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31・和食が食べたい

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 ティグリスさんが騎士棟へ帰ってしまったので六人で食堂へ移動。

 留愛、クルト君、スティカ君と同じ年頃の子が集まってるのは見ていて微笑ましい。



 今日の昼食はポトフ。
 コンソメベースにたっぷり野菜とソーセージの旨味が出ていて美味しい。

 レシピ通りに作られていて美味しいが、俺はそろそろ和食が食べたい。

 そんな訳で昼食後はサールさんに和食の相談。

 留愛はティグリスさんの午後の訓練を見に行くと走り去ってしまった。
 今日も元気で何よりだ。

 クルト君は午後からも仕事があると言って去ってしまった。

 スティカ君は今日は食事当番だと言うことで一緒に厨房へ。



 アージェン、スティカ君と共に厨房に顔を出すとサールさんは歓迎してくれた。

 挨拶を交わし、一緒に作業台の椅子に座って今日作りたい物を説明しながらメモ帳に書いていく。
 こんなふうに誰かと材料の確認をし合ったり、工程を説明するのは楽しい。

 その様子を近くでスティカ君も見ている。



 元々の食材と、昨日俺が使える物を手当り次第購入した物とで、材料は全部揃ってる。
 さあ、必要な物を取りに行って下準備だ。

 まずは夕食時まで保冷庫で保管出来る物から作っていく。
 それと、乾物を水で戻す。

 出来るだけ手の空いた人にお願いして動いてもらう。

 ボウルで卵を解くのも一苦労。
 量が多いと結構な力仕事だ。
 けど、今ここに居るのは、どう見ても神官服にエプロン姿なのに、スティカ君以外皆んな俺より体格が良い。

 て、適材適所って言うしな?
 よし、任せた。
 一つのボウルに対して使うだし汁を渡して、俺はその間に胡麻和えの素を作る。



 だし巻きの焼き方を一つ教え、数人に焼いてもらう。

 沸騰した鍋にそれぞれ、カットしたほうれん草、菜の花。
 枝豆を投入。
 ほうれん草と菜の花は軽く茹でて、水に晒して絞ってもらう。

 ほうれん草に胡麻和えを混ぜれば一品完成。
 小鉢に盛って保冷庫へ。



 炊き込みご飯の合わせ調味料やポン酢を作っている間に茹で上がった枝豆を冷ましてムキムキ。
 この作業は留愛が好きなんだけど、居ないからスティカ君にしてもらった。

 スティカ君は留愛のように摘み食いをすることなく真面目に皮剥きをしている。

 頑張って作業をしているスティカ君の口に、剥いた枝豆を一粒入れると驚いた顔をしていた。
 うん、可愛い。



 冷ましただし巻きをカットして保冷庫へ。これでまた一品。

 酒と塩に浸けてある白身魚は時間を見て、焼いてほしいとお願いする。
 出来上がりにはポン酢だ。

 そうそう、ここは内陸だから海の幸は手に入り難いらしい。
 入ったとしても、お値段高めの冷凍か、もしくは乾物。
 だから魚は殆ど淡水なんだそうだ。

 少し早いが味噌汁も作ってしまう。
 水に晒しておいた椎茸と、一口大の人参。ネギで完成。

 残るは菜の花と桜エビの炊き込みご飯に、白身の塩焼きだけって時に事件は起きた。



 バタバタと近づいて来る足音。

 「スティカァ…っ、またイーレがギャン泣きしてるぅぅっ」

 十歳ぐらいの男の子が飛び込んで来た。
 いや、でもどうだろう。
 留愛と同じぐらいに見えたクルト君が十四歳だ。
 それより少し小さいスティカ君でも十三…、もしかしたらこの子も見た目より幼いかも?

 「……。また?無いものは無いって言っとけ」

 スティカ君、面倒くさそうだ。

 「そうだけど…、泣き過ぎて咽てるんだ。
 タリスもずっと付き添えなくて困ってる……」

 「………。ふぅ、ごめんねルキ様。
 俺、行ってくる」

 スティカ君はため息を吐きながらエプロンを外す。

 「あっ、ちょっと待って」

 何だか知らないけど大変そうだ。
 夕食準備は殆ど出来てる。
 アージェンの方を見ると、黙って頷いてくれたから、後はサールさんに任せて俺も行く事にした。



 道すがら訊けば、泣いているイーレは三歳の子で、治癒スキルがあるから神殿で保護してほしいと五日ほど前に預けられたらしい。

 それから事ある事に大泣きし、今はおやつが嫌だと泣いているらしい。

 行ってみるとそこは神官棟の裏手で、保育所みたいな建物だった。
 建物の近くまで行くと泣き声と共にゲホゲホと咽る音も聞こえる。



 くだんの場所に着けばおやつを食べていたであろうダイニングで、男の子が一人泣いていると言うより、声が枯れて過呼吸一歩手前だ。
 その様子を見て、スティカ君も呼びに来た男の子も動揺している。

 取り敢えず俺はその子、イーレ君に近づき、静かに声を掛けながら抱き上げた。
 縦抱きで軽く背中をトントンしながら、ゆっくり息を吐くように促し声を掛ける。

 俺は専門的な知識なんて無い。
 何がベストなのかなんて分からない。

 でも、大人の動揺が伝われば過呼吸を起こす程不安定な子供は、更に不安になる。
 そう思って、俺は出来るだけ動揺を隠し、静かに対応し続けた。



 暫くすると、規則的な呼吸が聞こえて来て、小さな身体がズシッと重くなった。
 俺の肩に頭を預けていて顔は見えないが、寝てしまったんだろう。



 どうしたものか。と思っていたら部屋に男性が来て、俺を見て声を上げかけたから、俺は人差し指を唇に当て、静かに。と伝えた。




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