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23・アージェンの補佐

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 「アージェン、留愛がどこにいるか知ってる?」

 「ルア様なら今は奥宮の温室だ。
 あちらにも二人付いているから大丈夫だろう」

 「そうなんだ?」

 そんな会話をしながら厨房に着くと、馴染みのある匂いがした。

 この世界に来てからずっとパン食が続いたし、異世界にあるとは思わなかった。

 けど、そうだよな。
 味噌や醤油、酒もあった。
 無い訳ない!白米だ!

 中に入ると、昼間いた神官さんが俺に気付き、出迎えてくれた。

 「ルキ様、お待ちしてました」

 「お邪魔します。
 あ、お名前を伺っても?」

 そう、この神官さん昼間も居たけど名前を聞いてない。

 「み、見習い神官のサールと申しますっ」

 見習い、なんだ?
 違ってたら申し訳無いけど、年齢的には四十歳近くに見える。

 「お恥ずかしい話しなのですが、私には治癒棟で施術を施せる程の治癒力が無いので…見習いなのです」

 俺、顔に出てたんだろうか。
 サールさんはしゅんとしながら説明をしてくれた。

 「そうなのですね。
 その辺の事はまだ良く分からないけど、夕食作りも頑張りましょう!」

 俺は空気を変える為に明るくそう言った。

「はいっ分かりました!
 あのっ大変、申し訳無いのですが、、時間的に厳しい物があり、先に作ってしまいまして! 申し訳ございませんっ」

 あれぇ? このくだり。

 うん。分かってる、俺ももう少し早く来たかったよ。
 でも、来れなかったんだっ
 しかも遅くなった理由が理由だしっ、謝らなきゃいけないのは俺!

 「気にしないで。
 何を作ったんですか?」

 「ハクマイです! あと、もやしスープです!」

 ん?

 「おかずは?」

 「おかず…は、ハクマイです」

 あれぇ? おかしいぞ~。
 俺の知識の中では白米はおかずじゃない。
 それとも、この世界の白米は俺の知ってる白米じゃないのかも。




 ……俺の知ってる白米だった。
 しかも炊飯器がある。
 大家族用のが八台も。

 因みにメニューを確認してみた。

 パン
 白米(塩味)
 きゅうり(油)
 もやしスープ(砂糖味)
 だった。

 今から仕込みは間に合わない。
 はい。来るのが遅い俺の所為です。



 味付けに待ったをかけ、サールさんに使っても大丈夫な物を訊きながら、保冷室と食材庫を確認する。

 ここの保冷室って中に入ると、冷蔵室と冷凍室に別れてて色んな物が揃ってた。

 中を確認している時に寒くなって…ふるっと震えると、アージェンが制服の上着を掛けてくれた。

 アージェンが寒いだろう? と訊くと「俺は鍛えてるから問題無い」と返された。

 さっきまでアージェンが着てた服だ。
 温かい……。



 必要な物と量をレクラムさんから貰ったメモ帳に書き込み、手分けして運んでもらう。

 人手は昼間より少し多いから何とかなると思う。

 厨房に戻って、炊き上がってる白米の熱と水分を飛ばす為に炊飯器の蓋を開けていくと、アルヴィスに止められた。

 「一つだけ見本を見せて後は指示を」

 いけない…。つい、一人で全部やる癖が発動してたみたいだ。

 そうだった、皆に覚えてもらわなきゃいけないから、皆に動いてもらわないと。

 俺はアルヴィスにありがと。とお礼を言い、指示を出した。



 アルヴィスがアージェンの補佐に付けられたのが分かる気がする。

 指示って言っても、俺が大きな声で皆に伝える訳じゃ無い。

 アルヴィスにやりたい事を伝えると、アルヴィスが手の空いてそうな神官を数名指名して、それを伝える。

 次の工程をまた別の神官さん達に指示してもらう。

 その繰り返しでどんどん食材が刻まれ、調味料も準備されて行く。

 凄い。
 アルヴィスに伝えただけで全ての準備が終わった。



 具材を炒める為に、よいしょって大きな中華鍋を取り出そうとしたら…、アージェンに片手で取り上げられ、アルヴィスに

 「お手本を」

 と、良い笑顔で小さめのフライパンを渡された。

 何なの、この連携。





 一度見本を見せたら、それに習って。

 きゅうりの中華サラダを作る人達。

 鶏肉ともやしの中華スープを作る人達。

 横半分に切ったパンに味噌とチーズを乗せてオーブンで焼く人達。

 チャーハンを炒める人達。

 と、綺麗に別れ。

 気付けば俺…、アルヴィスに伝えたり、細かい事を教えるだけで何にもして無い。





 手持ち無沙汰になった俺は空いてる作業台の端っこでレシピ作りを始めた。

 そう、ここの人達。
 料理が下手な訳でも味覚がおかしい訳でも無い。
 ただ調理の知識が無いだけなんだ。

 現に今、皆教えられた通りに動き、厨房内は良い匂いを漂わせ始めている。

 だから俺はレシピを書く。

 保冷室と食材庫に何があったか覚えてる。
 それらを使って作れる物を書いて行く。

 この作業も中々楽しい。
 アレンジ無しの基本的な物だけど。
 出来るだけ分かり易く。って考えながら書いていく。

 楽しい。





 ふと気が付くと、皆作り終えたのか俺の方を見ていた。

 アルヴィスに至っては生暖かい目をしている。

 俺、レシピ作りに没頭し過ぎた?

 アージェンは?
 アージェンは椅子に座っている俺の後ろだ。
 両手を作業台に付き、俺を囲ってレシピを覗き込んでいる。

 何故なにゆえこの体勢?
 温かいとは思ってたけどさ、何で気付かなかった? 俺。

 チラッと見上げると

 「発想が凄いな」

 と、耳元で囁かれた。
 だから何で耳元なんだよぅっ



 「あーーにぃ~っただいまっ、イチゴいっぱい取れたよ!」




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