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第六章 竜人世界ドラゴニア編
第26話 四竜社からの招待状
しおりを挟むラズロー邸を訪れた翌日、史郎達の所に予期していた者が訪れた。四竜社からの使いである。
イオの家を訪れた男は黒髪、つまり黒竜族の若者で、最初から喧嘩腰だった。
「おい。お前らが迷い人か?」
丁度、店の用意に出かけようとしているリーヴァスさんと俺に話しかけてくる。二人とも、男を無視して、黙々と準備をする。
痺れを切らした男が、リーヴァスさんの肩を掴もうとした。
ぱしっ、と音がして、男の手首をリーヴァスさんが握っていた。
「無礼ですな」
静かな口調がかえって怖い。
無表情なリーヴァスさんとは対照的に、男の顔が歪んでくる。
「放せっ! 痛いっ!」
男が、左手で、懐から何かを出そうとする。
ゴリッ
骨が鳴る音がする。男は左手を懐から離す。
声も出せないのだろう、苦痛でひどい顔になっている。
黒竜族は、やや顔が浅黒いから、顔色、分かりにくいんだよね。
リーヴァスさんの手を左手で、とんとん叩いている。参ったってことだね、きっと。
若者は、リーヴァスさんが手を放すと、右手を抱えこみ、地面にうずくまってしまった。
俺達が仕事場に向かって歩きはじめると、やっとのことで立ちあがった若者が追いかけてきた。
「ま、待てっ」
当然、二人とも待たない。俺達の後を追ってポルが家から出てきた。
「この人は?」
「お、お前でいい、これをこいつらに渡してくれ」
右手が利かないのだろう。男は苦労して左手で懐から封筒のようなものを出した。
ポルが俺の顔を見る。俺が首を左右に振ると、彼も黙って俺達の後についてくる。
「た、頼む。これだけでいいから受けとってくれ」
男が前に回って、封筒を突きだす。俺達は、それを無視してさらに先へ進む。
男は俺達の前に飛びだすと、とうとう座りこんでしまった。
「せめて、これだけでも受けとってください!」
男は必死の形相だ。
通行人が、何事かと集まってくる。
皆、黒竜族の若者が俺達に何か頼むために地面に座りこんでいる姿を見て、驚いている。
竜人は、プライドが高いからね。他種族に頭を下げるだけでも普通ではない。
「人にものを頼むなら、まずきちんと挨拶して、名前を知らせるのが普通ではないですかな」
リーヴァスさんが、当たり前のことを言う。周囲を取りかこんだ見物人も、みな頷いている。
「分かった、分かったから」
男が言うので、俺はリーヴァスさんとポルに目配せして、歩きだそうとした。
「分かりました、すみません。どうか、話を聞いてください」
「何ですかな」
リーヴァスさんは、やっと話を聞く気になったようだ。
「四竜社から来たミマスと言います。どうか、この手紙を受けとってください」
リーヴァスは、手紙を受けとった。
「あなたは、まだ若いのだから、失敗することもあるでしょう。以後、気をつけなさい」
彼が、優しく言うと、黒竜族の若者は左手で顔を覆った。
目の辺りをゴシゴシ擦っていたが、ペコリと礼をすると去っていった。
立ちさる時に、体の匂いを嗅ぐような仕草をしているのを見て気がついた。
役所で、俺から臭撃を受けた者の一人に違いない。
あの時は、兜をかぶっていたからね。
まあ、かぶっていなかったとしても、黒竜族の顔つきの違いは分からないのだが。
俺は、なぜ彼が最初から喧嘩腰だったのか、やっと理解した。
その後、いつものように大繁盛のお店を切りもりして、イオの家に帰った。
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夕食の後、地下二階の一室に、全員が集まった。
魔術灯の下、リーヴァスが、昼間黒竜族の若者から受け取った封筒を開く。
彼は、それをリニアに渡した。
「読んでいただけますかな?」
「はい。挨拶の部分は飛ばしますね」
リニアが、読んでくれた手紙の内容はこうだった。
迷い人は、竜人の国に滞在するとき、役所で許可をもらう必要がある。
あなた達は、まだそれを済ませていないから、本来罰を受けるべき立場にある。
しかし、迷い人は、この世界に慣れていないこともあるだろうから、四竜社まで出向くなら、罪には問わない。
期日は、二日後になっていた。
「さて、どうしますかな」
「そうですね……。リニアは、どう思う?」
俺は、この世界に詳しい彼女に話を振った。
「……そうですね。出向いた方がいいとは思いますが、罠を仕掛けているかもしれません」
四竜社の頭であるビギという男について、これまで集まった情報から考えるなら十分ありえる話だ。
「出向かないと、それが相手に口実を与えるきっかけになるわね」
コルナが、ゆっくりした口調でそう言った。
「ナルとメルは、行かない方がいいと思います」
ルルは、きっぱりそう言った。
「コリーダは、どう思う?」
「私も行きたいけど、戦闘になったら足手まといになりそうね」
「そうですな。私、シロー、ポルの三人で行きますか」
あご髭を撫でたリーヴァスさんが、そう言う。
「俺はいいのか?」
加藤が、俺に声を掛ける。
「加藤は、ここで皆を守ってやってくれ」
「分かった」
こうして、史郎は、四竜社からの招待を受ける事になった。
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