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24・分からない感情

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 アージェンに体当たりをする勢いで元気な留愛が厨房に入って来た。

 「兄ぃ。もう動いて大丈夫?」

 アージェンに受け止められた体勢で心配そうに俺を覗き込む留愛。

 「大丈夫だよ留愛。
 それより、アージェンに言う事は?」

 「……。ごめんね?」

 あまり反省が見られない様子で、留愛はアージェンに謝りながら作業台に籠を置いた。

 中には沢山のイチゴが入っている。

 留愛は「ちゃんと一個ずつ洗ったんだよ」と楽しそうに話している。

 どうやらイチゴ狩りを楽しんで来たようだ。

 でも留愛一人が食べるには多過ぎる。確実にお腹を壊すだろう。

 留愛にどうする? と訊けば「これは兄ぃのお見舞いなの!」と言う。

 お見舞い? と思ったが、俺が食べるにしても、厨房にいるメンバーで分けるにしても多い。

 少し食べて、後はコンポートにして朝食に振舞っても良いか留愛に訊けば、留愛は目をキラキラさせている。

 決まりだな。

 よし! 夕食までにまだ少し時間がある。コンポート作りだ!




 今度は俺や留愛も混じってイチゴのヘタを取って行く。

 留愛がイタズラして俺の口にイチゴを突っ込む。
 砂糖もミルクも無いイチゴは酸っぱくて、俺はお返しとばかりに留愛の口にもイチゴを突っ込む。

 留愛は酸っぱい~っと騒いでいるが、それもまた楽しい。

 イチゴと砂糖をフライパンに入れ、炒め煮詰める。

 俺は……やっぱり、小さいフライパンを渡された。

 でも出来上がっていくコンポートをワクワクした表情で見てる留愛を見ると、まぁいっか! と思えて来る。
 楽しい。




 サールさんに、出来上がったコンポートは朝食のパンに付けて欲しいとお願いして、俺が書いたレシピも厨房の人がいつでも見て作れるようにして欲しいと渡し。
 俺達は食堂へ向かった。



 夕食は六人で摂った。

 俺を挟んで右にアージェン、左にアルヴィス。
 向かい側には留愛を挟んで、ユースとフレメンが座っている。

 フレメンはユースの補佐役で留愛の護衛だそうだ。

 今までは時間が合えば留愛と食べれたけど、合わなければ一人。
 それは留愛も一緒な訳で、六人でテーブルを囲む食事は楽しかった。



 食事を終えて部屋まで送ってもらって解散となり、ふぅっと息を吐いた。

 それは、いつもの暗く沈んだ気持ちを自分の中から追い出すものじゃなく。

 疲れたけど楽しかったな。というものだった。
 こんな感情は初めてかもしれない。



 俺はシャワーを浴び…、そう、着替えやタオルは洗濯済みの物が部屋に届けられていた。

 それを使わせてもらい、ベッドで休憩をした後。
 浄化石作りを始めた。

 浄化石はベルベットの敷かれた箱に十二個ずつ並べて入れるようになっていて、蓋を閉めればちょっとした高級チョコレートの外箱みたいだ。



 黙々と作業をしていたが、気付けば三箱。
 受け取った魔石は三分の一程減っていた。

 レクラムさんの無理の無い範囲。という言葉に甘えて、作業を止めてベッドにゴロンと転がった。



 今日。あの後普通に接してくれたアージェンの事が頭に浮かぶ。

 愛する者…か。

 アージェンはそう言ってくれた。
 愛するって、どんな気持ちなんだろう。

 俺が今、一番大事なのは多分留愛だ。

 でもそれは留愛が弟だから、俺より後に産まれたから、守らなきゃとか世話しなきゃって。
 保護者的な感情だ。

 …他人に目を向ける事も無かった。

 言い訳だけど、自分の事で一杯一杯だったんだ。



 俺が五歳の時に留愛が産まれた。

 母は二ヶ月休暇の後留愛を無認可保育へ預けた。
 夕方に一度。俺と留愛を自宅に連れ帰り。
 授乳して、食料とミルクの作り置きを置いて。
 また仕事に出掛けた。

 首もすわってない赤ちゃんだ。
 俺は死なせないようにするので必死だった。

 七歳になると食料では無く、お金を置いて行くようになった。

 学校から帰ると友人と遊ぶ事もせず。
 留愛が帰って来るまでに留愛が食べれそうな物を購入し。
 宿題を済ませた。

 留愛が帰って来ると…目が離せないからだ。

 十一歳になる頃には。
 少しずつ料理を覚え自炊するようになった。

 その頃には、留愛は小学生になっていたが……時間の余裕は出来なかった。

 母が月に二~三回しか帰って来なくなったからだ。
 留愛の世話も、家事も全て俺がした。

 父親?
 あの人も仕事仕事で、年に二~三回、家の中に居る様な気配を感じる程度。

 中学に入れば益々時間は無くなる。

 部活も…、家の事情から免除してもらって恋愛どころか、友達付き合いだって難しい。

 高校に入ると。
 出来るだけ早く手に職を付けたくて、バイトを始めた。

 大学進学を選べば、距離的に家を出る事になるからだ。

 留愛を残して行けない。
 幼い子が熱を出しても仕事を優先する親だ。

 留愛に何かあった時、直ぐに駆け付けられない距離には行きたく無かった。

 大学への進学では無く近場での就職を選んだ時。
 珍しく母が絡んで来た。

 そんな事で高収入を得られるのか。
 親の苦労が水の泡だ。
 自分の将来を潰す気か。
 と。

 半狂乱になって怒鳴り狂った。
 俺と殆ど接点の無い母の言葉は響かなかった。

 でもそれは一時的なもので。
 意思を変えるつもりは無いと分かったのか、時間が勿体ないと思ったのか。
 それ以降は何も言わなくなった。

 社会に出ると。
 何故か下心のある男ばかりが寄って来た。

 女の子は?と言うなかれ。
 何故か女の子には敬遠されるんだ。
 悲しい…。

 …俺は好きでも無い奴と軽い付き合いなんて出来ないし。
 もし変な事に巻き込まれたら、留愛にも飛び火するかもしれない。と他人ひととの間に線を引いて来た。



 つまり何が言いたいのかと言うと、
俺は恋愛をした事が無い!

 だから恋とか愛がどんな感情なのか分からないんだ。




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