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54・魔法の授業(前編)

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 食堂に食器を下げ、五人で一息ついてからやって来たのは、図書棟と奥宮の間にある広い広場。

 本当は地面も土の方が良いらしいけど、騎士棟のグランドは使用中だからこっちにしようと、アルヴィスに提案されてやって来た芝生の上。

 「お二人共、自分の身体の中に意識を集中してみてください。
 魔力の流れ、分かりますか?」

 目を閉じて集中するけどよく分からない。それをアルヴィスに伝えると。

 「う~ん、じゃあ…俺の魔力をほんの少ぉ~しだけルキ様の体内に入れるんで、その流れを辿ってみてください。
 …………。アージェン様、殺気をしまってください。ほんの一瞬指先が触れる程度ですから。
 アージェン様も、ルキ様が魔力を制御出来ずに怪我をするのは嫌でしょう?
 これだけの魔力が暴走すれば大変な事になりますよ。
 ですからちゃんと覚えて貰いましょっ、ね?」

 俺と話していたのに、途中から困った表情になり、アージェンに話し掛けるアルヴィス。
 殺気って?とアージェンの方を見ても……アージェンは至って普通だ。

 「…器用ですね。
 まぁいいです。始めましょう。
 ルキ様、人差し指を出してください」

 言われて人差し指を出すと、アルヴィスがそれをちょんっとつついた。

 あ、分かる。
 チリって熱いけど、小さな小さな点が指先から俺の身体の中を移動してる。

 「動いているのは分かりますか?」

 「うん」

 「その動きがルキ様の中にある魔力の流れです。
 それが一周して指先に戻って来たら、ポイって外に出すイメージで放り出してみましょう」

 言われた通りにやってみたら…俺の指先から線香花火の最後の灯よりも小さな光が出て、ポスンっと消えた。

 さっきの流れを意識しながら、もう一度体内に集中すると……分かる。
 緩やかな小川みたいに、ゆるりゆるりと動いているのが。

 「では、その流れている魔力。
 先程と同じぐらいの量を外に出してみてください」

 指先から少量の魔力を出すと、指先周辺の空気がふにゃんと歪んだ。
 これが自分の中から出た魔力なんだと分かる。

 「魔力の出力は自分の持つイメージで調整出来る筈です。
 ただ、少しでも疲労を感じたら…それ以上は使わないでください。
 魔力枯渇になれば、意識を失ったり。回復するまで行動不能になりますから。
 次に、先程の量を暫く出してから、徐々に絞って止めてみてください」

 細く長く…かな?
 スー…と出して、スー…と止める。

 「良いですねぇ。
 魔力の流れも穏やかで安定しています。
 では、次にルア様」



 アルヴィスは地面の砂を指先で摘み、フレメンに「このぐらいの量で」と見せた。
 それはほんの少し指に付いていて、あるか無いか分からない程度だ。

 フレメンはコクリと頷いて留愛の指先にちょんっと触れた。

 留愛は冷たい冷たいっと騒ぎ出して…。

 「ルア様っ無理に動かさず、流れに沿うようにして自分の外に放り出してくださいっ」

 俺とフレメンが動揺している横でアルヴィスが慌てて留愛に声を掛ける。

 「ん~~もうっ!えぇいっ」

 留愛の叫びともとれる掛け声で飛び出したのは…………消防車の放水。

 ドオオオォォォ………

 留愛の手から出た大量の水は辺り一帯の芝生を……泥沼に変えた。

 「アルヴィス」

 「ぇ゙……いや、無理ですよ」

 「…ルア様、体調は?」

 「ん~?出すもの出してスッキリした感じ!」

 「場所を変えよう」

 アルヴィスに何かを断られて、留愛の体調を確認したアージェンは俺の腰に手を添えて、さり気なく移動を始めたけど……ねぇ良いの? 広場に沼地が出来てるんだけど?!





 さっきの場所から広い道を挟んだ反対側の広場。
 さぁ気を取り直して。っと言わんばかりの皆んなの切り替えの早さが凄いよ。

 アルヴィスはフレメンに任せると危険だと察したのか、自ら俺と同じ練習を留愛に行った。

 そのお陰か俺も留愛も、自分の魔力を放出、止める。といった事がスムーズに出来るようになり、金庫ギルドの本人確認の魔石にも、無事魔力を流す事が出来た。



 「さて、次は自分と相性の良い属性を探っていきますね。
 少しでも疲れを感じたら迷わず言ってください。いいですね」

 俺と留愛が頷いたのを確認してからアルヴィスは指先からロウソクぐらいの火を出した。

 「お二人共、これくらいの火をイメージして魔力を出してみてください」

 これは俺も留愛もイメージし易くて難なく出来たし疲れもしなかった。



 次に水。
 アルヴィスから何かを言われたフレメンがシャボン玉のような水の玉をふよふよと出した。
 これは可愛い。
 今は一つだけだが、沢山出せば水撒きなんかも出来そうだ。

 これも俺と留愛は簡単にクリア。
 ここで、アルヴィスがあれ?って表情をした。

 「どうかしたのか?」

 「いえ、相反する属性を使いこなせるのは珍しいと思いましてね」

 「「?」」

 「例えば俺は火属性と相性が良いのですが、水とはダメです。
 凡そ五メートルの火柱を上げるのと、一滴の水を出すのとでは、同じ魔力量を使うんです」

 「へぇ…そうなんだ…」

 ……五メートルの火柱を上げる場面って、どんなだ??

 「とりあえず他の属性も探ってみましょう」



 次は風。
 これは手本が無いからどうしよう。となり、俺と留愛。それぞれ魔力を使って、自分達が思う風を起こしてみる事になった。

 ふ~む…風。
 暑い時にサアァァ~っと吹くと気持ち良いよな。
 そんなイメージで魔力を薄く広く伸ばすと……気持ちの良い風が芝生の草を揺らして、俺の髪を掬いながら、通り抜けて行った。

 「ルキの風は心地良いな。疲れは?」

 「ん、ありがとう。大丈夫」

 アージェンが俺の髪を撫でてくれる。
 どうやら髪に葉っぱが着いていたみたいだ。
 アージェンに心地良いと言われた俺は嬉しくて、照れてしまう。
 こんな風に身近な人に喜んでもらえる魔法は良いな。

 俺の次に出した留愛の風…っ!
 留愛は何をイメージしたのか竜巻を起こした。
 これにはその場にいた全員がびっくりだ。
 咄嗟にアージェンが、俺を抱き込んでくれたお陰で、風に煽られる事は無かったけど。

 「ぶはっ…ルア様っ! これでは芝生が全部飛び散ってしまいます! もっと魔力を絞って!」

 アルヴィスっ問題はそこじゃ無いっ! と思うも、風の勢いが強くてアージェンの胸元に顔を埋めて耐えるしかない。

 「~~~っ!」

 「ルア様。兄君が風に煽られて辛そうだ」

 アージェンの声に応える様に強風がふっと消えた。

 「ごめ~ん、兄ぃ~っ加減が分かんなかったぁ~」

 る、留愛? 加減って、一体何をするつもりだったんだ?




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