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46・騎士棟の事務所

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 ウチの弟が、木に登って降りられない猫みたいになってる。

 いや、正確には木じゃなくて、背の高い生垣の上なんだ。

 その生垣の下でフレメンが手を伸ばしているけど、留愛は降りられない。

 留愛の気配を辿って来たけど、何でこんな事になってるんだ?



 何故あんなところに…と俺が困惑していたら。
 留愛の乗った生垣近くまで寄ったアージェンが抱えていた俺を降ろして。

 四つん這い状態になってる留愛に近づき。空間を足場にして生垣の上に飛び乗ったかと思うと、留愛を抱え上げて。
 ……飛び降りた。

 それは一瞬の事で、留愛は何が起きたのか分からない様子で呆然としている。
 俺もアージェンが何を足場にしたのか気にはなるが……でも今は。

 「留愛? 危ない事しちゃだめだろ?」

 落ちたら怪我をしていたところだ。

 「あ…兄ぃ~、僕達ね…遭難してたの~っ」

 中庭で遭難?
 遭難したら生垣の上に乗るのか?
 どうしよう…思春期って怖いな?

 「…そうか。助けてくれたアージェンに言う事は?」

 「アージェンさんが助けてくれたの? ありがとう。」

 「ああ。…それより、」

 フレメンの方をチラッと見たアージェン。

 「何故こんな事に?」

 「新手の遊びかと」

 「「…………………。」」

 「…行こうか」

 アージェンはまた俺を抱っこして、歩き出した。

 「兄ぃ。何で抱っこ?」

 「兄君は昨夜、

 「えぇ…、痛いの?」

 「痛みは無いそうだが、歩くのは辛そうだ」

 「そうなんだ?」

 アージェンは黙って頷く。

 あながち間違ってない。留愛にも良い感じに誤魔化せてる。
 でも、でも…、恥ずかしいっ

 「ルア様、個人発注の件は?」

 「なにそれ?」

 「ルア様の必要な物を注文、購入する事です」

 「えー、良いの?」

 「ああ、必要な事だ」

 アージェンが上手い具合に話を逸らしてくれた。

 で、ふと気付いたのが、さっきまでと歩く速度が違うんだ。
 さっきまでは俺を抱えていても、結構速かった。揺れは無かったけど、俺の早歩きぐらいの速さだ。

 でも今はゆっくり歩いている。
 これって、留愛に歩調を合わせてくれてるって思っても良いんだろうか。

 留愛と話しながらゆっくり歩くアージェンは格好良くて優しいお兄さんだな。



 そうして着いた騎士棟の事務所。

 「初めまして。
 隊長補佐のラミナです」

 背は俺より高いけど、細身で落ち着いた雰囲気の人だ。
 少し色気があって女性かな?と思ったけど、声が男性だった。

 「初めまして、ルキ・キヨミヤです」

 「ルア・キヨミヤです」

 「早速ですが、こちらのリストを見て頂けますか」

 事務室のソファに腰掛けた俺達に渡されたリスト。
 へぇ…、かなりの種類だ。

 「注文書に、商品名と個数を記入して頂ければ、だいたい三日に一度の配送で届きます。間に合わなければ、更に三日後になってしまいますが。
 気を付けて頂きたいのは…常時の欄に記入すると毎回届くので個人発注ではお勧め出来ません」

 だよな。同じ物が三日置きに届くんだもんな。

 あれ?

 「野菜とか果物の種類が少ないですけど、これは?」

 「ああこれは、奥宮にある温室や林で採れる物は載って無いんです。
 皆、そちらから勝手に持っていきますから。でないと育ち過ぎて大変な事になりますので」

 「へぇ、そうなんですね」

 野菜や果物は自家栽培かな?
 自分のほしい物を採れるってゆうのは楽しそうだ。

 「ねぇ、ねぇ。ラミナさん、牛乳とかビスケットは無いの?」

 留愛が真剣にリストを見てると思ったら、牛乳とビスケットを探してたのか。

 ッと?
 背中がゾワッとした。
 なんだ?今にも背中にナイフを突き立てられるような……。そんな感覚がして不快だ。

 そう感じたのは一瞬で、俺の斜め後ろに立って一緒にリストを見てたアージェンがスッと真後ろに移動したら、その感覚は消えた。

 何だったんだろう?



 その後も、商品の説明だったり。常備しておけば便利な物を相談しながら購入していった。

 支払いはどうするのか訊いたら。
 基本。俺達の食料品や衣類、日用品は神殿の経費だと言われ。

 個人的な買い物は。
 金庫ギルドといって、銀行みたいな機関があり。

 今、俺達の登録申請中だから、本人確認用の魔石が送られて来たら。
 それに自分の魔力を流して、ギルドに送り返す。

 そしたら後日、残高確認カード。
 自分の魔力を流せば、本人確認が出来る特殊なペン。
 ギルド専用の記入帳が送られて来て。
 現金の出し入れだったり、ギルド口座から直接買い物が出来るらしい。

 ATMみたいな物はなく。
 利用する時は必ず、専用の記入帳に特殊なペンで署名が必要で、その証書があれば本人が窓口に行かなくても代理人で済ませられるそうだ。

 魔力って、それ俺にも使えるのか?



 「本人確認用の魔石が届いたらお知らせします。
 今回はこれで発注して、届くのは三日後ですが。他にも必要な物があれば、その都度お知らせ下さい」

 「お願いします」

 俺達はラミナさんに挨拶をして騎士棟を出た。

 留愛はこの後。ティグリスさんを訪ねるとかで、育児所が気になっていた俺は、ここで留愛と別れた。

 まあ、一人じゃないから大丈夫だろう。




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