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53・三人で朝食

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 いい匂いがする。

 焼きたてパンみたいな匂い。

 布団の中が温かい。

 懐かしく心地良い人肌の温もり。



 朝…?

 隣で留愛が寝てる。
 朝食準備をしてるのはアージェン?
 そっとベッドを降りて寝室を出ると、そこにはきちんと制服を着込んだアージェンが、テーブルの上に朝食を並べていた。
 …また、運ばせてしまった。

 「おはよう。アージェン」

 「ああ、おはよう」

 最初に会った時は無表情だったアージェン。
 今は話し掛けると緩く微笑んでくれる。

 「朝食ありがとう。
 また取りに行かせちゃったな」

 「構わない」

 「…ん…」

 流れる様にキスをしてくるけど、これがこの世界の普通なんだろうか?

 「ぁ…俺、軽くシャワー浴びて来る」

 「ああ」





 今日は留愛を交えて三人で朝食だ。

 今朝は枝豆の入ったスクランブルエッグにミネストローネ。
 アージェンが温めてくれたふかふかパン。
 作ってくれた人達と、用意してくれたアージェンに感謝して、いただきます。



 留愛の話では。
 やっぱり留愛も昨日は寝坊したらしくて、起きてから食堂に行ったらしいが、一緒にいたフレメンは既に朝食を済ませた後。
 側にフレメンはいたが、泣く泣く一人で食べたらしい…俺も寝てたから、一緒に食べれなくて申し訳ない。

 だがここで、一日中留愛に付いていたフレメンが昼食を食べてない事が発覚したんだ。
 状況や体調にもよるけど…出来れば食事はきちんと摂ってほしい。

 「…フレメンはルア様が指示を出さなければ動かないだろう」

 俺達の話を聞きながら黙々と食べていたアージェンが徐にそんな事を言った。

 「ルア様を護衛する。ルア様を守る。といった事は予め隊長やユースから指示を受けていたのだろう。
 だが細かい指示まではされていない。
 ルア様がして欲しい事を明確に伝えれば、その様に動く筈だ」

 ちょっと待って?
 それって、留愛が食事を摂るように言わなかったら食べないって事…か?
 でもアージェンは最初、俺が誘っても食べなかった。
 フレメンは留愛が言えば食べてくれるって事だよな。
 ふむ、世話が焼けるとはいえ、拒否されるよりそっちの方がましな気がする。



 「そう言えばアージェン。
 浄化石を入れる箱を見なかったか?」

 そう。昨日留愛が寝た後に作ろうと思ったら魔石はあるのに箱が無かったんだ。
 あの箱に入れて置かないと魔石に入れた浄化力が抜けて行くらしい。
 下手をすれば、目的の場所に届いた時にはただの石。って事も有り得るそうだ。

 「あれなら少々不具合が出てな。
 神殿長が回収された」

 「そうなんだ」

 それなら仕方ない。

 「ああ。
 後…神殿長だが、午後から時間が取れるそうだ」

 「分かった。ありがとうアージェン」



 と、ここで留愛がそ~っとスクランブルエッグの乗った皿を俺の方に寄せて来た。
 その顔を見ると「食べてっ」と言わんばかりの笑。
 まじかぁ…。
 いくら俺でも一皿追加はキツい。

 「アージェン、半分食べれる?」

 「ああ、頂こう」

 良かった。
 それなら俺も何とか食べれそうだ。
 …が、その様子を見ていた留愛が更に「テヘッ」って表情でパンを一個差し出して来た。
 いやいやもう無理だって!

 「貰おう」

 アージェンが引き取ってくれて助かった。
 やっぱ身体が大きいと食べれる量も違うんだな。

 結局留愛はパン一個とスープだけ。
 朝は少食な留愛だから仕方ないか…と思っていたら、牛乳が飲みたいと言い出した。

 え……、ご飯残したよな?
 俺の困惑が伝わったのか留愛は。

 「牛乳は別腹!」

 言い切った。
 でも残念な事に。

 「留愛、ここには牛乳は無いんだ」

 「神官棟の食堂にはあったよ」

 「………。」

 「持って来させようか」

 「え?…あ~、ありがとうアージェン。
 でも食器を下げに行きたいからさ、その時に飲もう」

 「ルキがそう言うならそうしよう」

 アージェンはサラっと言ったけど、誰に持って来させるつもりだったんだ?



 我が道を行く留愛の目的と、食器を下げる為に部屋を出ると、アルヴィスとフレメンがいて。
 朝の挨拶を交わした後、アルヴィスはアージェンから当たり前の様に、黙って食器を受け取っていた。
 全部、持たせてしまったけど良いんだろうか。

 「そうだルキ様。
 隊長補佐から金庫ギルドの魔石を預かっています。
 魔力の循環が上手く行える様でしたら、魔石に魔力を流してみましょう。
 流すのはほんの僅かなので、疲れる事はないと思います」

 昨日言ってた本人確認の魔石かな?
 もう届いたのか。

 「アルヴィス…あの、俺にも魔力ってあるんだろうか」

 アルヴィスの話に水を差すようで悪いんだけど、元の世界に魔法なんて無かった。
 留愛は魔法を教えてもらうと言っていたが…何せ使った事が無いんだ。
 俺に魔力なんてものがあるのかどうか分からない。
 しかしそれは俺の杞憂で。

 「ルキ様もルア様も魔力はありますよ? う~ん…むしろ魔力量だけなら俺やフレメンより高いかも知れません」

 「そうなんだ」

 それがどれぐらいの量なのか、分からないけど、あるにはあるのか。

 「ですから、それが暴発しないように、まずは制御を覚えましょうね」

 とアルヴィスは懐っこい笑顔を浮かべた。




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