上 下
28 / 71

28・side ティグリス 1

しおりを挟む


 毎朝の日課である朝の巡回をしている時に、それは感じた。

 いつもは獣化して王都周辺に魔獣が居ないか見回る。
 番が暮らす王都だ。少しでも安全に保ちたい。

 その後は神殿周りを見回り、浄化とをする。
 番の居る神殿に『銀の虎』有りと知らしめる為だ。

 だが、その日は王都周辺の巡回中に神殿…奥宮の裏庭付近から強い浄化力を感じた。
 近づいて来た訳ではなく、突然現れた浄化力。

 場所が場所なだけに俺は神殿に引き返した。



 様子からして、どうやら強い浄化力は神官棟に留まって居るようだ。
 状況確認の為、奥宮宮殿おくみやきゅうでんへ向かうと玄関口で番と鉢合わせをした。

 番も丁度、騎士棟へ行くところだったようで、俺達はそのまま番の部屋で朝食を取る事にした。




 番の食事は自分で作るか、手の空いた見習い神官が作るのだが、とても薄味だ。

 薄味を好む訳では無い。
 下手な事をして、おかしな味にしたくない。という神官ならではの慎重さから来る物だ。

 だから番は食事が口に合わなかった時の為に、自室にマヨネーズとコンソメ粉を常備している。
 これがあれば全て解決するらしい。

 因みに、飲み物は全て、湯に溶かせば完成する物ばかりだ。

 飲み物を凝縮させた粉を湯に溶かす姿は様になっている。
 カッカッカッと軽快に混ぜ解く指は靱やかで綺麗だ。

 今日の朝食もテーブルにパン、レタス、カットフルーツにコンソメスープと並び、マヨネーズがドンっと置かれている。

 だが、どんな食事の前でも番と一緒であればご馳走に見えてしまう。



 さて、

 俺の番。レクラムの話では、今朝神託を受けたと言う。

 他の者が聞けば疑うかも知れないが、俺は疑わん。
 なんたって俺の唯一、俺の番、俺の嫁の話だ。疑う余地など無い。

 例え、レクラムが晴れた日に雨だと言えば雨なんだ。
 なんなら雨雲を呼び、降らせたって構わない。

 ………まあ、俺の番はそんな我儘は言ってくれないが。



 その神託に従い裏庭へ行くと、髪も瞳も見事な銀を纏った少年が二人居たらしい。

 二人は兄弟で恐らく創成神の神子だろうと。
 今は神官棟で休まれているが、奥宮宮殿に二人の部屋を用意したい事。
 二人に付ける護衛のお願いをされた。

 番の願いとあらば容易い事だ。
 そんな事より、確認したい事がある。
 とても重要な事だ。

 「レクラム、裏庭には誰を連れて行ったんだ?」

 「……………、一人…」

 「ん?」

 「一人です」

 「ほう?」

 「…聞いて、ください」

 ああ。聞くとも、番の話ならいくらでも。
 俺は聞く体勢を取る為、レクラムの隣に席を移す。

 「神託を受けた時、既に神子様方は降臨していた。
 しかも手入れの行き届いていないあの裏庭だ。
 そんな所に長く待たせる訳には行かないでしょう?現に弟君の方は荒野と勘違いしてパニックを起こしていた。
 私が到着するのがもう少し遅れていたら、ひきつけを起こしていたかも知れない」

 俺はレクラムの話をよく聞く為、更に距離を詰める。
 詰め過ぎてつい、押し倒してしまったが、まぁ良いだろう。

 「創成神の神子様にその様な事はあっては…いけないでしょ?
 それに、ほらっ林の方へ入られても大変だっ…ぁっ、ちょっ…」

 「うん、それで?」

 番の匂いに引き寄せられて首筋や耳を舐めるぐらい許してほしい。
 話はちゃんと聞いている。

 「はっ…あんっ、だからっい、急いで、て…んぅっ」

 「そうか、それは仕方無かったな。
 だがな。お前の身に何かあれば俺は正気ではいられない」

 そう、この首筋の下の動脈や、この胸の下の心臓が脈打ってるからこそ、俺は正常を保てる。

 「あっあ…、ティグっ、乳首吸っちゃだめ…っまだ、各所…にっ連絡をっ…」

 「そうだな。連絡は大事だ。
 でも、その前に俺がどれだけお前が大切で、どれだけ心配したか、知る義務があるだろう?」

 「そ、それは…ぁっああんっ」

 「大丈夫。最後まではしない」

 そう、お前が俺の腕の中で生きている事を確かめるだけだ。



 その後。散々焦らして、啼かせてからイかせてやり。
 「次に同じ事をやったらお仕置きだぞ」と言った俺に。

 誘う様な眼差しで「その日の内にお仕置きされないと学習出来ないかも…」とか言い出した番の為、俺はその日の仕事を急いで終わらせるハメになった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

純情将軍は第八王子を所望します

七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。 かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。 一度、話がしたかっただけ……。 けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。 純情将軍×虐げられ王子の癒し愛

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします

槿 資紀
BL
 傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。  自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。  そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。  しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。  さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。  リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。  それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。  リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。  愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。  今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。  いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。  推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。  不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

処理中です...