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36・子供は台風
しおりを挟むその日の夕食は育児所で食べた。
留愛が自分もここで食べたいと言い出したからだ。
あの後、留愛とクルト君、スティカ君が話し込んでいる間にキッチンを片付けて、隅の作業台でレシピ作りをしていたらタリスさんの部屋からシスさんが戻って来た。
そのタイミングで留愛が「ここで食べたい」と言い出し、その直後、子供達がワラワラとダイニングに雪崩込んで来て、俺は台風の予感を感じてレシピを片付けた。
子供達のワチャワチャ騒動に紛れてシスさんとスティカ君が食事を取りに行ったみたいで…俺は、ダイニングで準備を手伝う事にした。
ダイニングの入口近くに座っていた留愛を見て大騒ぎする数人の子供達。
留愛が抱っこしていたイーレ君を引き取るアージェン。
留愛を抱えあげ避難させるユース。
騒ぐ子達を抑えようと奮闘する少し大きめの子達。
おおう、台風だ。
俺はオロオロしているクルト君にそっと話し掛ける。
「クルト君、食事前の手洗いは済んでるのかな?」
「いえ、多分まだです」
「何処で洗うの?俺が手洗いさせるからクルト君はここをお願い」
「は、はい!こっちです」
クルト君に手洗い場を教えてもらったところで子供達の注意を引く。
「はいは~い、みんな~。
ご飯の前だから手を洗おう!」
声を掛けると「こっちもキラキラだぁ」と俺に関心を示した子達が寄って来た。
子供達と共に手洗い場に向かい。
背の届かない小さな子を抱えあげて手洗いを補助する。
留愛も小さい時はよくこうやって顔や手を洗った。
踏み台もあったけど、留愛は小さ過ぎて台に乗っても届かなかったんだ。
あの時は俺も子供で大変だったけど今なら難なく子供達を支えられる。
「今日はお兄ちゃん達も一緒に食べるからよろしくなー」
「ほんと?! わぁぁ、お客さんだぁっ」
「お兄ちゃん達キラキラで綺麗~」
「ハハッありがとう。」
留愛を見て興奮していた子達は手を洗いながら俺と話をしたからか、留愛フィーバーは少し収まった。
それでもまだ留愛の周りに群がっていた数人の子供達に、自分のお席を教えてくれるかな?って訊くと「こっち」って教えてくれた。
何とか全員座ってくれたけど、子供達はチラチラソワソワこちらを見てる。
うーむ、そんなに気になるんだろうか?
シスさんとスティカ君が食事を台車に積んで戻って来た。
サールさんも手伝ってくれたみたいで、先程まで書いていたレシピをサールさんに渡して。俺は三人にお礼を言う。
配膳中にタリスさんが部屋から出て来て、心配そうに子供達の様子を伺っていて……タリスさん。本当に子供が好きなんだなぁ。
「タリス…大丈夫なのか?」
「う、ん。シスだけじゃ大変だと思って…」
気遣うシスさんにタリスさんは歯切れが悪い。
大丈夫ではないけど、子供やシスさんの事が気になるんだろうな。
部屋にいても気になって休まらないならと俺は一つ提案をした。
「タリスさん、シスさん。お二人はカウンターテーブルで食べて下さい」
カウンターテーブルには丁度椅子が二つある。
そこなら子供達と少し距離があっても、全体を見渡せる場所だ。
隣にシスさんが居れば、タリスさんも安心だろう。
「子供達の食事は俺が見てます。
どうしても俺だけじゃ不足な場合は、補助をお願いします」
「で、でもそんな…申し訳ないです」
「慣れてるから大丈夫!
たまには二人でゆっくり食べて下さい」
「…………。申し訳ありません神子様。
お願いしても良いですか」
「シス?!」
「え~と、シスさん?神子ではなく留輝と呼んで頂けると嬉しいです」
「…名乗るのが遅れてすみません。
私は育児所でタリスの手伝いをしているシスと言います。
しかし神子様のお名前を呼んで良いのでしょうか。」
「二人いるからどちらの事か分からないでしょう?だから、ね。」
「ぁ、分かりました。
ではルキ様、お願いします」
「うん、任せて下さい」
慣れてるのは本当だ。
なんたって赤子の留愛を世話して来たんだ。
小学生の時は月一で高学年と低学年がペアを組んで食べるふれあい給食があった。
中学生の時は留愛と一緒に町内会の地域ボランティアに参加して、近所の子供達と遊んでた。
タリスさんもシスさんも、目の届く場所に居るし大丈夫。
ダイニングには六人がけテーブルが四つあり。
タリスさんがいつも座っている席に俺が座り、シスさんの席にはアージェンが座った。
普段はタリスさんの両脇に、三歳のイーレ君とその次に最年少の四歳の男の子に挟まれて食べるそうで。
タリスさんの向かいに座るシスさんの両脇は五歳の子で固められるらしい。
……いくら子供が好きでも毎食これじゃあ、落ち着いて食べれないだろうなぁ…。
でも今日はタリスさんとシスさんには二人でカウンターテーブルに座ってもらい。
俺の隣には四歳と五歳の男の子。
イーレ君?
イーレ君はなんとアージェンの膝の上!
留愛からイーレ君を引き取った後もずっと抱っこしてて、その流れで膝に乗せてご飯を食べさせている。
とは言っても、おやつを食べた後だ。
イーレ君が興味を示した物を少しずつ口に運んでいて、無表情だけど良いお父さんみたいになってる。
他の子達も、最初は何故かアージェンを怖がっていたけど、イーレ君を抱っこしているのを見て、少し緊張が解けたみたいだ。
俺や留愛のことが気になっていた子達も、食事が始まると、食べる事に夢中になり、夕食は和気あいあいとした雰囲気で終わった。
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