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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第40話 竜闘5 リーヴァスの闘い
しおりを挟む竜闘第3戦目。
竜人側が勝つとチームの勝利が決まる一戦。
観客は驚いていた。竜舞台から黒竜族の娘が消えたと思った瞬間、人族の少年も姿を消してしまったからだ。
観客席から音が消えた。
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少年の姿を見失ったエンデは、すばやく周囲に視線を飛ばす。
舞台上にいなければ、空中に違いない。しかし、前と左右には、姿が無い。彼女は、確信をもって空中で身体をひねった。
背後だ!
彼女が振りむくと、そこにも少年はいなかった。
精神的な衝撃と、身体的な衝撃が共に彼女を襲う。
気がつくと、彼女は、竜舞台の上にうつ伏せに押さえつけれられており、手から竜刀がもぎ取られていた。
「参ったしてくれないかな。女性に怪我させたくないんだ」
頭上から静かな声がした。息も切らせていないその声を聞いたとき、彼女の闘気は別のものへと変化を遂げた。
「参りました」
エンデは、自分でも驚くほど静かな声で答えた。
審判が、勝敗を告げる。
「勝者カトー」
観客席から物凄い歓声が上がる。しかし、それは勝負を讃えるものばかりではなかった。
「女、ひっこめー!」
「竜闘を汚しやがって!」
「恥さらし!」
罵声は、次第に大きくなる。
「やかましいっ!!」
加藤の大音声が、観客の罵声をピタッと止めた。
「彼女を侮辱するのは、俺が許さない。文句があるやつは、ここに上がって来い!」
罵声を上げた者が全員、椅子の上で体を小さくしている。
加藤がエンデの手を取り、それを高く掲げると、さっきに倍して歓声が上がった。
「すげーぞ、カトー!」
「カッコイイー!」
「キャー、カトーくーん!」
会場が、物凄い歓声で包まれる。
「静かに。皆さん、お静かに!」
青竜族の主審が叫ぶが、効果が無い。
竜人の世界で沈黙をあらわす記号、卵の絵が書かれた板を手にした竜人達が場内を回る。
歓声は、15分ほども続いてやっと収まった。
審判が、そそくさと次の試合を呼びかける。
「迷い人側副将、前へ」
その声で、リーヴァスが竜舞台に上がる。
彼は、気負いも何も見られない自然体だった。
--------------------------------------------------------
竜人側の副将は、黒竜族の若者、ビガだった。
若手では、一番の戦闘力を誇る。
長身と生来の反射神経の良さが、彼の才能を開花させた。しかし、練習では他の竜人が遠慮しているから、彼自身、自分の力がどのくらいか測りかねているところがあった。
その上、子供の頃から日常的にご機嫌取りに囲まれていたから、プライドだけはべらぼうに高かった。
今回の竜闘のことを知った彼は、父ビギに頼んで選手枠に入れてもらった。すでに対戦相手も決まっている。
白髪の人族である。
老人というには、背筋が伸びたその姿は、若い頃、さぞや戦闘力が高かっただろうと推測される。しかし、今となっては、壮年期の強さは、見る影もあるまい。
彼には、新しい竜刀を試す、実験台となってもらおう。
次第に空が曇って来る。湿った風が吹きはじめた。荒れはじめた天気が、竜闘のこの後を暗示するかのようだった。
--------------------------------------------------------
「迷い人副将、リーヴァス。竜人副将、ビガ。第四試合、始め!」
審判の合図で、ビガは、腰だめに剣を構えた。
最新式の竜刀は、柄の一部を握ると、剣先が飛びだすという、従来の概念を打ちやぶるものだ。
飛び道具が禁止されている竜闘でこれを使えば、対戦相手は、なす術もなかろう。それが飛び道具であると物言いがついたときの言い訳も、すでに考えてあった。いや、そこまでの準備があって初めて、ビギは、息子に参加を許したのだ。
彼は、白髪の人族が、避けられないように相手の腹部に向けて剣を突きだすと、柄を握りこんだ。
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観客は、試合開始を告げられた直後、ビガが剣を突きだす姿を見た。
そして、光の線が、ビガの持つ柄とリーヴァスを結んだ。
ギィンンッ
可聴域ぎりぎりの高い音が、城内に響く。多くの者が耳を塞いだ。
そして、音が消えた竜舞台には、たった一人リーヴァスが立っていた。
--------------------------------------------------------
「し、勝者リーヴァス」
主審が告げるが、城内からは、歓声すら上がらなかった。
リーヴァスの足元には、ビガが倒れていた。剣先が無い剣を握った右腕が、竜舞台の端に落ちている。
リーヴァスは、すでに剣を鞘に納めていた。彼は、開始線で一礼すると、舞台を降りる。
救護班が、ビガの所に駆けつける。
その向こうでは、主審と話をするビギの姿があった。
主審が、再び竜舞台の中央に立つと、両手を頭上で交差させた。
「先ほどの判定は、取りけしです。リーヴァス選手は、規定外の攻撃をしたため反則負けとします」
場内がざわついた。
頭に茶色い布を巻いた人族の少年が、ゆっくりと竜舞台に上がった
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