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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第17話 臭撃再び、そしてお肉販売作戦

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 史郎、ポルナレフ、黒竜族の女性リニアは、役所の中庭で武装した竜人達に取りかこまれていた。

 ハゲおじさんめ、またまた、やってくれたな。
 兵士の中で、もっともきらびやかな装備を身に着けた男が平坦な声で告げた。

 「我々と同行してもらおう」

 俺は、普段通りの声で応えた。

 「どこへ?」

 「お前が、そんな事を知る必要は無い」

 「あ、そう? じゃ、行かない」

 「なにっ?」

 「耳が悪いのか? お前達とは、い・か・な・い」

 俺がそう言うと、男の顔がまっ赤になった。
 竜人も怒ると顔が赤くなる、メモメモと。

 『(XωX)ノ ご主人様ー、そんな無駄なこと書かないでください』

 えー? でも、点ちゃん、これが後で重要な情報になるかも?

 『( ̄ー ̄) なる訳ないじゃないですか。ご主人様はこれだから』

 あ、そんなことを話しているうちに、竜人さん達の輪が縮まってるじゃない。

 「捕えろ!」

 顔を赤くした竜人が叫ぶ。
 俺とポルは、竜人の女を背中で守るような位置取りをする。
 若い竜人が棒でポルに打ちかかる。ポルは、それを短剣でさばくと、剣の柄で、したたかに竜人の胸を突いた。突かれた兵士は、言葉も無く崩れおちる。

 「ポル。凄い技だな」

 「ブレットさんから、対人用の技として習いました」

 俺達に余裕があると見て、竜人達の動きが慎重になる。
 ああ。そういえば、こういう手があったな。

 俺は、まず、役所内に放置してあった透明な悪臭拡散用パイプを枝分かれさせる。次に、その一本をこちらに伸ばしてくる。
 役所のドアに5cmくらいの穴が開いたから、あそこからパイプが出てきたのだろう。
 それをさらに分岐させ、竜人兵士達が着る鎧の隙間に固定した。
 一旦停止していた、悪臭拡散装置を再起動する。

 「な、なんだ、このにお……くさっ!」

 「うげえ!」

 「ぐわあ!」

 ああ、そうか。鎧の中は余り隙間が無いから、匂いが直撃するんだね。
 たった10秒ほどで、立っている竜人は一人もいなくなった。
 俺達の周囲は、箱型のシールドで覆ってある。点魔法の「付与 重力」で、その箱ごとコントロールして移動する。
 さっき出てきた建物のドアに点を付けて引きあけると中に入る。

 あー、さすがに皆さん、床で気絶してますか。あ、ハゲおじさんも倒れてるな。
 お礼に伸縮自在のパイプをつけておこう。

 『(@ω@) ご主人様ー、容赦ないですね』

 だけど点ちゃん。これ、俺達だから何とかなったけど、普通なら牢屋で野垂れ死にか、兵士に殺されちゃったかもだよ。

 『(・ω・) そういえば、そうですね』

 じゃ、お暇(いとま)するかな。
 点魔法の箱に乗って、建物を出る。門の所では、入るときに許可を出した衛士が、不審げな顔でこちらを見ていた。
 ああ、そうそう。匂いは建物の外に出ないようにシールドで覆ってあるからね。

 後1時間くらいしたら悪臭装置を停めてあげようか。

-----------------------------------------------------------------

 役所を出た史郎達は、行くあても無いので、少し途方に暮れていた。

 街に入って来た門から遠ざかる方向に、大通りを進んでみる。道の両側の商店が次第ににぎわいを見せてくる。商業地区に入ったようだ。
 こちらの空腹を刺激するようないい香りがしてくる。ポルのお腹が、くーっと鳴る。この世界に来てから、ろくなもの食べてないからね。

 俺は、あるアイデアが閃いて、行動に移すことにした。
 その辺りの食べ物屋で適当な店を探す。12、3才の女の子が店番をしているところに決めた。

 「こんにちは」

 「はい……あっ! 迷い人?」

 「そうだよ。今日は売れてるの?」

 「全然。このままだと、ジジのお肉を全部、豚のエサにするからもったいないの」

 「俺はシロー、こっちはポル。そっちのお姉さんは、リニアさんだよ。君の名前は?」

 「イオです」

 「イオ。お兄ちゃんが、よく売れる魔法を掛けてあげようか」

 「えっ! 本当!?」

 「うん、本当だよ。でも、そのかわり、もし全部売れたら少しお金を分けて欲しいんだ」

 「全部売れるならいいよ。やってみて」

 俺は、懐から塩を出すと、売れていない山積みの串肉に掛けていく。
 リニアの耳に口を寄せ、あることを頼む。
 彼女は、それを聞いて驚いたようだが、頷いてくれた。

 史郎達の、お肉販売作戦が始まった。

-----------------------------------------------------------------

 「まあ! なんて美味しいの! こんなの食べたことない」

 リニアの大声が、通りに響く。彼女は、旨そうに串肉を食べている。
 ポルは、大きめのパレット(板)で、肉の匂いが道に出ていくようにあおいでいる。
 通りすぎようとしていた商人風の竜人が、足を止めた。

