡れ髪が何ともセクシーだ。
「ユース。帰ってたんだ?」
弟の部屋から出て来た風呂上がりの男とはユース。
ノックした時の返事で分かってたけどさ、まさかの格好だった。
「はい。先程こちらに戻りました」
「昼食を持って来たけど、一緒に食べれそうか?」
「昼食?! 食べる!」
部屋の奥から聞こえてきた留愛の声によって、俺達は部屋の中へと案内された。
リビングには、ソファで気を抜いた様に寛ぐ留愛が居て、クルト君を連れて来た事に喜んでいた。
「留愛も風呂に入ったんだな」
留愛の髪はしっかりと乾いていて、服も着ているが、風呂上がりのスッキリした感じだ。
それに、石鹸の匂いを漂わせていた。
「…うん。ベタベタでしんどかったからユースに洗ってもらったの」
「ユースに?」
ユースは留愛の護衛だけど。護衛にそんな事までさせたのか?
ユースには随分と面倒をかけてしまった。
「私が出先から戻った時、ルア様は奥宮の前庭で混合魔法を使ったらしく、魔力を消耗して疲労状態でした。
衣服も汚れていたので、僭越ながら私がルア様の入浴のお手伝いをさせて頂きました。」
と、テーブルに着いた俺とアージェンに説明をするユース。
外から帰って来たユースにあの広場で拾われて、そのまま世話をされたと。
「そうか、ありがとうユース。
ところで混合魔法って?」
さっきの練習ではそんなの使わなかったと思うけど。
「魔法は、火、水、風、土。と独立した属性がありますが、その属性を混ぜて使う事を混合魔法と言うのです。
それをすると、単独で使用する魔法の数倍は魔力を消費します。
どうやらルア様は、それを知らずに使ってしまった様ですね」
「そうだったのか…。
留愛、体調は?」
「ユースに不味い薬飲まされたら、しんどいのはましになったぁ~…」
不味い薬?
……余程不味かったのか、留愛の表情が苦虫噛んだ顔になってる。
「丁度、魔力回復薬を持っていましたので。
あの味に懲りたら、もう無茶な事はしないでしょう」
「……そ、そうか」
ふふふっと笑うユースと、ソファに齧り付いて渋い表情の留愛。
既にお灸は据えられたみたいだから、俺から特に何か言う事は無いだろう。
クルト君が飲み物を用意してくれたところで、俺達は食事を開始した。
ソファのローテーブルは留愛、ユース、クルト君が使っていて。テーブルは俺とアージェンが使わせてもらっている。
「アージェンは混合魔法って知ってた?」
「ああ、使った事は無いがな」
「そうか。まぁいくら便利でも体調を崩すなら、使い所は考えないといけないしな。」
「それもあるが、俺は四大属性の魔法を使えない」
「へぇ、そうなんだ。
じゃあ、俺が役に立てる事があれば言ってくれ」
誰にだって得意、不得意はある。
「ありがとう。ルキ」
おぉぅ。笑顔が眩しい。
昼食の後はレクラムさんとの会談。
クルト君は元々、俺達を応接室に案内する為に奥宮に来ていたらしく、そのまま一緒に一階の応接室に向かった。
「すみません。度々お時間を取って頂いて」
「構いませんよ。私も丁度、お伝えしたい事が御座いましたし。
それで、ルキ様のお話とは」
出来れば最初はアージェンとユース抜きで相談したかったんだけどな。
でも……。
「あのスキルの事をアージェンにも伝えたいと思いまして」
後ろに立つアージェンの視線を感じる。
「………良いのですか?」
「はい。アージェンは常に私の傍にいますし。信頼も出来ます。
何より、その…彼にそういった隠し事をしたくないので」
「…………。」
レクラムさんが逡巡していると、アージェンが徐に口を開いた。
「…実家に、ルキ様との婚約証明書の発行を依頼したのだが、それでも隠し通さねばならない事なのだろうか」
え…? こんやく、なんだって?
「婚約証明書…ですか」
「証明書類が届いた後に、ルキ様に話をし、神殿長に許可を頂く予定でしたが」
「なるほど。わかりました。
お二人がその様な仲なら問題は無いでしょう」
ふあぁっっ…ど、どうしよう…っや、別にね、俺達は大人だし? それにこの世界では普通の事みたいだから良いんだろうけど、でも正式に知られるのって恥ずかしいっ
それに……、婚約って、アージェンがそこまで考えてたって……あ~どうしよう、顔が熱い。
「待って! 兄ぃが言ってるのって内緒のスキルの事だよねっ? だったら僕もユースに教えたいっ」
レクラムさんに視線を向けられたユースが、部屋を出ようとしたところ、留愛が待ったをかけた。
「ユースだったら何かあった時、僕を守ってくれるよっ?」
「……ルア様…」
「「「…………。」」」
レクラムさんは米神を押さえて何かを考えていたが、やがて「ふぅ…」と息を吐いて、ユースに訊ねた。
「ユース」
「はい」
「予定より帰りが早かった様ですが…、手続きは済んだのでしょうか」
「滞りなく」
「分かりました。ルキ様とルア様の希望ですし。まぁ…二人なら大丈夫でしょう。
ただし、この事を無闇に広めるのは厳禁です。いいですね?」
「無論」
「はい」
良かった。これで、アージェンに隠し事をしなくて済みそうだ。
64
お気に入りに追加
259
あなたにおすすめの小説
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
モブだった私、今日からヒロインです!
まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。
このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。
そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。
だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン……
モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして?
※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。
※印はR部分になります。
全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!
迷路を跳ぶ狐
BL
森の中の小さな領地の弱小貴族の僕は、領主の息子として生まれた。だけど両親は可愛い兄弟たちに夢中で、いつも邪魔者扱いされていた。
なんとか認められたくて、魔法や剣技、領地経営なんかも学んだけど、何が起これば全て僕が悪いと言われて、激しい折檻を受けた。
そんな家族は領地で好き放題に搾取して、領民を襲う魔物は放置。そんなことをしているうちに、悪事がバレそうになって、全ての悪評を僕に押し付けて逃げた。
それどころか、家族を逃す交換条件として領主の代わりになった男たちに、僕は毎日奴隷として働かされる日々……
暗い地下に閉じ込められては鞭で打たれ、拷問され、仕事を押し付けられる毎日を送っていたある日、僕の前に、竜が現れる。それはかつて僕が、悪事を働く竜と間違えて、背後から襲いかかった竜の王子だった。
あの時のことを思い出して、跪いて謝る僕の手を、王子は握って立たせる。そして、僕にずっと会いたかったと言い出した。え…………? なんで?
二話目まで胸糞注意。R18は保険です。
死にたがりの僕は言葉のわからない異世界で愛されてる
ミクリ21 (新)
BL
父に虐待をされていた秋田聖(17)は、ある日自殺してしまう。
しかし、聖は異世界転移して見知らぬテントの中で目覚めた。
そこは何語なのかわからない言語で、聖は湖に溺れていたのを森の巡回中だった辺境伯の騎士団が救出したのだ。
その騎士団は、聖をどこかの鬼畜から逃げてきた奴隷だと勘違いをする。
保護された聖だが、聖は自分は死ぬべきだという思いに取り憑かれて自殺ばかりする死にたがりになっていた。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる