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48・イーレ君の自己紹介
しおりを挟む「あ~、それでシスさんはどこに?」
恥ずかしさを紛らわせる為に訊くと。
「シスは今、外遊びの子供達を見てくれています。
イーレもシスに抱っこされて落ち着いていますし。
室内遊びの子供達は年長組が見てくれていて。
ふふっ僕はこうしてゆっくり後片付けが出来ます」
「それは良かったです」
カウンターテーブルの椅子を勧められて、俺とアージェンが座ると、食器洗いを終えたタリスさんがお茶を出してくれた。
あと、これは…? 可愛らしい小皿に人参グラッセが乗っている。
「ルキ様に頂いたレシピで作ってみたんです。子供達…すごく喜んでくれて。
あの、ですから…ルキ様達も、味を見て頂けますか?」
照れながらそう言うタリスさんは可愛い。
「では、いただきます」
遠慮なく人参グラッセをフォークで刺して口に運ぶと。
んっ、美味しいっ!
柔らかくて、これなら小さな子供でも食べ易い。
砂糖とバターの甘塩っぱさが人参の甘味を引き立ててる。
「すごく美味しいです」
「本当ですか?! 良かったぁ~」
何だろう。俺が教えた事に挑戦してくれて。
それが成功して、笑顔で喜んでるタリスさんを見ると、胸がポカポカして嬉しくなった。
横を見ると、アージェンは人参グラッセをじっと眺めていてまだ食べていない。
「アージェン、人参は苦手?」
人参はピーマンに次いで苦手な子供が多いから訊いてみた。
「いや」
だったらと、俺はフォークで人参グラッセを刺して、アージェンの口元に持っていった。
「アージェン、あ~ん?」
一瞬怯んだ様に見えたけど食べてくれた。
やっぱり苦手だったのかな?
でもその食べ方がさ……何て言うか、目を少し伏せて、口から少し出した舌がっ……何とも、その、えっちでセクシーだったんだっ!
ひゃぁあ、食べさせた俺の方が恥ずかしいとはっ!
タリスさんも大丈夫そうだし、俺は神官棟の厨房に行こうかな。って思った時、トテトテトテ……っと、小さな人影が走って来て、アージェンの足に抱き着いた。
イーレ君だ。
アージェンがイーレ君を抱き上げて膝に乗せると、タリスさんがイーレ君に薄桃色の水を渡した。
イーレ君は「ありあとっ」って言って、それをコクコク飲んでから、アージェンに。
「あのね、イーエ! にぃたんは?」
と、首を傾げて話しかけている。
ふわわぁっ可愛いっ!
「アージェンだ」
「アーデ」
「アー、ジェン」
「アーデン」
「…………。そうだ」
「アーデン!」
妥協して頷くアージェンに対し、イーレ君は満面の笑顔。
はわわぁっ…何これ何これ何これぇっっ!可愛いっ!可愛過ぎる!二人共が可愛い~~っ
「イーエね。しゃんしゃい。アーデンは?」
「二十六歳だ」
「に……?」
「にじゅう、ろく」
「にうーろく!」
「…………。そうだ」
一生懸命に自分の指で三を作るイーレ君っ。
無表情だけど、真面目に答えるアージェン!
もう、どうしよう?!もう、悶えて良いですか?!
「すまないっタリス!こっちにイーレが……ぁ、」
おっと…、俺が二人のやり取りに悶えていたら、シスさん登場。
「お邪魔してます。シスさん」
「ああ…いえ。すみません、お二人が来ていたとは知らず」
「いえ、イーレ君ならここですよ」
「すみません。他の子が手を洗っている間に居なくなってしまって。
さぁイーレ、こっちに…、」
「イーエ、ここがいいっ」
イーレ君を引き取ろうとシスさんが手を伸ばしたが、イーレ君はアージェンに獅噛み付いてしまった。
あらら…。
タリスさんとシスさんは困ったな…。といった感じだ。
「タリスさん。今日の夕飯はもう決まってますか?」
夕飯作りを手伝って、そのままここで頂こうかと思ったんだが。
「はい。ハクマイを炊いて、じゃがいもを茹でようかと」
ん?
「ええと…もしかして、白米とじゃがいもだけですか?」
「いえ?パンもありますよ」
「……………。あー。タリスさん、俺と一緒に夕飯を作りませんか?それで、昨日みたいにここで一緒に食べさせて頂きたいんですが。」
「え?ハクマイとじゃがいもをですか?」
「……。それを少し、アレンジしたいです。付き合って頂けますか?」
「…? あ、はい」
きょとん、としているタリスさんに欲しい材料を書いて見せると。
育児所の食材では揃わないので、神官棟の厨房で分けてもらう事になった。
迷惑にならないか訊いてみたところ、いつも足りない時はそうしてるから大丈夫。とシスさんに言われた。
てな訳で、食材の調達は俺。イーレ君を抱っこしたアージェン。
タリスさんが宥めても離れなかったんだ。
シスさんと、タイミング良く帰って来たクルト君。
五人で出発。
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