 「姉さん。俺っち、この店の肉なら前に食べたことあるけど、それほどじゃなかったぜ」

 「じゃ、それから味つけを変えたのね。どうしてこんなに美味しいのかしら」

 「ちょいと待てよ。本当かい? おい、一つ売ってくれ」

 「はい!」

 イオが、温めなおした串肉を出す。男がイオに硬貨を渡し、肉を受けとる。彼は、一口食べて目を見開く。

 「本当だ! 旨くなってる」

 それを聞きつけた通りがかりのおばさん二人が、足を止める。

 「ねえ、あんた。本当にそんなに旨いのかい?」

 「ああ、騙されたと思って食ってみな」

 「お嬢ちゃん、私達にも一本ずつおくれ」

 急に売れだしたので、イオは笑顔である。
 
 「何これ! 本当に美味しい」

 「ホントだよ。一体、どんな工夫したんだい?」

 「迷い人から伝わった、秘伝のタレに漬けたんだよ」

 「おや、そうだったのかい」

 秘伝のタレ云々は、俺がアドバイスしておいたセリフだ。

 「そういえば、この人達は、迷い人だね」

 「ええ。美味しかったらまた買ってね」

 「それより、持ちかえりって出来るのかい?」

 「はい。できますよ」

 「じゃ、10本おくれ」

 「私も同じだけ」

 店の前が賑やかになったので、何があるのか見にきた人達が、どんどん買っていく。
 行列が、凄いことになった。通行の邪魔になるといけないので、リニアが列の最後尾で看板を持つ。看板は字をリニアに教わり、点魔法で作ったが、大きく「美味肉、最後尾」と書いてある。
 それを見て後ろに並ぶ人で、どんどん列が伸びていく。あっという間に、肉が売りきれてしまった。

 史郎、ポル、リニア、イオの四人は、空になった売り台の前で、ハイタッチをした。

--------------------------------------------------------------------

 イオが史郎達を家に招いてくれた。

 彼女の家は、貧しい人々が住む区画のさらに外れにあった。外壁のすぐ横にあり、外壁との間に小さな畑を作っていた。
 母屋の脇に小屋があるのは、イオが言っていた豚小屋だろう。
 地面上に1mくらいしか出ていない半地下の家のドアを開け、部屋に降りる。

 割と広いスペースだが、二間しかない。台所と居間を兼ねた部屋と寝起きする部屋があるだけのようだ。
 イオが奥の居室に入って行く。

 「お母さん、お肉が全部売れたよ!」

 「え!? 本当かい? 嘘じゃないだろうね」

 「このお兄ちゃんたちが手伝ってくれたら、すぐ売れちゃったよ」

 寝ていたのだろう。青い髪を整えながら、奥から中年の女性が出てくる。

 「おやっ!? 迷い人かい」

 「ええ、そうです。イオさんには、大変お世話になりました」

 「イオが何を?」

 「私達は、こちらに来たばかりなので、お金の持ちあわせがありませんでした。
 売り上げから、少し分けていただいたのです」

 「まあまあ、こちらの方こそありがとうございます。
 お肉が全部売れるなんて初めてなんですよ」

 「イオさんが上手に焼いたからですよ。いい娘さんをお持ちですね」

 「そんなことを言われたのは初めてです」

 お母さんは、頭を下げる。
 点ちゃん、ちょっと、診てあげてくれる?

 『(^▽^)/ はーい』

 どうかな?

 『(Pω・) 呼吸に関係する内臓が少し弱ってるけど、なんとかなりそう』

 じゃ、お願いするね。

 「お母さん、私は治癒魔術が使えます。もしよければ、ご病気を治してさしあげますが」

 「ええっ! 治癒魔術! この国では、ほとんど施してもらえませんよ」

 「お兄ちゃん、お母さんを治して!」

 「イオちゃん、分かったよ」

 俺は、手をかざすふりをして、治癒魔術を付与した点を母親の体内に入れた。
 彼女の胸が、光りだす。

 「これは一体! 胸が苦しくない……」

 「良かったね、お母さん! お兄ちゃん、ありがとう」

 「どういたしまして。これで、お母さんと一緒にお肉が売れるね」

 「うんっ!」


 竜人の親子は目に涙をためて抱きあっていた。
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