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58・内緒のスキル(前)

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 訪ねた弟の部屋から、弟以外の如何いかにも風呂上がりです。って男が出て来たら、びっくりするだろう?

 今はそんな心境だ。
 服は着ているけど、シャツのボタンは留めてないから、鎖骨の下に続く整った胸筋と腹筋をさらけ出していて。
 中途半端に湿った濡れ髪が何ともセクシーだ。

 「ユース。帰ってたんだ?」

 弟の部屋から出て来た風呂上がりの男とはユース。
 ノックした時の返事で分かってたけどさ、まさかの格好だった。

 「はい。先程こちらに戻りました」

 「昼食を持って来たけど、一緒に食べれそうか?」

 「昼食?! 食べる!」

 部屋の奥から聞こえてきた留愛の声によって、俺達は部屋の中へと案内された。

 リビングには、ソファで気を抜いた様にくつろぐ留愛が居て、クルト君を連れて来た事に喜んでいた。

 「留愛も風呂に入ったんだな」

 留愛の髪はしっかりと乾いていて、服も着ているが、風呂上がりのスッキリした感じだ。
 それに、石鹸の匂いを漂わせていた。

 「…うん。ベタベタでしんどかったからユースに洗ってもらったの」

 「ユースに?」

 ユースは留愛の護衛だけど。護衛にそんな事までさせたのか?
 ユースには随分と面倒をかけてしまった。

 「私が出先から戻った時、ルア様は奥宮の前庭で混合魔法を使ったらしく、魔力を消耗して疲労状態でした。
 衣服も汚れていたので、僭越せんえつながら私がルア様の入浴のお手伝いをさせて頂きました。」

 と、テーブルに着いた俺とアージェンに説明をするユース。

 外から帰って来たユースにあの広場で拾われて、そのまま世話をされたと。

 「そうか、ありがとうユース。
 ところで混合魔法って?」

 さっきの練習ではそんなの使わなかったと思うけど。

 「魔法は、火、水、風、土。と独立した属性がありますが、その属性を混ぜて使う事を混合魔法と言うのです。
 それをすると、単独で使用する魔法の数倍は魔力を消費します。
 どうやらルア様は、それを知らずに使ってしまった様ですね」

 「そうだったのか…。
 留愛、体調は?」

 「ユースに不味い薬飲まされたら、しんどいのはましになったぁ~…」

 不味い薬?
 ……余程不味かったのか、留愛の表情が苦虫噛んだ顔になってる。

 「丁度、魔力回復薬を持っていましたので。
 あの味に懲りたら、もう無茶な事はしないでしょう」

 「……そ、そうか」

 ふふふっと笑うユースと、ソファに齧り付いて渋い表情の留愛。
 既にお灸は据えられたみたいだから、俺から特に何か言う事は無いだろう。

 クルト君が飲み物を用意してくれたところで、俺達は食事を開始した。



 ソファのローテーブルは留愛、ユース、クルト君が使っていて。テーブルは俺とアージェンが使わせてもらっている。

 「アージェンは混合魔法って知ってた?」

 「ああ、使った事は無いがな」

 「そうか。まぁいくら便利でも体調を崩すなら、使い所は考えないといけないしな。」

 「それもあるが、俺は四大属性の魔法を使えない」

 「へぇ、そうなんだ。
 じゃあ、俺が役に立てる事があれば言ってくれ」

 誰にだって得意、不得意はある。

 「ありがとう。ルキ」

 おぉぅ。笑顔が眩しい。





 昼食の後はレクラムさんとの会談。
 クルト君は元々、俺達を応接室に案内する為に奥宮に来ていたらしく、そのまま一緒に一階の応接室に向かった。



 「すみません。度々お時間を取って頂いて」

 「構いませんよ。私も丁度、お伝えしたい事が御座いましたし。
 それで、ルキ様のお話とは」

 出来れば最初はアージェンとユース抜きで相談したかったんだけどな。
 でも……。

 「スキルの事をアージェンにも伝えたいと思いまして」

 後ろに立つアージェンの視線を感じる。

 「………良いのですか?」

 「はい。アージェンは常に私の傍にいますし。信頼も出来ます。
 何より、その…彼にそういった隠し事をしたくないので」

 「…………。」

 レクラムさんが逡巡していると、アージェンが徐に口を開いた。

 「…実家に、ルキ様との婚約証明書の発行を依頼したのだが、それでも隠し通さねばならない事なのだろうか」

 え…? こんやく、なんだって?

 「婚約証明書…ですか」

 「証明書類が届いた後に、ルキ様に話をし、神殿長に許可を頂く予定でしたが」

 「なるほど。わかりました。
 お二人がその様な仲なら問題は無いでしょう」

 ふあぁっっ…ど、どうしよう…っや、別にね、俺達は大人だし? それにこの世界では普通の事みたいだから良いんだろうけど、でも正式に知られるのって恥ずかしいっ
 それに……、婚約って、アージェンがそこまで考えてたって……あ~どうしよう、顔が熱い。

 「待って! 兄ぃが言ってるのって内緒のスキルの事だよねっ? だったら僕もユースに教えたいっ」

 レクラムさんに視線を向けられたユースが、部屋を出ようとしたところ、留愛が待ったをかけた。

 「ユースだったら何かあった時、僕を守ってくれるよっ?」

 「……ルア様…」

 「「「…………。」」」

 レクラムさんは米神を押さえて何かを考えていたが、やがて「ふぅ…」と息を吐いて、ユースに訊ねた。

 「ユース」

 「はい」

 「予定より帰りが早かった様ですが…、手続きは済んだのでしょうか」

 「滞りなく」

 「分かりました。ルキ様とルア様の希望ですし。まぁ…二人なら大丈夫でしょう。
 ただし、この事を無闇に広めるのは厳禁です。いいですね?」

 「無論」

 「はい」

 良かった。これで、アージェンに隠し事をしなくて済みそうだ。




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