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2・神殿長レクラムさん

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 サクサクと芝生…と言うには長めの雑草を踏み。建物に近づくと、白い石造りのレンガのような壁に、キラキラ男性より一回り大きい木の扉があった。そこをくぐると景色は一転。
 壁や床が、ほのかに黄色味かかったアクリル板の様な物で覆われていた。
 床の真ん中には絨毯が敷かれていて、足音もしない。

 ツルツルした表面に、ほんわりと光る壁。どんな素材なのか気になったが、ここは人様の家っ、勝手に触る事は出来ないと。黙って着いて行った。
 
案内された場所は、ゆったりとした応接室で。ソファを勧められた俺と留愛は、大人三人は余裕で座れるソファに一緒に座った。
 キラキラ男性が飲み物を用意して来ます。と、続き部屋に入っていったが、扉が無い為、中の音が聞こえてくる。

 たぶん、簡易キッチンみたいな所なんだろうけど、あんなヒラヒラした服でキッチンに立つのか? なんて考えていたら、中から カッカッカッ と何かを勢いよく混ぜる音が聞こえた。

 え、なに? 卵でも溶いてるのかな?
 そんな事を思っていたら、何事も無いように、優雅にワゴンを押して来るキラキラ男性。
 その上には高級そうな陶器のポットとティーカップ。温かい紅茶を三人分淹れて。向かいのソファに腰を下ろすと自己紹介から始まった。

 「改めまして、私はこの神殿の神殿長を勤めさせて頂いております。レクラムと申します。以後、お見知り置きを」

 「私は、清宮 留輝といいます」

 「僕は、清宮 留愛です」

 「キヨミヤ・ルキ様に、キヨミヤ・ルア様…、お二人共同じ名前なのですね?」

 「はい、兄弟なので…って、もしかして個人の名前の後に、家の名前でしょうか?」

 「そうですね、ファーストネームからのファミリーネームが一般的かと」

 俺達の名前を聞いて戸惑ってたから、もしかしてと思ったが、やっぱりそうか。
 普通に日本語だからうっかりしてたけど、レクラムさんの容姿も服装もバリバリ西洋風だもんな。

 「でしたら、私はルキ・キヨミヤで、こっちは弟のルア・キヨミヤです」

 「ルキ様にルア様、ですね」

 様付けされる事に、一瞬疑問を持ったが、レクラムさん、話し方丁寧だもんな。
 よく受付とかで「〇〇様~」って呼ばれるもんな。
 そんな感じなのかな? と流した。

 そして、事の経緯。

 レクラムさんは朝の祈りの時間前に
 『瘴気が濃くなった。浄化出来る者を呼ぶ』

という声を聞き。裏庭まで迎えに来てくれたのだそうだ。
 レクラムさんにとっても、突然の事だったらしい。

 俺も自宅前から突然。この別世界に転移した事を話した。

 それで浄化とは?って話になり。瘴気を浄化してほしいと言われた。

 瘴気というのは
 自然と大地に湧き出たり。生き物の悪感情から発生したり。魔獣を討伐した時にも発生するらしい。
 放っておくと、体調不良の人や家畜が増えたり。作物が育たなかったりするそうで。

 今までは『浄化スキル』と言って、ほんの僅かだけど、自分の周りの瘴気を浄化出来る体質の人達が巡回する事で、何とか頑張って浄化していたけど。この数年で、それも間に合わなくなって来たと。

 なら、俺達もその浄化をするには巡回をするのか? という問に、この国の王都内だけならそれも可能かもしれないが、全国規模となると、それは難しい。

 俺達ほどの浄化力を持っていれば、魔石に力を移す事も可能だろうから、各地に配置する為の浄化石を作ってほしい。と頼まれた。

 本当に、俺達にそんな事が出来るんだろうか? と思ったが、その髪と瞳が何よりの証だと言われた。
 なんでも。浄化力を持っている人間は、髪や瞳に『銀』が混ざるのだとか。

 遥か昔。世界の起源と言われる時代に、強力な浄化力を持つ創成神が降臨したそうで。その髪と瞳は、銀色だったと歴史書に書かれているらしい。

 浄化スキルを持った人に銀が混ざるのは、その名残りだろうと。
 レクラムさんも、髪や瞳のどちらかが銀に染まっている人間は極々稀に目にしたが、髪も瞳も見事な銀に染まっている人間を見たのは初めてだ。と歓心していた。

 そして、俺達をこの世界に呼んだのも恐らく創成神だろうと。

 元の世界に帰る。という選択肢についても聞いてみたが、この様な前例がないので、今のところは帰る術がない。とのこと。

 「衣食住の保証はもちろんの事。身の安全に関しても神殿内の者達に通達し。護衛も付けます。
 浄化をして頂く際、報酬も多少はお出し出来ると思います。
 可能な範囲で、ご要望にお応え出来るよう務めますので、どうか手を貸して頂きたい」
 
 と、レクラムさんは頭を下げた。

 この世界に転移した理由も、元の世界には直ぐに帰れない事も分かった。
 そして、この世界で行く宛ても、頼れる者もいない。
 ならば、答えは一つしか無いけど。俺は……少し時間が欲しい。と告げた。

 何故なら、自己紹介の後から、留愛が一言も喋ってないからだ。

 時間を貰う事は出来た。

 「年端のいかない貴方方が、このような事に巻き込まれ、戸惑う気持ちは分かります。
 この先どの様にしたいのか、ゆっくり考えて下さい。
 ですが、どの様な結論を出したとしても、私は大人として、そして一神官として貴方方を庇護したいと思っておりますので、その事は心に留めて置いて下さい。」

 と言ってくれたが、留愛はともかくとして、俺の年齢…勘違いしてる可能性があるな。

 俺達の部屋はまだ準備出来ていない為、しばらくの間は、神官達が使う部屋を使用してほしい。と別の建物に移動したけど。そこは外も中も綺麗な石造りだった。

 世話役となる側付も必要なら用意する。と言われ、具体的に何をする人なのか訊くと、着替えや入浴の手伝いの他、雑用だと聞き、それは断った。
 身の回りの世話は自分で出来るし、第一そんな人を付けられたら、自分自身が何様だよって思ってしまう。

 部屋に着くと、レクラムさんは、後で護衛を寄越しますね。 と言って去っていった。




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