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52・留愛のお泊まり

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 「二人に相談があるんだが」

 育児所からの帰り道、アージェンは徐にそう言った。

 「相談?」

 「?」

 「ああ、今夜ルキの部屋にルア様を寝かせる事は可能だろうか?」

 「俺は構わないけど」

 ベッドが広いから留愛と二人なら余裕だ。

 「僕も大丈夫だよ」

 「ではそれで頼む」

 「…何かあったのか?」

 「大した事じゃ無い。
 そこの二人が魔力を消耗し過ぎただけだ」

 「ふぅん?」

 まぁ、アージェンがそう言うなら大丈夫なんだろう。



 そして、留愛は今日ティグリスさんに会えたそうだ。
 本殿の事務局という所に、レクラムさんと二人で居て。

 ティグリスさんからはユースの帰宅予定を訊き。
 レクラムさんからは魔法の練習の事を訊いたと言う。

 なるほど、ユースの事を訊く為に、ティグリスさんに会いに行ったのか。

 あと、事務局にはカエルが出るから気を付けて。と言われたが、近くに池でもあるんだろうか?
 どんな種類のカエルが出るのか分からないが、ここは日本じゃないんだ。
 中には毒を持つものも居るかもしれない。

 「留愛も怪しい物には不用意に近づいたり、触ったりしないようにな」

 「うん、分かった。
 それにね、そのカエル。
 ばっちかったから、僕は近づいたり触ったりしないよ」

 「よし、良い子だ」

 留愛にばっちいと言われたカエルには申し訳ないが、よく分からない物は触らないに限る。

 アルヴィスとフレメンが顔を逸らして、口元を押さえているが…この二人もカエルを見たんだろうか。
 アルヴィスに至っては肩を震わせて笑いを堪えているような??





 「兄ぃ、一緒にお風呂入ろ!」

 部屋に入って開口一番、留愛はそんな事を言った。
 確かに神官棟にあったシャワールームより広いけど、洗い場ならともかくバスタブは無理だぞ?

 留愛の身体二つ分なら何とか……いや、やっぱり無理か。
 そうだとしても、肩をくっ付けて座るか、両サイドに分かれて座っても足がぶつかって邪魔になる。

 どちらにしても、ゆっくり浸かれないな。

 「うーん…身体は洗えても、バスタブは交代で入るとかしないと無理だろう」

 「えぇ~、イケるよ?」

 「そうか、でも今日は一人でゆっくり入っておいで」

 「はぁい」

 留愛を先に風呂へと送り出してから、俺はアージェンから破れたシーツを受け取り……そう、このシーツ預かって来たんだ。

 俺にシーツを渡してから、俺の腰に腕を回して、正面から抱きつくアージェンを見上げて訊いてみた。

 「アージェン、明日ってレクラムさんに会える?」

 「今から今日の報告に向かうから、聞いて来よう」

 「ん、ありがとう」

 「俺が戻るまでは部屋の前にあの二人がいる。何かあれば二人に言ってくれ」

 「分かった」

 そう言ってアージェンは俺の唇にキスを落とす。
 俺も、心地良くて安心できる温もりに。その広い背中に片手を伸ばす。

 「んぅ……ぁ…」

 いつの間にか受け取ったシーツは足下に落ちていて。
 二人でピッタリ抱き合った身体は、服越しでも気持ち良い。

 アージェンの匂いがする。

 「んっ…はぁ、」

 クチュクチュと小さな水音を鳴らし。
 縋るように舌を絡ませては。
 いつまでも抱き合ってキスしていたい気持ちと、アージェンを仕事に送り出さないといけない気持ちがせめぎ合っていた時。

 「っ…!すまない」

 アージェンが唇を離して風呂場に向かった。
 それに続いて俺も向かうと…、ぐったりした留愛をバスタブから引き上げて、バスタオルで巻いていた。



 一体、なにが…?

 「留愛っ?!!」

 「逆上のぼせたみたいだ。
 ルキ、水を」

 「っ…! わ、分かった!」

 アージェンが、留愛の髪や身体をガシガシ拭いて、ソファに運んでる間に。
 用意した冷たいタオルを留愛の首筋に当てて、水を口元に持っていくと。
 意識が有るのか無いのか、留愛は自分でグラスを持って、飲んでくれた。

 水を三分の一ほど飲んでから、はふっと息を吐いて、薄らと瞼が上がる。

 「留愛…? 意識はある?」

 「ぼ、く…?」

 聞こえてはいるみたいだ。
 それに、反応もしてくれた。

 「お風呂で逆上せて、溺れかけてたんだ。……アージェンが気付いて助けてくれた…」

 「ぅ…、ごめんなさい」

 ああ、良かった…徐々に開いた瞳に光が戻って来た。
 顔もまだ火照りは残っているが、さっきまでの熱さはない。

 「助けてくれたアージェンに言う事は?」

 「ありがとう」

 「ああ」

 少しぐらい狭くても、一緒に入ればよかったと後悔する気持ちと。
 アージェンがいてくれて良かったと思う安堵感が胸に広がった。
 ほんとに…あのまま、気付かなかったらと思うと……ぞっとする。



 留愛の無事を確認したアージェンは、びしょ濡れになった服を着替えてから報告に向かった。

 …いつの間にか、付人の間?に自分の荷物を運び込んでいたみたいだ。





 暫くソファで横になっていた留愛だったが、少し動ける様になったのか、ふらふらと寝室に入って行き、バフンっとベッドに倒れ込んだ。

 そっと覗き込んでみたが…すやすやと寝ている。
 …器用だな?




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