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1・異世界転移

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「弟の異世界転移に巻き込まれたようですが、とりあえず俺はメシ炊き男になろうと思います。」

1・異世界転移異


 俺は清宮きよみや 留輝るき 現在二十一歳。
 両親は二年前に他界し、高校生になったばかりの弟と二人暮しだ、って誰に向けての自己紹介だよってツッコミは置いといて、んっ出来た!

 今日から弟の留愛るあは二泊三日のキャンプ合宿で、初日の昼は弁当が欲しいって言うからいつもより早目に起きて作ったんだ。
 近頃の留愛は、友達との付き合いで、昼は学食か購買で食べると言っていて、作らなくていいぶん楽にはなったが、ちょっと寂しかった。

 それに、最近の留愛は少し様子がおかしくて気になっていた。でも、思春期というやつかもしれない。と様子を見ることにしたんだ。

 それが今回のキャンプ合宿で弁当を作って欲しい。って言われた時は嬉しかった。
 さて、後は留愛が起きてるか確認して俺も出勤しないとって思っていたら、階段を降りる音が聞こえて来た。

 「兄ぃ~、良い匂い~」

 「おぅ、おはよう。 よく起きれたな、朝食は?」

 「へへっおはよーっ
 楽しみにしてたから、頑張って起きたよ! 朝は牛乳とビスケットでいいー」

 「ああ、キャンプ場の近くに湖があるんだったか」

 「そっ!スケッチするの!」

 相変わらず朝は少食だな。と思いながら楽しそうに話す留愛を横目に、残った弁当の具材を冷蔵庫に仕舞ったりしていたら、玄関に向かうタイミングが重なった。

 鍵閉めとくから、先に出ていいぞ。 と言うと「はーい!じゃ、行って来まーす! 」と軽快な返事をして出て行った。
 続いて俺も靴を履き、顔を上げると違和感を感じた。

 扉が開けっ放しなのは良いとしよう。
 この後直ぐ、俺も家を出るからな。
 でも、俺達の家は路地の突き当たりだ。ダッシュしたとしても後ろ姿くらいは見えるし、いくら若さがあるとはいえ、あんなデカいリュックを背負って早く走れるとは思えない。

 おかしいな。 と思いながら自分の荷物を持って、玄関を一歩出た瞬間。

 皆さんお分かり頂けるだろうか。階段を踏み外した時の浮遊感を、段差はもう無いと油断していた時に下りの段がまだ残っていた時の驚きを。

 まさに、それ!
 しかもここは玄関先。咄嗟に掴まりたい手摺りなど存在するはずも無く、俺はそのまま落ちた。





 落ちた距離は体感にして二メートル無いくらい、か。
 それでも充分な恐怖を味わったけどな! でも…、思っていたより衝撃は少なかった。

 上を見上げれば早朝の白みかかった空。
 周りを見渡せば、落とし穴ではなく見通しの良い平原。

 どういうことだ? と困惑していたら、下からバフバフと芝生を叩く音がする。
 視線を下げると、俺の尻の下でうつ伏せ状態の留愛が、一生懸命芝生を叩いていた。

 「っ…留愛?! 悪いっ」

 どうやら俺は弟を下敷きにしていたようで、慌てて飛び退いた。

 「うぇ~んっ内蔵飛び出るかと思ったぁぁ…っ
 もーっ、誰?!ウチの玄関前に穴掘ったの!集合時間に遅れるじゃん!……って、ここ何処?」

 「わからん」

 「僕達の家は?」

 「わからん」

 「どうやって帰るの?」

 「わからん」

 「キャンプは?」

 「それも…分からんな」

 「じゃあ、じゃあ、なんで兄ぃは銀色なの?」

 「それはお前もだ」

 「まじで?!」

 そう、留愛の髪と瞳は銀色に染まっていた。
 そして、留愛の言葉通りなら俺も同じだろう。

 体を起こしながら一通り騒ぎ、疑問を投げて来る留愛の問に答えていると、段々絶望的な顔になっていく留愛。

「それって…それってそれって、ラノベでよく見る異世界転生とか転移ってこと!? あれは小説の中の物語として! 自分とは関係無いから楽しんで読めるんだよっ! 主人公がピンチになっても、主人公だから何とかなるって精神で! 実際、いきなりこんな原っぱに召喚されても、自分の立ち位置が分からないんじゃ、どうしょうも無いじゃん! しかも召喚ってこう、専用の部屋で魔法陣の上でパァーって現れて、周りに偉い人達が居て歓迎されるんじゃないの?! なのに、なんでこんな荒野に放り出されるの?!! 上から兄ぃ落ちて来て地味に重かったし! 僕、武器なんて持ってないからモンスターに襲われたって、戦えないよ?! 逃げれる自信だってないしっ早くチート級の能力くれないと、周りに人も町も無いし絶望的じゃん!」

・・・、ノンストップで言い切った我が弟に拍手を贈りたい。
 そして、地味に重くて悪かったな。

よくさ、緊急時に必要以上にパニック起こしてる人を見ると冷静になれるって言うだろ?
 あれって本当なんだなって思ったよ。

 「貴方方が『浄化出来る者』ですね」

 背後から声をかけられて振り向くと、西洋ファンタジーっぽい司祭服を着た、金髪長身のキラッキラな美形男性が立っていた。

 「「浄化?」」

 「はい。先程神託が降りて、その直後に裏庭の空間が歪む気配がしたもので、もしやと思い、お迎えに参りました。
 ここでお話するのも何ですし、中に入りましょう」

 視線で促され、そちらを見ると大きな建物があった。
 いくら背後にあったからって、あんなデカい建物が近くにあるのに気付かなかったとは、俺も動揺してたのかな。もっとしっかりしないと。

 迎えに来たと言う男性は、俺達を案内する様に少し前を歩き。
 さっきの場所は神殿の裏庭で、荒野ではないという事。
 街の外には魔獣も出るが、神殿内で過ごす分には安全だし、護衛も付けるから安心してほしいと話した。

 どうやら、留愛の混乱振りを見ていたようだ。

 ウチの弟がスミマセン。 と言うと、笑って許してくれた。







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